循環器病対策推進基本計画の施策-10 循環器病の研究推進

サイトへ公開: 2023年06月13日 (火)
循環器病対策推進基本計画の施策の1つである、循環器病の研究推進についてご紹介いたします。

循環器病の研究推進1)

ここでは、第1期循環器病対策推進基本計画(以下、基本計画)の3つ目の個別施策にあたる「循環器病の研究推進」について、脳卒中と循環器病克服5ヵ年計画(以下、5ヵ年計画)の内容と国立循環器病研究センターの取り組みをご紹介します。

脳卒中と循環器病の発症原因の多くは明らかでなく、現状では対症療法にとどまっているという現状があります。これは、近年の研究の進歩により、分子標的治療が可能となり、治癒症例も認められるようになったがん領域とは対照的といえます。さらに、本邦における脳卒中と循環器病の症例登録も十分に進んでいるとはいえず、正確な患者数やその予後が明らかとなっていない状況があります。しかしながら、脳卒中と循環器病は、臨床情報に基づく高精度な疾患発症予測の可能性が高く、先制医療を最も実現しやすい領域でもあります1)
したがって、基礎研究による病態解明から治療標的の探索、さらに橋渡し研究、臨床研究へと至る各ステップを強化するとともに、これらをシームレスに連関させることで、新しい治療法を開発し、脳卒中と循環器病の克服へと結びつけることが期待されています。

5ヵ年計画では、日本全国に散在するバイオリソースを拠点に集約化して、研究効率を向上させ、基礎研究を強化することを挙げています。特に、ヒトゲノムの全配列の解明や、iPS細胞の技術開発の成果を脳卒中や循環器病に対する医療に活用するため、情報通信技術(ICT)を利用した詳細な疾患登録によるデータベースを作成して、生体試料と遺伝子を臨床情報とともに収集するバイオバンクを構築することで研究基盤を確立するとしています。さらに5ヵ年計画では、

  • ゲノム解析拠点や疾患iPS細胞樹立拠点のもとで、疾患関連遺伝子の同定や病態解析を重点的に促進する
  • 疾患モデルを標準化し、病態解明や創薬標的となるシーズの探索を展開し、前臨床試験におけるプロトコールの確立を図る
  • シーズ探索から臨床応用への共同開発や橋渡し研究を行うための創薬基盤は整備されつつあるが、さらなる効率化および加速化を進める
  • 診断、治療のバイオマーカーの同定、発症予測や予後予測の精度を向上させる
  • 疾患データベースに基づいた効率的な臨床研究基盤の構築、有用な臨床試験促進のためのインフラおよび体制を整備する

ことを挙げています。

これらを推進するために、オールジャパンでの臨床および基礎研究者を育成して、脳卒中と循環器病の克服と平均寿命ならびに健康寿命の延伸、そして最適な医療の実現と医療費の適正化を目指すこととしています()。

図 臨床研究・基礎研究の強化

図 臨床研究・基礎研究の強化

産学官民の共創

上記にくわえて、日本政府は研究開発において”本邦発の破壊的イノベーションの創出を目指し、従来技術の延長にない、より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発を推進する事業”である「ムーンショット型研究開発事業」[1961年、米国のジョン・F・ケネディ大統領が実現困難といわれていたアポロ計画(月面着陸プロジェクト)を発表し、1969年にその目標を達成したことに倣い、実現困難だが実現すれば大きなインパクトが期待される社会課題を対象にした野心的な目標を掲げた研究開発制度であることからムーンショット型と名付けている]を進めています2)。この事業の「ムーンショット目標7」では、“2040年までに、主要な疾患を予防・克服し100歳まで健康不安なく人生を楽しむためのサステイナブルな医療・介護システムを実現”することを掲げています。このように、従来の医療分野のみの知見や研究手法に縛られず、工学や情報科学などの他分野、さらには産業界など他業界をも巻き込んだ自由な発想を活かした研究開発とイノベーションが望まれており、これまでの研究開発のエコシステムが大きく変わりつつあるといえます。

この変化の一例としてご紹介するのは、国立循環器病研究センター(以下、国循)と大阪府吹田市ならびに摂津市がパートナーシップを結び取り組んでいる、通称「健都(KENTO)(正式名称:北大阪健康医療都市)」があります3)。これは、吹田市・摂津市が国循をはじめとした研究機関によるオープンイノベーションの拠点となる場と、駅前商業施設や公園など市民が集う場所を整備し、産学官民(企業・学術機関・行政・市民)の共創による実証フィールドとすることで「イノベーションによるヘルスケア産業の創出」、さらには「新たなライフスタイルの創造」の好循環を生み出すまちづくりを進めているものです。

もう一つの例として、国循の産学連携によるオープンイノベーションによる、循環器病の予防と制圧の国際拠点を目指して従来の研究開発基盤センターを改組して設置した、オープンイノベーションセンター(以下、OIC)があります4)。OICは企業などの共同研究の拠点となる「オープンイノベーションラボ」を整備しており、ここで多くの企業との共同研究を展開したり、研究者などの交流・情報拠点となる「サイエンスカフェ」を整備・運営して、セミナーなどの開催を通じた研究者同士の交流をサポートしています。
このような研究開発の新たなかたちはオープンイノベーションの名にふさわしく、今後日本の各地でさらなる新しい取り組みの勃興が、どのように私たち国民の健康に寄与するのか期待が高まるところです。

  1. 日本脳卒中学会、日本循環器学会 他. 脳卒中と循環器病克服5ヵ年計画 ストップCVD(脳心血管病)健康長寿を達成するために(2016年12月).
    https://www.j-circ.or.jp/five_year/files/five_year_plan.pdf
  2. 日本医療研究開発機構. ムーンショット型研究開発事業.
    https://www.amed.go.jp/program/list/18/03/001.html
  3. 北大阪健康医療都市 健都. https://kento.osaka.jp/
  4. 国立循環器病研究センター オープンイノベーションセンター. https://www.ncvc.go.jp/oic/
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