多職種による高度肥満症治療チームの挑戦

サイトへ公開: 2021年01月06日 (水)
減量手術を含む高度肥満症患者に対する多職種専門チームの取り組みと今後の展望について、東邦大学医療センター佐倉病院 副院長の龍野一郎先生にお伺いしています。

東邦大学医療センター佐倉病院(千葉県佐倉市)では、糖尿病・内分泌・代謝センターを中心に多職種からなる専門チームが連携し、減量手術を含む高度肥満症治療を提供しています。患者さんを生涯にわたってサポートする取り組みを紹介します。

【お名前】 東邦大学医療センター佐倉病院

【お名前】
東邦大学医療センター佐倉病院

副院長/栄養部長/内科学講座主任教授/
糖尿病・内分泌・代謝センター
龍野 一郎先生

肥満症は重篤な合併症をもたらす「疾患」

肥満症は、放っておくと糖尿病や脂質異常、高血圧、腎障害など様々な合併症をもたらす「疾患」です。体重を減らすことができれば、こうした合併症も劇的に改善することがわかっています。「私どもの全国調査では減量手術を受けた高度肥満2型糖尿病患者さんの76%が寛解、つまり薬物療法なしにHbA1c6%未満を達成しています」(龍野先生)。
 しかし、食べることは、患者さんそれぞれの心や生活環境、背景に密接にかかわっているため、肥満の方が自分でコントロールすることは容易ではありません。「当院では、患者さんの『変わりたい』という想いを受け止め、自ら肥満症治療に取り組み、生活習慣を変えていくサポートに長年取り組んできました」(内科学講座准教授/糖尿病・内分泌・代謝センター 齋木 厚人先生)。内科医、看護師、管理栄養士、理学療法士だけでなく、精神科医も患者さんをメンタル面からサポート。さらに2010年からは外科的治療も選択肢に加わり、肥満外科手術(減量手術)の実績はこれまでに140例を数えます。
 多職種連携の肝となるのが、月1回開催されるオベシティ(肥満)カンファレンスです。約30人のメンバーが集まり、ひとりひとりの症例について、現状や治療の見通し、また外科手術の実施の可否について徹底的に議論しています。「手術は、内科治療抵抗性でかつ手術に前向きであること、さらにメンタルの状況についても検討し、最終的にメンバー全員の同意によって決定します」(外科学講座准教授/消化器外科 大城 崇司先生)。肥満症を中心に、参加者が自分の専門性を重ね合わせていくことがチームとしての一体感につながっています。;

肥満症は重篤な合併症をもたらす「疾患」

肥満症は、放っておくと糖尿病や脂質異常、高血圧、腎障害など様々な合併症をもたらす「疾患」です。体重を減らすことができれば、こうした合併症も劇的に改善することがわかっています。「私どもの全国調査では減量手術を受けた高度肥満2型糖尿病患者さんの76%が寛解、つまり薬物療法なしにHbA1c6%未満を達成しています」(龍野先生)。
 しかし、食べることは、患者さんそれぞれの心や生活環境、背景に密接にかかわっているため、肥満の方が自分でコントロールすることは容易ではありません。「当院では、患者さんの『変わりたい』という想いを受け止め、自ら肥満症治療に取り組み、生活習慣を変えていくサポートに長年取り組んできました」(内科学講座准教授/糖尿病・内分泌・代謝センター 齋木 厚人先生)。内科医、看護師、管理栄養士、理学療法士だけでなく、精神科医も患者さんをメンタル面からサポート。さらに2010年からは外科的治療も選択肢に加わり、肥満外科手術(減量手術)の実績はこれまでに140例を数えます。
 多職種連携の肝となるのが、月1回開催されるオベシティ(肥満)カンファレンスです。約30人のメンバーが集まり、ひとりひとりの症例について、現状や治療の見通し、また外科手術の実施の可否について徹底的に議論しています。「手術は、内科治療抵抗性でかつ手術に前向きであること、さらにメンタルの状況についても検討し、最終的にメンバー全員の同意によって決定します」(外科学講座准教授/消化器外科 大城 崇司先生)。肥満症を中心に、参加者が自分の専門性を重ね合わせていくことがチームとしての一体感につながっています。

