がんゲノム医療におけるVUS(Variant of Uncertain Significance)の評価

サイトへ公開: 2021年01月12日 (火)
がんゲノムプロファイリング検査で検出される意義付け不明の変異(VUS)の評価の重要性と今後の展望について、国立がん研究センター研究所の高阪真路先生に解説いただいています。

Evaluation of Variant of Uncertain Significance in Cancer Genome Medicine

高阪 真路

高阪 真路
Shinji Kohsaka

国立がん研究センター研究所細胞情報学分野ユニット長

 がんゲノムプロファイリング検査では意義付け不明の変異(variant of unknown significance:VUS)が多く発見されるが、がん細胞にどのような表現型を付与するかは不明である。
 これまで、体細胞のがん化変異を評価する手法としてゲノム変異の過剰出現の有無を判定するために、塩基配列レベルまたは蛋白質の立体構造解析によるアルゴリズムで新しいがん化変異を推定し,細胞株や遺伝子改変動物を用いた実証実験ならびに評価が行われてきた1)。また、国内外で過去のエビデンスを整理した統合データベースが構築されている。一方、発生頻度の低い変異バリアントの多くは評価されず、少ない症例の臨床情報では変異の意義付けが困難である。この問題を解決すべく、ハイスループット遺伝子変異機能解析手法(mixed-nominated-mutants-in-one method:MANO法)が構築された。MANO法ではレトロウイルスベクターを用いて遺伝子を細胞株に導入することで機能解析を行う。各遺伝子に

図1 MANO法によるハイスループット解析

図1 MANO法によるハイスループット解析

A: 固有のバーコード配列が組み込まれた遺伝子導入細胞を混和してアッセイを挿行入い、各導入細胞の相対細胞数変化を次世代シークエンサーでバーコード相対量を計測することで判定し、各遺伝子の薬剤感受性やがん化能を一度に多数評価する。
B: 87種類のEGFR変異体における5種類のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬に対する薬剤感受性をMANO法で評価した。

(文献2)より引用)

固有の6塩基からなるバーコード配列が標識されているため、アッセイ後に培養細胞のゲノムDNAで増幅したバーコード数を計測すれば、各遺伝子の影響を一度の解析で多数評価できる(図1)2)。また、MANO法により、重複変異が薬物耐性を誘導することが明らかになり、これまで意義付けされている変異がほかの変異と組み合わさることで新たな表現型を獲得できることが実証された2)
 一方、がん種や変異パターンが多くなりやすいバスケット型臨床試験では、各サブグループの症例数は少なくなり、薬剤効果の因果関係の評価は困難である3)。そのため、変異ごとに薬効予測を行うMANO法は前臨床試験のデザインに重要であると考えられる。
 生殖細胞系列バリアントの場合、がん抑制遺伝子の機能欠失が多く、ホットスポットに集中しないことからその解釈は困難とされる。そのため、従来の既往歴の聴取、アレル検索、ゲノム異常の蓄積の評価といった手法に加えて、ゲノム編集技術を用いたがん抑制遺伝子の網羅的機能解析法が導入されている(図2)4)

図2がん抑制遺伝子のハイスループット機能解析

図2 がん抑制遺伝子のハイスループット機能解析

A: ジーントラップ法によるスクリーニングにより14,306遺伝子の必須性が評価され、homology directed DNA repairに関わる66の遺伝子のうち、必須と判定された34遺伝子が赤色で示され、発がんの素因になる遺伝子名が記載されている。
B: Saturation genome editing法によりBRCA1遺伝子の13エクソンに渡り可能なすべてのsingle nucleotide variant(SNV)の導入が計画された。SNVライブラリーはホモロジーアームを含んでおり再切断が生じないようにしており、トランスフェクションするとうまくゲノム編集された細胞はBRCA1のSNVを1つ保持することとなる。トランスフェクションから5日後および11日後のgDNAおよびRNAシークエンスによりSNVの定量を行う。BRCA1の機能を喪失させるような変異はgDNAの割合が減少し、mRNAの発現に影響するようなものはRNAの割合がDNAに比して減少する。

(文献4)より引用)

 オミックス解析の臨床検査応用の進展とともに、VUSにも精度高く意義付けすることが求められている。バリアント情報と臨床情報の集約は新たな創薬標的やバイオマーカー探索につながると期待される。

文献

  1. Bailey MH, Tokheim C, Porta-Pardo E, et al. Comprehensive Characterization of Cancer Driver Genes and Mutations. Cell. 2018;173: 371-85.
  2. Kohsaka S, Nagano M, Ueno T, et al. A method of high-throughput functional evaluation of EGFR gene variants of unknown significance in cancer. Sci Transl Med. 2017;9.
  3. Hyman DM, Piha-Paul SA, Won H, et al. HER kinase inhibition in patients with HER2- and HER3-mutant cancers. Nature. 2018;554: 189-94.
  4. Findlay GM, Daza RM, Martin B, et al. Accurate classification of BRCA1 variants with saturation genome editing. Nature. 2018;562: 217-22.
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