がん微小環境におけるインターロイキン-34の役割

サイトへ公開: 2023年01月30日 (月)
がん微小環境におけるinterleukin-34の役割について、清野 研一郎先生より解説頂きます。

清野 研一郎
北海道大学 大学院医学研究院 遺伝子病制御研究所 病態研究部門 免疫生物分野 教授

 がんの形成過程において腫瘍微小環境は免疫抑制性,抵抗性の獲得に関連することが明らかになっている。近年,がんに対する治療法として,がん免疫療法が第4の治療法として注目を集めているが,治療効果に個人差があることから,新規治療標的の確立が望まれている。中でもマクロファージは腫瘍微小環境において重要な役割を果たすことが多数報告され,治療標的としての検討が進められている。マクロファージの細胞膜上にはチロシンキナーゼ型膜貫通受容体であるコロニー刺激因子1受容体(CSF-1R)が発現しているが1,2008年にはCSF-1Rに対するリガンドとしてInterleukin-34(IL-34)が報告され2,IL-34ががんの進行や転移関与することが明らかになりつつある3
 IL-34はCSF-1Rをはじめとする様々な受容体に結合し,細胞増殖等の機能を制御するサイトカインである4,5。IL-34は特定の組織常在マクロファージの発生・維持に関与している一方で6,関節リウマチや炎症性腸疾患,がんなど様々な疾患の進行や重症化に関わることが報告されている3,7-9
 IL-34とがんの関係については,2010年の骨巨細胞腫患者の腫瘍細胞を用いた研究を皮切りに様々な研究が行われている。我々も,2016年に肺がんでIL-34が抗がん剤耐性の獲得や免疫抑制的な腫瘍微小環境の形成に関与していることを報告し10,さらに多発性骨髄腫では溶骨性骨病変を促進することを解明した11。これらの報告で共通しているのは,IL-34が腫瘍微小環境内の免疫反応を抑制的に制御しているという点である。
 ドキソルビシンに感受性を示すヒト肺がん細胞であるA-549細胞とドキソルビシン耐性ヒト肺がん細胞A549-DR(doxorubicin resistance)細胞を用いた我々の研究10では,A549-DR細胞の培養上清で培養したヒト末梢血由来単球から免疫抑制性マクロファージがA549細胞と比べて多く誘導され,A549-DR細胞由来のIL-34が免疫抑制性マクロファージの生成に寄与していることが示唆された。さらにA549-DR細胞に抗がん剤と抗IL-34抗体を加えて培養したところ,細胞の生存率が有意に低下したことから,抗がん剤存在下におけるA549-DR細胞の生存維持にIL-34が寄与していることが示された。すなわち,抗がん剤耐性がん細胞由来のIL-34はパラクライン的に免疫抑制性マクロファージの誘導に寄与すると同時に,オートクライン的にがん細胞自身に作用することで,免疫抑制的腫瘍微小環境の形成とがん細胞の生存維持に貢献することが明らかとなった(図1)。
 多発性骨髄腫における溶骨性骨病変は,RANKL(receptor activator of nuclear factor-kappa B(RANK)ligand)とCSF-1Rを介したシグナルの活性化による破骨細胞の形成によって引き起こされる。我々はCSF-1RのリガンドであるIL-34について,破骨細胞形成における役割を検討した11。マウス多発性骨髄腫細胞であるMOPC315.BM細胞を用いた検討では,IL-34の強い発現が認められ,骨髄間質細胞との共培養により発現はさらに上昇した。次にIL-34の発現を抑制したIL34KDMOPC315.BM細胞と共培養した上清では,MOPC315.BM細胞と異なり,破骨細胞は誘導されなかった。また,IL34KDMOPC315.BM細胞投与マウスでは溶骨性骨病変の改善と血中カルシウム濃度の有意な低下が認められた。さらに臨床検体による検討では,IL-34が強く発現していた患者集団全体で溶骨性骨病変が認められた。また,IL-34が強く発現していた骨髄液存在下において,破骨細胞への誘導が最も強いことが示された。ここに抗IL-34抗体を加えると誘導が低下したことから,多発性骨髄腫細胞由来のIL-34が溶骨性骨病変を促進するものと考えられた(図2)。
 我々の研究では,免疫抑制的腫瘍微小環境においてIL-34が重要な役割を果たしていることが明らかになってきており12,今後,IL-34を標的とした治療が免疫抑制的腫瘍微小環境の打破によって有効な治療選択肢の1つになることが期待される。

清野先生_図1

 

清野先生_図2

文 献

  1. Stanley ER, Chitu V. CSF-1 receptor signaling in myeloid cells. Cold Spring Harb Perspect Biol. 2014;6:a021857.
  2. Lin H, Lee E, Hestir K, et al. Discovery of a cytokine and its receptor by functional screening of the extracellular proteome. Science. 2008;320:807-11.
  3. Baghdadi M, Endo H, Tanaka Y, et al. Interleukin 34, from pathogenesis to clinical applications. Cytokine. 2017;99:139-47.
  4. Nandi S, Cioce M, Yeung YG, et al. Receptor-type protein-tyrosine phosphatase ζ is a functional receptor for interleukin-34. J Biol Chem. 2013;288:21972-86.
  5. Segaliny AI, Brion R, Mortier E, et al. Syndecan-1 regulates the biological activities of interleukin-34. Biochim Biophys Acta. 2015;1853:1010-21.
  6. Greter M, Lelios I, Pelczar P, et al. Stroma-derived interleukin-34 controls the development and maintenance of langerhans cells and the maintenance of microglia. Immunity. 2012;37:1050-60.
  7. Baek JH, Zeng R, Weinmann-Menke J, et al. IL-34 mediates acute kidney injury and worsens subsequent chronic kidney disease. J Clin Invest. 2015;125:3198-214.
  8. Shoji H, Yoshio S, Mano Y, et al. Interleukin-34 as a fibroblast-derived marker of liver fibrosis in patients with non-alcoholic fatty liver disease. Sci Rep. 2016;6:28814.
  9. Zhou SL, Hu ZQ, Zhou ZJ, et al. miR-28-5p-IL-34-macrophage feedback loop modulates hepatocellular carcinoma metastasis. Hepatology. 2016;63:1560-75.
  10. Baghdadi M, Wada H, Nakanishi S, et al. Chemotherapy-Induced IL34 Enhances Immunosuppression by Tumor-Associated Macrophages and Mediates Survival of Chemoresistant Lung Cancer Cells. Cancer Res. 2016;76:6030-42.
  11. Baghdadi M, Ishikawa K, Nakanishi S, et al. A role for IL-34 in osteolytic disease of multiple myeloma. Blood Adv. 2019;3:541-51.
  12. Hama N, Kobayashi T, Han N, et al. Interleukin-34 Limits the Therapeutic Effects of Immune Checkpoint Blockade. iScience. 2020;23:101584.
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