腸内細菌叢と免疫チェックポイント阻害薬

サイトへ公開: 2022年09月20日 (火)
腸内細菌叢と、がん免疫および免疫チェックポイント阻害薬の治療効果と腸内細菌叢の関連性について、昭和大学医学部腫瘍内科学部門 主任教授の角田卓也先生に解説いただいています。

Microbiota and immune checkpoint inhibitors

角田先生

角田 卓也 Takuya Tsunoda

昭和大学医学部内科学講座 腫瘍内科学部門 主任教授

分子生物学的技術の進歩により,従来の細菌培養では得られなかった遺伝子レベルでの腸内細菌叢の情報が明らかになった。ヒト体内では約1,000種類以上,100兆個の細菌が共生し,1.5〜2kgの腸内細菌叢(腸内フローラ)を形成している。また,細菌ゲノムの「16SリボゾームRNA領域」では,数十~百塩基対程度で構成される超可変領域が9ヵ所存在し,細菌の種類により特徴的な配列を有している。この領域を解析することで細菌種の同定が可能である。

 腸内細菌と脳神経疾患,生活習慣病,炎症性腸疾患などとの関連に加えて,最近,がん免疫療法の治療効果との関連が注目されている。2015年にシカゴ大学のグループは,同じ週齢・種類のマウスであってもマウスの提供元によって抗programmed death-ligand 1(PD-L1)抗体の抗腫瘍効果が異なり,それらを同じケージで飼うと抗腫瘍効果が相殺されることを発見した1)
異なるマウス同士が互いの排泄物を食べたことにより,糞便にある腸内細菌が抗腫瘍効果に影響を及ぼしている可能性が示唆された。

 他方,非病原性で影響を与えないバクテリアや未知のバクテリアをもつ可能性のあるspecific pathogen-free(SPF)マウスでは抗細胞傷害性Tリンパ球抗原(cytotoxic T-lymphocyte antigen:CTLA)-4抗体の抗腫瘍効果が観察されたものの,germ-freeや抗生物質を投与したマウスではその効果が消失したことが報告されている(図1)2)。腸内細菌の存在が抗CTLA-4抗体の抗腫瘍効果に影響している可能性を示唆している。

 両方の抗腫瘍効果はともにCD8陽性T細胞を主とした免疫反応であるが,抗腫瘍効果を規定している腸内細菌は異なり,それぞれビフィズス菌とBacteroides fragilis(B. fragilis),B. thetaiotaomicronであった。

抗腫瘍効果と腸内細菌叢の存在腸内細菌叢とがん治療

 また,抗PD-1/PD-L1抗体で治療した患者の腸内細菌と抗腫瘍効果との関連も示されている3)4)。興味深いことに,これまで同定された腸内細菌には一貫性がみられなかった(表1)5)

この矛盾は,今後の腸内細菌叢の研究にとって重要であり,環境的,遺伝的要因の解明の必要性を示した。 

われわれも同様の研究結果を得ており,加えてその有効性は特定の細菌種ではなく,菌種の多様性により強く規定されており6),がん患者のがんに対する免疫反応は腸内細菌に強く依存することが機序の1つであることを見出した。腸内細菌叢はヒトの免疫と密接な関係があり,がんの発症や発症後のがん免疫療法,そして積極的がん予防には,腸内細菌叢の情報や積極的な介入が非常に重要となる。

文献

1) Sivan A, Corrales L, Hubert N, et al. Commensal Bifidobacterium promotes antitumor immunity and facilitates anti-PD-L1 efficacy. Science. 2015;350:1084-9.

2) Vétizou M, Pitt JM, Daillère R, et al. Anticancer immunotherapy by CTLA-4 blockade relies on the gut microbiota. Science. 2015;350:1079-84.

3) Routy B, Le Chatelier E, Derosa L, et al. Gut microbiome influences efficacy of PD-1-based immunotherapy against epithelial tumors. Science. 2018;359:91-7.

4) Gopalakrishnan V, Spencer CN, Nezi L, et al. Gut microbiome modulates response to anti-PD-1 immunotherapy in melanoma patients. Science. 2018;359:97-103.

5) Fessler J, Matson V, Gajewski TF. Exploring the emerging role of the microbiome in cancer immunotherapy. J Immunother Cancer. 2019;7:108.

6) Tsunoda T, Shimada K, Uchida N, et al. Dynamic relationships among tumor, immune response, and microbiota. Trends in Immunotherapy. 2017;1:58-66.

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