肥満症は重篤な合併症をもたらす「疾患」-01

手術は肥満症治療の選択肢の一つ

肥満症治療は、食事療法から始まります。患者さんの食歴や食生活の問題点を明らかにして、食生活、食習慣の行動習慣の改善を図ります。「当院では減量時に理想的な栄養バランスであるフォーミュラ食を積極的に用いて、食事療法を行なっています。」(栄養部/管理栄養士 金居 理恵子さん)。さらに、食事や運動、体重の変化を「ウェイトコントロールファイル」に記録し、患者さんが自ら生活改善のコツをつかむヒントを提供すると同時に、多職種でファイルを共有し、治療方針に役立てています。「例えば糖尿病を合併している方については食後血糖が上がりにくい食べ方を患者さんと一緒に考えていきます。患者さんの性格特性や心理状況を踏まえ、寄り添った指導を心がけています」(金居さん)
 食事療法、運動療法、行動療法を実施して効果が不十分の場合、薬物療法がスタートすることも。「現在、肥満症に適応のある薬剤は1種類しかありませんが、肥満外科の対象となる患者さんの7割は糖尿病を合併しています。そうした方に対しては、糖尿病治療も必要になります。」(齋木先生)。
 6カ月にわたり内科治療を実施して効果が不十分な時に、初めて減量手術が選択肢に。同院では保険適用のスリーブ状胃切除術をはじめ、先進医療による腹腔鏡下スリーブバイパス術、自費診療による腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術の3種類の術式から最も患者さんに合った術式を選択しています。「例えば、肥満を伴うシビアな糖尿病患者さんに向いているのは『スリーブバイパス術』という術式です。食べたものが上部小腸を通過しなくなるため体重減少が期待できるほか、回腸の末端に早期に食べ物が到達することでインクレチンが分泌され、食欲を抑え血糖コントロールをよくすることが可能になります」(大城先生)。国際的にみれば、外科手術は、糖尿病治療の選択肢の一つであることは常識になっているとのこと。
 大切なのは手術をいつ行うかのタイミングです。「手術は、内科的治療が不十分で重症化してからの最終手段ではありません。インスリン分泌能が残っているうちに手術したほうが術後の糖尿病コントロールは良好です。内科的治療と外科手術の選択は、ベネフィットとリスクの見極め、バランスが重要なのです」(大城先生)。

肥満症治療は心身のメンテナンス

肥満症治療には、患者さんの精神心理社会面からのサポートも大切です。手術が必要になるほどの高度肥満症が成立する背景には、それぞれ事情や程度の異なった精神心理社会面の問題が存在します。うつ病、不安障害、発達障害といった精神疾患を抱えている患者さんも少なくありません。そうした患者さんのメンタル面に目を向けずに、肥満症治療を行うと効果は限定的となり、未治療で不安定な状態のまま肥満外科治療に踏み切ると、精神的な問題が悪化する可能性もあります」(精神神経医学講座講師/メンタルヘルスクリニック 林 果林先生)。精神科診察と心理テストを行い、今まで自覚されていなかった精神疾患が診断されれば、薬物治療や心理療法を行います。術後の食事摂取量の激減に対応できるように、メンタル面の苦痛を緩和し安定させることで、過度な食行動の改善にも寄与します。「肥満症の治療は心身をメンテナンスする良い機会でもあるのです」(林先生)。
 減量手術する患者さんは術前に約2週間の内科入院が原則必須です。メンタルチェック、合併症の検査、フォーミュラ食の導入のほか、理学療法士の指導のもと、トレッドミルやエルゴメーターを用いた有酸素運動を行います。「1日2回、40分の指導という限られた時間の中で、大切にしているのは、患者さんが退院後、自分にとってどのような運動が向いているのかを理解し、実践していただくことです」(リハビリテーション部/理学療法士 秋葉 崇さん)。体を動かす楽しさを実感することが、運動習慣の確立にもつながっていきます。

減量達成はゴールではなくスタート

 肥満症治療は、内科的治療や減量手術で体重が減ったことがゴールではなく、それがむしろスタートです。「良い時も悪い時も、私たちは患者さんを一生涯診る覚悟で診療にあたっています。内科的治療や外科手術を通じて、患者さんにどういう人生を送っていただきたいか、そのビジョンを患者さんはもちろん、チーム全員が共有することが大切だと考えています」(齋木先生)。龍野先生も「術後観察をどれだけ多く、どれだけ長くできているかが高度肥満治療の重要なポイントであり、かかわる我々にとってのプライドでもあります」と話します。
 減量手術は米国では年間70万件実施されているのに対し、日本ではまだ年間1,000件ほど。「たくさんの先生方、中でも肥満症専門医・糖尿病専門医の先生に高度肥満や肥満2型糖尿病に対する減量(代謝)手術の有効性と安全性を知っていただき、治療の選択肢の一つとして捉えていただくことで、肥満症・糖尿病診療の向上に繫がることを期待しています」(龍野先生)。同院で提供しているような質の高いチーム医療をどのように全国に広げていくかが、今後の課題と言います。

減量達成はゴールではなくスタート-01

肥満そのものに対する見方を変えていく

さらにその先に、龍野先生が描くのは、日本における「肥満」そのものへの見方を変えていくことです。肥満症は自己責任と見られがちですが、本人の環境や背景などが密接にかかわりあい、治療が必要な「疾患」であることが広く認識され、適切なタイミングで適切な介入が行われることは、合併症を予防し、延いては医療財政の負担軽減にも貢献することにもつながります。「特に、一生の生活習慣にかかわる幼少期からの食育が重要です。そうした啓発活動にも積極的に取り組んでいきたいと考えています」(龍野先生)。
 最後に、製薬会社に期待することについて内科医のお二人の先生にお聞きしたところ、「抗肥満薬」の開発を望む声が聞かれました。「食欲中枢に効果的に作用する薬ができれば、外科治療が必要なくなる、あるいは手術とのハイブリッドで治療効果の上がる患者さんも増えてくるはずです。私自身もそうした研究の一端も担っていけたらうれしいです」(齋木先生)。「欧米では7、8種類の製品が承認されており、日本の状況とは大きな隔たりがあります。そのあたりは社会や医学会も考え方を変えていく必要があると思います」(龍野先生)

 患者さんが生涯を通じて、自分に自信を持ち、生き生きと生活を続けていくために。高度肥満症医療チームの挑戦は、これからも続いていきます。

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