膠原病に伴う間質性肺疾患(CTD-ILD)における臨床的課題の解決に向けて

サイトへ公開: 2023年06月13日 (火)
多彩な臨床症状を呈するCTD-ILDにおける臨床的課題についてご紹介します。

はじめに

関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス(SLE)、全身性強皮症(SSc)などの膠原病は、多彩な臨床症状を呈する自己免疫疾患です。膠原病では疾患を問わず呼吸器疾患の頻度が高く、気道、間質、血管ならびに胸膜に多彩な病変を来たし、きわめて重要な予後規定因子で、現状でも関節リウマチ、全身性強皮症、多発性筋炎/皮膚筋炎、ならびに混合性結合組織病における死因の第1位を占めています1)。なかでも間質性肺疾患(CTD-ILD)の頻度が高いことに加えて、臨床経過,治療反応性や予後が極めて多様であるため、QOLや予後の観点からどのように診断や包括的治療を進めていくかが、呼吸器科医にとっても膠原病科医にとっても非常に重要な課題とされています2)。臨床上における主な課題としては、早期診断、臨床経過や治療反応性などの評価、原疾患の鑑別、合併症管理、治療における各薬剤の意義と検討課題の整理などが挙げられています2)
ここでは、CTD-ILDにおける包括的治療目標(表12)のひとつである将来リスクの低減を見据えた、早期発見/死亡の予測因子に関する最新の知見をご紹介します。

表1 CTD-ILDにおける包括的治療目標

表1 CTD-ILDにおける包括的治療目標

1.早期発見のための予測因子―関節リウマチに伴う間質性肺疾患(RA-ILD)

フランスESPOIRコホートのRA患者において、2010年EULAR/ACRのRA分類基準を満たし、読影可能な胸部高分解能CT(HRCT)データが得られた163例を対象にした横断的前向き研究では、RA-ILD発症の予測因子が複数同定されました3)。各層別因子によるリスクマトリックスでは、MUC5B rs35705950 T リスクアレルを保有せず、RA発症時の年齢が49歳以下で、平均DAS2-ESRが2.9以下の女性患者の場合、無症候性RA-ILDの確率(オッズ比[OR])は2(0.3–5.7)である一方、MUC5B rs35705950 T リスクアレルを保有し、RA発症時の年齢が58歳以上で、平均DAS28-ESR疾患活動性スコアが4.3を超える男性患者の場合は、ORが最大94.9(72.1–99.3)(図1)という結果が示されました。また、MUC5B rs35705950を除外した単純化モデルを作成して評価したところ(図1)、MUC5B rs35705950を除外すると、適合度が低くなることが示され(likelihood ratio test、p=0.01)、この遺伝子変異が無症候性RA-ILDの発症リスクに寄与していることが示されました。
これらの結果は、MUC5B rs35705950のような遺伝子変異評価を含めたリスクスコアの評価が、将来的なRA-ILDスクリーニングの推奨事項にも影響を与える可能性があることを示唆しています。

図1 潜在性RA-ILDのリスクマトリックス

図1潜在性RA-ILDのリスクマトリックス

2. 死亡の予測因子ー全身性エリテマトーデスに伴う間質性肺疾患(SLE-ILD)

フランスの全国病院医療情報データベースを用いた前向きコホート研究では、SLE患者における慢性ILDの有病率、発症率および生存率が評価されました4)
2011年から2012年に初回入院し、初回入院から2020年までの期間にフォローアップが可能であった16歳以上のSLE患者10,460例のうち、ベースラインでILDと診断されたのは134人 (1.2%) でしたが、なかでもSLEに加えてシェーグレン症候群(SS)やSScなどの自己免疫疾患を合併する患者でILDの頻度が高いことが示されました(29.9% vs. 5.9%、p<0.0001)。また、多変量解析では、ILDとSLEの死亡リスクの上昇に有意な関連が認められました(ハザード比; 1.992, 95%CI; 1.420–2.794, p<0.0001)(図2)。ベースラインでILDの診断がされなかったSLE患者31,029人のうち、2013年から2020年の間に795人(2.6%)がILDを発症しており、SLEにおけるILDの発症率は1,000人年あたり10.26と推定されました(95%CI; 10.24–10.28)。
これらの結果から、SLEにおいてはILDの合併はきわめてまれである一方、SLEに加えて他の全身性自己免疫疾患を合併していることがILD合併にも関与している事が示されました。またILDはSLE患者における予後悪化の主要な危険因子であると考えられます。

図2 SLE患者のベースラインにおけるILD有無別の生存率

図2 SLE患者のベースラインにおけるILD有無別の生存率

おわりに

CTD-ILDに対する包括的治療を目指すうえでの臨床上の課題について、早期発見および死亡の予測因子に関する最新の知見をご紹介しました。CTD-ILDの経過はきわめて多彩であるため、ILDの発症や転帰が予測できれば、患者さんの将来リスクの低減に有用といえます1)。今後さらに知見が集積され、早期発見による治療介入や、死亡の予測因子の同定が実現されることにより、患者さんの予後やQOL向上につながることが期待されています。

  1. 近藤 康博, ほか. 日内会誌. 2021; 110: 268-273.
  2. 日本呼吸器学会・日本リウマチ学会合同 膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020 作成委員会 編. 膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020. 東京: メディカルレビュー社; 2020.
  3. Juge PA, et al. Arthritis Rheumatol. 2022; 74: 1755-1765.
  4. Mageau A, et al. Respirology. 2022; 27: 630-634.
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