併用療法の統計学

サイトへ公開: 2021年05月10日 (月)
坂巻顕太郎先生(横浜市立大学データサイエンス推進センター特任准教授)

Statistical methods for combination therapies

併用療法の統計学01

坂巻 顕太郎1
Kentaro Sakamaki

横浜市立大学データサイエンス推進センター特任准教授1

抗がん剤の治療効果の評価において,時間の経過とともにハザード比(治療効果)が変化しないという仮定(比例ハザード性)のもとではログランク検定やCox回帰は最適な方法である。しかし,免疫療法や分子標的治療,さらにそれらの併用療法に対する臨床試験では,比例ハザード性が仮定できない場合がある。比例ハザード性が成立しない原因としては,治療効果の遅延(図1A)や治療効果の異なるサブグループの存在(図1B)などが考えられる1)-3)図1で示したように,治療,評価項目,対象集団によって生存曲線の特徴は異なるため,臨床試験結果を検定する際に注意が必要である。比例ハザード性が成立しない場合の生存曲線の検定方法は,治療効果が期待される時期や期待される治療効果により異なる。
治療効果の遅延などにおいて,仮定した治療効果が実効果と異なり,事前に選んだ検定法による検出力が低下する問題がある。解決策として,複数の重み付きログランク検定を同時に検討する方法(max-combo検定4)など)が開発された。ただし,臨床的に関心のある治療効果を明確にしたうえで,適切な仮定に基づいて検定方法を選択するほうが望ましい。
生存期間を評価項目とした場合の治療効果は,生存曲線の要約指標や生存曲線間の関係により表現される。各治療の生存曲線は,3年生存率や生存期間中央値,さらにRMST(restricted mean survival time,ある時点までの生存曲線の曲線下面積)5)6)などにより要約されることが多い。一方,ハザード比のように,生存曲線の関係により治療効果を表す方法の1つにnet benefitがある。特に,最低限の治療効果としてmヵ月の生存期間延長が必要と想定した場合(mは臨床的に意義があると考えられる生存期間の延長の閾値)6)7)や複数の評価項目から治療を評価する場合8)などではnet benefitが適用される。

図1 比例ハザード性が成立しない場合の生存曲線の例

A:免疫療法の比較における無増悪生存期間に関する生存曲線

B:化学療法と免疫療法の比較における全生存期間に関する生存曲線

(文献1)2)より作成)

上記の通り,免疫療法や分子標的治療の開発に伴い,さまざまな統計手法が開発されている。解析方法のほか,試験デザインに関する議論もある9)。治療の選択肢が増え,より詳細な治療メカニズムが明らかになると,試験デザインや解析方法も新たに開発されてくる可能性がある。既存の方法の理解,新たな方法の開発における利害関係者の協同が重要である。

Statistical methods for combination therapies01

文献

  1. Wolchok JD, Chiarion-Sileni V, Gonzalez R, et al. Overall survival with combined nivolumab and ipilimumab in advanced melanoma. N Engl J Med. 2017;377:1345-56.
  2. Fradet Y, Bellmunt J, Vaughn DJ, et al. Randomized phase Ⅲ KEYNOTE-045 trial of pembrolizumab versus paclitaxel, docetaxel, or vinflunine in recurrent advanced urothelial cancer:results of >2 years of follow-up. Ann Oncol. 2019;30:970-6.
  3. Champiat S, Ferrara R, Massard C, et al. Hyperprogressive disease:recognizing a novel pattern to improve patient management. Nat Rev Clin Oncol. 2018;15:748-62.
  4. Public workshop:oncology clinical trials in the presence of non-proportional hazards. 2018. https://healthpolicy.duke.edu/events/public-workshop-oncology-clinical-trials-presence-nonproportional- hazards(accessed:2021-02-05).
  5. Uno H, Claggett B, Tian L, et al. Moving beyond the hazard ratio in quantifying the between-group difference in survival analysis. J Clin Oncol. 2014;32:2380-5.
  6. 坂巻顕太郎,他.「治療効果」を正しく解釈するための基礎知識.大村健二,室 圭(編)オンコロジークリニカルガイド 消化器癌化学療法.改訂5版.東京:南山堂.2021年1月.
  7. Saad ED, Zalcberg JR, Péron J, et al. Understanding and communicating measures of treatment effect on survival:can we do better? J Natl Cancer Inst. 2018;110:232-40.
  8. Buyse M, Saad SD, Burzykowski T, et al. Assessing treatment benefit in immuno-oncology. Stat Biosci. 2020;12:83-103.
  9. 坂巻顕太郎.アンブレラ試験,バスケット試験,プラットフォーム試験.腫瘍内科.2020;25:92-100.
ページトップ