高血圧治療における降圧薬の選択

サイトへ公開: 2020年10月09日 (金)
高血圧治療では、患者の背景や生活スタイルを考慮した降圧薬の選択が重要です。今回は『高血圧治療ガイドライン2019』における降圧薬選択のポイントについて紹介します。

高血圧治療の原則は生活習慣を改善することである。生活習慣の改善は、高血圧患者に限らずすべての人に推奨され、それ自体で有意な降圧効果を示す1)。しかし、血圧値が高くなるほど、生活習慣の改善のみでは、降圧目標値を達成することが難しく、降圧薬による治療が必要となる。
近年、わが国では様々な作用機序の降圧薬が承認されており、患者の背景や生活スタイルに合わせた治療が選択可能である。では、どの薬剤を第一選択薬として選ぶべきか。
JSH2019では第一選択薬としてARB、ACE阻害薬、Ca拮抗薬、利尿薬、β遮断薬(含αβ遮断薬)の5種類の主要降圧薬の中から、積極的適応(表)、および、禁忌や慎重投与となる病態を考慮して患者個々に合致した薬剤を選択することを推奨している。加えて、積極的適応のない場合はARB、ACE阻害薬、Ca拮抗薬、利尿薬から選択することとしている1)

日本高血圧学会:高血圧治療ガイドライン2019 77, 2019

日本高血圧学会:高血圧治療ガイドライン2019 77, 2019

なお、本表はJSH2014においても掲載されていたが、積極的適応の項目の「心不全」は「LVEF(左室駆出率)の低下した心不全」へ、「CKD*(蛋白尿+)」は「蛋白尿/微量アルブミン尿を有するCKD」に変更となった。加えて、「CKD(蛋白尿-)」、「脳血管障害慢性期」、「糖尿病/メタボリックシンドローム」などは本表への記載から削除され、別の項において説明されている。

また、クリニカルクエスチョン(CQ)を立てて、合併症を有する高血圧患者における降圧薬の選択について詳細に検証したものもある。例えば、糖尿病を合併する高血圧患者に対する降圧薬として「CQ12:糖尿病合併高血圧の降圧治療では、Ca拮抗薬、サイアザイド系利尿薬よりも、ARB、ACE阻害薬を優先するべきか?」が取り上げられている。ARBやACE阻害薬といったRA系阻害薬と他の降圧薬を比較したメタ解析の結果、心血管疾患の発症や死亡、全死亡において、RA系阻害薬が優れる傾向にあるものの、有意な結果は確認されていない。しかし、糖尿病性腎症の進展に関して、多くの臨床試験の結果からARBやACE阻害薬が有用であるといったデータも示されているため、「糖尿病合併高血圧患者における第一選択薬となる降圧薬は、ARB、ACE阻害薬のみならず、Ca拮抗薬、サイアザイド系利尿薬も推奨する。ただし、微量アルブミン尿、あるいは蛋白尿を併存する場合は、ARB、ACE阻害薬のいずれかを推奨する。」とされている。加えて、糖尿病を合併する高血圧患者の降圧薬選択においてはインスリン感受性や、糖・脂質代謝への影響について十分な配慮が必要となることも従来通り述べられている。

また、血圧と腎機能は相互に関連し、高血圧は腎機能障害を引き起こしCKDの原因となる。CKDを合併する高血圧患者は、尿蛋白の有無によって推奨される降圧薬が変わる。尿蛋白の有無に分けて降圧療法の第一選択薬がRA系阻害薬かどうかを検証したランダム化比較試験のメタ解析の結果より、尿蛋白を有するCKDでは、RA系阻害薬が他の薬剤より有意に腎不全の進行を抑制し、尿蛋白を有さないCKDでは、RA系阻害薬と他の薬剤の間に有意な差が見られなかったことから、「CQ10-1:糖尿病非合併CKD(尿蛋白あり)での降圧療法の第一選択薬はRA系阻害薬を推奨する。/CQ10-2:糖尿病非合併CKD(尿蛋白なし)での降圧療法では、通常の第一選択薬(RA系阻害薬、Ca拮抗薬、サイアザイド系利尿薬)のいずれかを推奨する。」とされている。

糖尿病を合併する高血圧患者であっても、尿蛋白の有無によって推奨される降圧薬が「RA系阻害薬」、または、「RA系阻害薬を含む通常の第一選択薬」と異なる。このように、降圧薬選択の際には、合併症のみではなく、その患者の背景をしっかりと考慮する必要がある。降圧薬選択の際には、JSH2019に示された積極的適応や、CQなどから、患者の病態に合致した降圧薬を選択したうえで、降圧目標を達成することが重要である。

*CKD(Chronic Kidney Disease):慢性腎臓病

【引用】

1) 日本高血圧学会:高血圧治療ガイドライン2019, 2019

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