「基本法」成立の背景-循環器病が社会に及ぼすインパクト

サイトへ公開: 2022年12月22日 (木)
本邦で脳卒中・循環器病対策基本法が成立した疫学的な背景をご紹介いたします。

循環器病の死因の構成割合および死亡率への影響

循環器病は、国民の生命や健康(健康寿命)に重大な影響を与える疾患であるとともに、社会全体にも大きなインパクトを及ぼします。ここでいう循環器病には、虚血性脳卒中(脳梗塞)、出血性脳卒中(脳内出血、くも膜下出血など)、一過性脳虚血発作、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞など)、心不全、不整脈、弁膜症(大動脈弁狭窄症、僧帽弁逆流症など)、大動脈疾患(大動脈解離、大動脈瘤など)、末梢血管疾患、肺血栓塞栓症、肺高血圧症、心筋症、先天性心・脳血管疾患、遺伝性疾患など、多くの疾患が含まれます1)
はじめに、日本人の死因の構成割合を再確認しましょう。令和2年(2020)人口動態統計月報年計(概数)結果の概要より、令和2年の主な死因の構成割合をみると(図1)、第1位は悪性新生物<腫瘍>で27.6%、第2位は心疾患(高血圧性を除く)で15.0%、第3位は老衰で9.6%、第4位は脳血管疾患で7.5%となっています2)
一方、循環器病の死亡率が近年どのように推移してきたかというと(図2)、心疾患(高血圧性を除く)は、昭和60年に脳血管疾患にかわり第2位となり、脳血管疾患は、昭和45年をピークに低下傾向が続いています。両者を合わせると、悪性新生物<腫瘍>に次ぐ死亡原因2位の疾患群であり、年間30万人以上の国民が循環器病により亡くなっています2)

介護が必要になる原因3)

循環器病の介護への影響も深刻です。介護が必要となった主な原因を現在の要介護度別にみると(表1)、要支援者では「関節疾患」が18.9%で最も多く、次いで「高齢による衰弱」が16.1%でした。しかし、要介護者では「認知症」が24.3%で最も多く、次いで「脳血管疾患(脳卒中)」が19.2%でした。介護が必要となった主な原因の総数に循環器病が占める割合は、脳血管疾患と心疾患の両者を合わせると20.6%と最多となります1)

医療経済への負担4)

最後に、循環器病の医療経済への負担です。令和元年度(2019)の傷病分類別医科診療医療費31兆9,583億円のうち、循環器系の疾患が占める割合は6兆1,369億円(19.2%)と最多でした(表2)。

上記から、循環器病の国民生活、介護、および医療経済など、社会生活全体に及ぼす影響が大変大きいことがわかります。

図1 主な死因の構成割合[令和2年(2020)]

図1 主な死因の構成割合[令和2年(2020)]

図2 主な死因別にみた死亡率(人口10万対)の年次推移(抜粋)

図2 主な死因別にみた死亡率(人口10万対)の年次推移(抜粋)

表1 現在の要介護度別にみた介護が必要となった主な原因(上位3位)

表1 現在の要介護度別にみた介護が必要となった主な原因(上位3位)

表2 年齢階級、傷病分類別医科診療医療費(抜粋)

表2 年齢階級、傷病分類別医科診療医療費(抜粋)

  1. 厚生労働省. 循環器病対策推進基本計画(令和2年10月). https://www.mhlw.go.jp/content/000688359.pdf
  2. 厚生労働省.令和2年(2020)人口動態統計月報年計(概数)結果の概要 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai20/dl/kekka.pdf
  3. 厚生労働省. 2019年 国民生活基礎調査の概況. https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/05.pdf
  4. 厚生労働省. 令和元(2019)年度 国民医療費の概況. https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/19/dl/kekka.pdf
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