シリーズ「糖尿病診療10年の変遷-糖尿病チーム医療の変遷-」

サイトへ公開: 2021年08月31日 (火)
嶋田病院の赤司 朋之先生に、この10年間におけるチーム医療の重要なトピック、チーム医療の実践事例、そして今後の展望についてご解説いただきました。

糖尿病チーム医療の変遷

赤司 朋之 先生

監修 赤司 朋之 先生
(医療法人社団シマダ 嶋田病院 糖尿病内科部長)

過去10年間の糖尿病治療の変遷を各領域のエキスパートにご解説いただく連載企画「糖尿病診療 10年の変遷」。糖尿病診療においてチーム医療の重要性は古くから認識されてきましたが、近年各地で地域包括型の糖尿病診療連携の取り組みが進められています。今回は、糖尿病チーム医療の変遷と地域における連携の課題、その解消を目指した地域連携の実践例について、嶋田病院の赤司 朋之先生にご解説いただきました。

●チーム医療の必要性とその拡大

糖尿病はきわめて有病率が高く、病態・重症度が多様な疾患です。糖尿病治療の3本柱である食事療法・運動療法・薬物療法を実践するためにはさまざまな職種の介入が必要であり、全身に合併症が起これば複数の診療科を跨いだ治療が求められるため、糖尿病専門医だけで対応することは不可能になります。そこで、糖尿病管理においては非糖尿病専門医や一般開業医との病診連携に加え、看護師、薬剤師、管理栄養士などの複数の職種が連携するチーム医療の体制づくりが求められてきました。わが国では1980年代の医師・管理栄養士による食事指導中心の療養指導から、1990年代には多職種のメディカルスタッフが中心的役割を担う広範囲な療養指導、特に運動療法の指導が充実していきます。
そして2000年代には、より高度な療養指導実現のために日本糖尿病療養指導士(CDEJ)認定機構が発足し、2001年にCDEJの第1回認定試験が行われました。一方で地方においても1996年の北九州地区を皮切りに、地域糖尿病療養指導士(CDEL)の活動が全国各地で自然発生的に立ち上がっています。こうして2000年代以降、高度な知識と経験を備えたCDEJ・CDELが療養指導を行う体制の整備が進められました。

●施設完結型から地域包括型のチーム医療へ

2000年代に実践されていたチーム医療は、主に施設内で完結する院内チーム医療でした。2010年代にはフットケア・腎症の進展予防、高齢患者さんのケアなど、個別の目的に応じたチーム医療の充実が図られるようになりますが、地域連携を前提としたものではありませんでした。2008年の診療報酬改定で新設された「糖尿病合併症管理料」は、外来での医師・看護師による糖尿病のフットケアの普及を目指しており、2012年の診療報酬改定で新設された「糖尿病透析予防指導管理料」も、同一施設内で糖尿病治療・療養指導の経験を有する医師、看護師または保健師、管理栄養士が同時に指導するチーム医療を算定要件としています。
一方、2010年代には今後予想される高齢糖尿病患者さんの激増、認知症の併発頻度の上昇が新たな課題となり、行政においても地域の眼科医・歯科医などとの連携、かかりつけ医との病診連携、さらには医療・介護連携を見据えた地域包括型の療養指導・支援体制の構築が求められるようになりました。具体的には厚生労働省において2012年に地域包括ケアシステムの理念が打ち出され、地域でのシステムづくりが推進されたほか、2015年には日本健康会議が発足し、「健康なまち・職場づくり宣言2020」が採択されました。本宣言にはかかりつけ医等と連携して生活習慣病の重症化予防に取り組む自治体を800市町村、広域連合を24団体以上とすることが含まれ、重症化予防の取り組みに糖尿病対策推進会議等の活用を図る旨が併記されています。
このように、糖尿病のチーム医療が施設完結型から地域包括型へとシフトしていったことも2010年代のトピックといえるでしょう。

●地域における糖尿病チーム医療の課題解消を目指して

1.チーム医療の課題と「糖尿病連携手帳」

糖尿病患者数に対する糖尿病専門医の少なさを解消し、多様な併存疾患を有する高齢患者さんの増加に対応するために、糖尿病のチーム医療は連携職種の拡大を目指してきました。しかし、現在各地で取り組まれている糖尿病診療連携は主導母体が地方自治体や医師会、NPO法人など多様であり、今後はこれらの主導母体を1つにまとめて効率化していくことが求められます。
一方で、診療を行う各地域の事情により、連携の形式や運用方法の統一が難しいという問題もあります。チーム医療を支援するツールとして、2010年に糖尿病患者用の診療記録ノート「糖尿病連携手帳」の初版が日本糖尿病協会より発行されました1)。2016年の第3版の改訂からは私も参加し、地域連携を念頭に置いた内容に大幅な見直しを行いました。眼科・歯科受診記録を見開きページに集約した「他科の受診状況」のほか、「合併症関連検査」のページでは糖尿病に関連する合併症の評価項目を一覧で確認できます。2016年に日本医師会・日本糖尿病対策推進会議・厚生労働省の三者協定に基づいて策定された「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」が公開されましたが2)、「糖尿病連携手帳」は本プログラムにおいても情報共有ツールとして活用されています。さらに2020年の改訂第4版では検査計画のカレンダーが追加されました。これによって「地域連携パス」の基本ツールとしても、益々使いやすくなりました。

