心血管疾患予防のために重要な「厳格な血圧管理」

サイトへ公開: 2020年10月12日 (月)
『高血圧治療ガイドライン2019』における心血管イベント抑制を踏まえた降圧目標のポイントについて紹介します。

高血圧治療の目的が、「心血管疾患の発症を予防し、患者がより健康で、高いQOLを維持すること」であることは言うまでもない。では、高血圧治療において、どこまで厳格に血圧を管理するべきか。これは高血圧治療において大きな課題である。
JSH2019で新たに追加されている臨床上の課題(CQ)において、厳格な血圧管理に関して、「CQ3:降圧治療において、厳格治療は通常治療と比較して心血管イベントおよび死亡を改善するか?」が取り上げられている。国内外において厳格な治療による有用性を検討する様々な試験が報告されているが、それらの結果において130/80mmHg未満への厳格な血圧管理は、有害事象を増加させることなく、複合心血管イベントや脳卒中のリスクを有意に低下させることが示されている。これらのエビデンスをうけ、JSH2019では、「心血管イベントの抑制のために、高血圧の治療目標は130/80mmHg未満を推奨する。個別症例においては副作用の出現など忍容性に注意する。」という推奨文を掲載している1)

また、高血圧患者の多くは合併症を有する。例えば、わが国の高血圧患者は非高血圧者と比較して、糖尿病の合併率が2-3倍高いことが報告されている1)。糖尿病と高血圧はいずれも心血管疾患の重要な危険因子であり、糖尿病を合併する高血圧患者における心血管疾患発症の予防においては、血糖管理と共に血圧管理が重要になると推察される。JSH2019で追加されたCQで「CQ11:糖尿病合併高血圧の薬物療法では、脳心血管病の発症を低下させるために、収縮期血圧降圧目標として140mmHg未満よりも130mmHg未満を推奨するか?」が取り上げられている。わが国で行われたJ-DOIT32)において、収縮期血圧130mmHg未満での脳心血管病発症抑制効果が確認されていることから、「脳心血管病発症を低下するために、収縮期血圧130mmHg未満(家庭血圧は収縮期125mmHg未満)を目指すことを推奨する。」としている。

このように厳格な血圧管理が重要であることは様々な試験から確認されており、JSH2019では冠動脈疾患患者や75歳未満の成人、または、75歳以上の高齢者の降圧目標をより厳格な値としている(表)1)
具体的には、JSH2014で、若年、中年、前期高齢者患者や、冠動脈疾患患者の診察室および家庭血圧の目標値がそれぞれ、140/90mmHg未満、135/85mmHg未満であったのに対し、JSH2019では、75歳未満の成人、冠動脈疾患患者の目標値をそれぞれ130/80mmHg未満、125/75mmHg未満へと、より厳格な目標値へ変更した。
後期高齢者の診察室降圧目標値についてはJSH2014において150/90mmHg未満で、忍容性がある場合は、140/90mmHg未満としていたが、JSH2019では、75歳以上の高齢者の診察室降圧目標値は140/90mmHg未満とより厳格な値と変更されたうえで、併存疾患などがあり、忍容性がある場合は、さらに低いレベルの130/80mmHg未満を目指すとされている。加えて、家庭血圧の目標値も145/85mmHg未満(目安)から135/85mmHg未満へと引き下げられた。
また、JSH2014では脳血管障害患者の降圧目標値は診察室および家庭血圧の目標値がそれぞれ、140/90mmHg未満、135/85mmHg未満(目安)であったのに対し、「両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞なし」、あるいは、「両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞あり、または未評価」で分類し、両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞なしの脳血管障害患者の降圧目標値をそれぞれ、130/80mmHg未満、125/75mmHg未満へと、厳格な値へ変更した。

降圧目標

日本高血圧学会:高血圧治療ガイドライン2019,53,2019

様々な試験から示されているように、より厳格な降圧は、心血管疾患発症の予防となる。高血圧患者がより健康で、高いQOLを維持するためには、個々に応じた降圧目標を達成することが重要である。近年は合剤を含む様々な降圧薬が承認・発売されている。それらを適切に使い分けて、今回のJSH2019で示された新たな降圧目標の達成を目指したより厳格な血圧管理を行うことが重要と考えられる。

【引用】

  1. 日本高血圧学会:高血圧治療ガイドライン2019, 2019
  2. Ueki K et al.: Lancet Diabetes Endocrinol 5(12): 951-964, 2017
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