家庭血圧を指標とした高血圧の診断と治療

サイトへ公開: 2020年10月12日 (月)
『高血圧治療ガイドライン2019』での家庭血圧を指標とした高血圧の診断と治療のポイントについて紹介します。

高血圧の診断では、診察室血圧に加え、家庭血圧が大きな役割を果たす。わが国では、高血圧患者の76.5%、非高血圧者の38.5%が家庭血圧計を所有し1)、1世帯あたり1台に相当する家庭血圧計が稼働していると報告されている2)。加えて、今日の家庭血圧による高血圧診断基準は確立されていると考えられる。これらの背景から、高血圧の診断は、診察室血圧及び家庭血圧をもとに行い、両者の診断が異なる場合は、家庭血圧を優先させることがJSH2014で明記され、JSH2019においても同様の内容が記載されている(図)3)

日本高血圧学会:高血圧治療ガイドライン2019,20,2019

日本高血圧学会:高血圧治療ガイドライン2019,20,2019

では、高血圧の治療における家庭血圧の役割はどうか。JSH2019では新たに、臨床上の課題であるCQ(Clinical Question)とそれに対する推奨文を掲載しているが、その課題の一つとして「CQ1:成人の本態性高血圧患者において、家庭血圧を指標とした降圧治療は、診察室血圧を指標とした治療に比べ、推奨できるか?」が取り上げられている。家庭血圧を指標とした治療は、診察室血圧を指標にした治療と比べ、24時間自由行動下血圧平均値の低下に有用であることや、降圧治療中の家庭血圧は診察室血圧に比べて脳血管病発症・死亡リスクとの関連が強いという報告があることから、JSH2019では、CQ1の推奨文として「家庭血圧を指標とした降圧治療の実施を強く推奨する」としている3)

このように近年、高血圧の診断や治療において家庭血圧が重要な役割を果たしており、JSH2019における血圧値の分類へも、診察室血圧に加えて家庭血圧が追加された(表)3)
また、本分類において、診察室血圧による高血圧の診断基準はJSH2014と変わらないが、国内外の研究結果より、120/80mmHg未満と比較して、血圧が上がるごとに脳心血管病の発症リスクが上昇することが確認されていることをうけ、JSH2014において「正常高値血圧」、「正常血圧」、「至適血圧」とされていた分類の名称と拡張期血圧の範囲がJSH2019では変更された。具体的には、「正常高値血圧」は「高値血圧」となり、その拡張期血圧は85-89mmHgから80-89mmHgに、一方、「正常血圧」は「正常高値血圧」となり、その拡張期血圧は80-84mmHgから80mmHg未満に変更となった。また、「至適血圧」は、血圧値の範囲はそのままで、名称のみ「正常血圧」となった。
なお、家庭血圧での高血圧の基準値はJSH2014と変わらず135/85mmHgであるが、JSH2019では、未治療の一般住民を対象とした研究の結果から、診察室血圧による分類と同様に、家庭血圧の「高値血圧」、「正常高値血圧」、「正常血圧」の値を新たに定めている。
JSH2019において示されるように、高血圧の診断や治療において家庭血圧は重要な役割を果たす。また、血圧の分類の根拠となった試験などから示されるように、より厳格な血圧管理が心血管リスクを減少させる。今後、高血圧治療においては、家庭血圧を重視し、より厳格な降圧が重要な課題になると推察される。

日本高血圧学会:高血圧治療ガイドライン2019,18,2019

日本高血圧学会:高血圧治療ガイドライン2019,18,2019

【引用】

1) 小原拓 他: 血圧 13(4): 447-454, 2006
2) Shirasaki O, et al.: Blood Press Monit 6(6): 303-307, 2001
3) 日本高血圧学会:高血圧治療ガイドライン2019, 2019

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