免疫チェックポイント阻害薬の治療効果予測の展望

サイトへ公開: 2022年02月28日 (月)
免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は多くのがん種において特徴的な抗腫瘍効果を示す一方、その恩恵を受ける方は限定的である。その治療効果予測について解説頂きます。

Prospects for predicting the therapeutic effect of immune checkpoint inhibitors

Hiroshi Kagamu

各務 博
Hiroshi Kagamu

埼玉医科大学国際医療センター呼吸器内科教授

免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による治療は症例によって治療効果が大きく変わることがある。治療効果の差を生むメカニズムの解明,メカニズムに基づいた治療効果の予測が求められている。
治療効果予測には腫瘍細胞と免疫細胞の2つが主に用いられる。
PD-1阻害薬は,PD-1により抑制されたT細胞機能を復活させることが機序である。PD-1はPD-L1またはPD-L2と結合してT細胞機能を抑制する。腫瘍上のPD-L1発現は肺がんに対するペムブロリズマブ治療の効果予測性を示したことで,本邦で承認されたバイオマーカーとなった。一方,PD-L1陰性の症例に対しても一定の確率で高い抗腫瘍効果が得られていることから,腫瘍PD-L1単独でT細胞機能の抑制が行われていないと考えられ,治療効果予測の限界が示唆された。
また,MSI-highが認められる症例ではPD-1阻害薬の奏効が報告されている。これは,遺伝子変異修復機能が破綻し腫瘍遺伝子変異量(TMB)が大きいと説明されている。遺伝子変異により変異したペプチド配列はがん抗原と考えられ,TMBは一定のICI治療効果予測性能を有している。しかしながら,がん抗原となるためには高いハードルがあり,単純なTMB測定で得られる予測性能は限定的である。腫瘍細胞のほか,免疫細胞の直接評価による効果予測も試されている。腫瘍局所に存在するPD-1高発現CD8T細胞のほか,PD-1TIM-3のCD8T細胞クラスターとTh1様CD4T細胞クラスターにICI効果との相関が見い出された。さらに,腫瘍局所のPD-1陽性制御性T細胞(Treg)とPD-1陽性CD8T細胞の存在比による効果予測も報告された。抗原提示細胞の重要性も報告されている。臨床において,腫瘍上PD-L1発現と腫瘍間質免疫細胞上のPD-L1発現を同時に測定した数値が乳がんなどの効果予測に用いられている。
また,抗腫瘍免疫において非自己抗原への反応には,クローンの増殖およびその抗原特異的なT細胞の比率を高くする必要があることから,サイズの大きなCD8T細胞クローンが全身に存在することはICI治療効果を予測する可能性がある。加えて,普段から全身に分布しているCD4T細胞は抗CTLA-4抗体の作用点であり10,抗PD-1/PD-L1 抗体の作用点であるCD8T細胞の機能を支えている11ことから,ICI併用療法の効果予測に役立つと考えられる。
ICI治療は長期生存効果を狙った併用療法への転換に伴い,効果予測のバイオマーカーも変化している。必要最小限の治療で最大の効果を発揮し,不要な副作用を回避するためにも正確にT細胞免疫を評価できるバイオマーカーが求められている。

文 献

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  2. Lin H, Wei S, Hurt EM, et al. Host expression of PD-L1 determines efficacy of PD-L1 pathway blockade-mediated tumor regression. J Clin Invest. 2018;128:1708.
  3. Tang H, Liang Y, Anders RA, et al. PD-L1 on host cells is essential for PD-L1 blockade-mediated tumor regression. J Clin Invest. 2018;128:580-8.
  4. Le DT, Uram JN, Wang H, et al. PD-1 Blockade in Tumors with Mismatch-Repair Deficiency. N Engl J Med. 2015;372:2509-20.
  5. Dudley JC, Lin MT, Le DT, et al. Microsatellite Instability as a Biomarker for PD-1 Blockade. Clin Cancer Res. 2016;22:813-20.
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  7. Wei SC, Levine JH, Cogdill AP, et al. Distinct Cellular Mechanisms Underlie Anti-CTLA-4 and Anti-PD-1 Checkpoint Blockade. Cell. 2017;170:1120-33.e17.
  8. Wu TD, Madireddi S, de Almeida PE, et al. Peripheral T cell expansion predicts tumour infiltration and clinical response. Nature. 2020;579:274-8.
  9. Wei SC, Levine JH, Cogdill AP, et al. Distinct Cellular Mechanisms Underlie Anti-CTLA-4 and Anti-PD-1 Checkpoint Blockade. Cell. 2017;170:1120-33.e17.
  10. Huang AC, Postow MA, Orlowski RJ, et al. T-cell invigoration to tumour burden ratio associated with anti-PD-1 response. Nature. 2017;545:60-5.
  11. Borst J, Ahrends T, Bąbała N, et al. CD4 T cell help in cancer immunology and immunotherapy. Nat Rev Immunol. 2018;18:635-47.
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