2.福岡県小郡・大刀洗地区のチーム医療と地域連携の取り組み3)

福岡県小郡・大刀洗地区の基幹病院である当院では、2007年9月より同地区で循環型糖尿病地域連携パスを開始しました。同地区の特色として、連携コーディネートナースの配置が挙げられます。まず、院長の許可を得て糖尿病療養指導士1名と保健師1名を連携専属コーディネートナースとしてパートタイム雇用しました。コーディネートナースは診療情報提供書と外来指導担当のCDELが作成した連携パスシートを地域の診療所に直接持参し、ディスカッションによる受診報告を行います。同地区ではこうした「顔の見える連携」を重視してきました(図1)。その際、パンフレットや資料を用いてなぜこの患者さんにこの薬を選んだか、なぜこの検査が必要か、どういった結果が出たらリスクがあるかを診療所の先生に説明し、検査や治療の意味を理解いただいたうえで連携するように努めています。また、「再診のお知らせ」を使った連携パス登録患者の受診管理、ドロップアウトした患者さんへの受診再開勧奨の手紙の郵送、診療所スタッフの理解や知識の底上げや相談・質問への対応のほか、地域全体への糖尿病啓発活動として患者指導用パンフレットの指導・配布、診療所での出張糖尿病教室の開催、院外調剤薬局の連携構築を行っています。
さらに、2013年1月より歯科医師・歯科衛生士向け勉強会と情報交換会を開始し、歯科医科連携の構築に取り組んできました。歯科-医科の情報共有ツールとしては当時第2版であった「糖尿病連携手帳」を活用し、記載欄の項目不足に対応するため必要な項目表を追加した歯科診療記録シールを作成、連携手帳の余白欄に貼付できるようにしました。また連携手帳の活用を促すため、受診時に連携手帳の提出を呼びかける立て札を配布し、診療所で設置依頼を行うほか、他地区の取り組みを参考に連携手帳貼付用の「血糖コントロール目標シール」「低血糖リスクシール」を作成、コーディネートナースが連携施設を訪問して貼付協力を依頼しました。このシールは、その後日本糖尿病協会でも「自己管理応援シール」として配布が開始されました。
これらの地域包括型のチーム医療の取り組みにより、小郡市の75歳以上の被保険者1,000人あたりの透析人数は福岡県の他市に比べて少なく、県平均を大きく下回る成果を上げています4)

福岡県小郡・大刀洗地区のチーム医療と地域連携の取り組み

●おわりに

糖尿病チーム医療と地域連携の変遷の歴史、さらに福岡県小郡・大刀洗地区におけるわれわれの実践例をご紹介しました。近年、情報共有ツールとしてITの活用が推進されていますが、地域包括型のチーム医療において最も重要なポイントは連携に関わる全スタッフの理解や知識の底上げにあると考えています。連携は各医療機関のスタッフが糖尿病という疾患を理解し、検査・治療の意味を十分に理解し正しい技術を持っていることが前提となります。そのためには地域の基幹病院がコーディネートナースのような繋ぐ役割を果たす職種を配置し、顔の見える連携を構築していくことが重要です。
今後、力が及ぶ範囲の多職種のスタッフの理解や知識を底上げすること、顔の見える連携を構築することが糖尿病専門医の役割になると考えています。医師がコーディネートナースやCDEJ・CDELなどのスタッフを信頼し、医師だけでは収集できない患者さんの情報を有効活用することでチーム医療が活き、連携がうまく回るようになるはずです。地域の連携医療機関、メディカルスタッフの互いの信頼関係を基盤として、ITを活用したスムーズな地域包括型のチーム医療が実現することを期待しています。

References

  1. 公益社団法人日本糖尿病協会.糖尿病連携手帳.[https://www.nittokyo.or.jp/modules/patient/index.php?content_id=29]
  2. 日本医師会,日本糖尿病対策推進会議,厚生労働省.糖尿病性腎症重症化予防プログラム.[https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12401000-Hokenkyoku-Soumuka/0000121902.pdf]
  3. 西岡恵子, 坂本則子, 赤司朋之. 多職種連携のリエゾンサービス実践例~地方型:コーディネートナースの医療機関訪問~. 月刊糖尿病. 2018; 10: 30-42.
  4. 2018年5月末の国保データベースより抽出
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