循環器病対策推進基本計画の施策-2 包括的な支援体制の構築:病院受診まで

サイトへ公開: 2023年03月30日 (木)
循環器病対策推進基本計画の施策の1つである、包括的な支援体制の構築のうち、予防のための取り組みと救急搬送体制の整備についてご紹介いhttps://pro.boehringer-ingelheim.com/jp/medical/professional-development/cardiovascular-disease-control-2たします。

包括的な支援体制の構築

ここでは、循環器病対策推進基本計画(以下、基本計画)の2つ目の個別施策にあたる「保健、医療及び福祉に係るサービスの提供体制の充実」を達成するための10の項目のうち、1) 循環器病を予防する健診の普及や取組の推進、および 2) 救急搬送体制の整備について、その現状および課題と、取り組むべき施策をご紹介します。

健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法の成立に先立って立ち上げられたワーキンググループである「脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る診療提供体制の在り方に関する検討会」の報告書では、循環器病の急性期から回復期~維持期までの一貫した診療提供体制の構築が必要であるとされています1)。また、基本計画でも、循環器病患者さんを中心とした包括的な支援体制を構築するため、多職種が連携して、循環器病の予防、早期発見、再発予防や重症化予防、相談・生活支援等の総合的な取組を進めるとしています2)
包括的な支援体制が必要であることを示すように、ここで対象となる医療従事者は非常に多岐にわたり、医師をはじめ、歯科医師、薬剤師、保健師、助産師、看護師、歯科衛生士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、救急救命士、管理栄養士、社会福祉士、介護支援専門員、相談支援専門員などが含まれています2)

循環器病を予防する健診の普及や取組の推進2)

循環器病は、健康的でない生活習慣や肥満などの健康状態が原因となり発症することが多く、その経過は、生活習慣病予備群、生活習慣病発症、重症化・合併症発症、生活機能の低下・要介護状態の順に進行していきます。そのため、循環器病の発症予防だけでなく、再発予防や重症化予防の観点からも、循環器病の早期診断・治療介入が必要です。一方で、いずれの段階においても生活習慣を改善することで進行を抑えられる可能性があるため、健康診査などの受診と、行動変容をもたらす保健指導が重要と考えられます。
生活習慣病の予防および早期発見に資する健康診査・保健指導には、40歳以上75歳未満の方が対象となる特定健康診査・特定保健指導などがあります。厚生労働省は第三期医療費適正化計画(平成30<2018>年~令和5<2023>年度)において、特定健康診査の実施率を70%以上に、また特定保健指導の実施率を45%以上にすることを目標にしていますが、平成29(2017)年度時点での特定健康診査の実施率は53.1%、特定保健指導の実施率は19.5%であり、目標には到達していないことから、さらなる実施率の向上が必要です。
これを受けて、今後、国が取り組むべき施策として、基本計画では健康診査・保健指導の実施率向上に向けた取組を進めることをあげています。また、国民健康保険の保険者努力支援制度などについて、疾病予防・重症化予防の推進に係る先進・優良事例について把握し、予防および健康づくりを推進することもあげています。

救急搬送体制の整備2)

循環器病は突然発症し、かつ短時間で命に関わる重大な事態に陥ることも多い疾患です。循環器病の治療は、近年技術的な進歩が著しく、予後の改善につながる可能性があることから、急性期に適切な診療を受けることが必要です。例として、脳梗塞に対し発症後早期にt-PA療法(血栓溶解療法)や機械的血栓回収療法を行うと、予後がより改善するとのエビデンスも示されています。しかし残念ながら、これらの急性期治療を全国民が住み慣れた地域で誰もが等しく享受できる状況には至っていません。
また、虚血性心疾患だけでなく、不整脈や心筋症なども迅速な対応が必要です。消防機関による救急業務としての搬送、および医療機関による受入れ体制の整備の一環として、全ての都道府県で、搬送および受入れに関する基準の分類基準に「脳卒中」・「心臓病」(またはこれらの疑い症状)を定めて、受入れ先となる医療機関リストを作成しています。令和3年版「救急・救助の現況」をみると、急病の疾病分類で、脳疾患、心疾患などを含む循環器系が多く、合わせて561,523人(全体の16.3%)でした(3)。このなかで、特に高齢者の割合が高く、脳疾患、心疾患など合わせて19.9%でした(3)

救急現場で、実際の応急処置や救急搬送を行う消防機関の循環器病に関する教育研修の機会確保として、全消防職員が人体知識や傷病別応急処置などを初任教育時に習得することにくわえ、救急隊員は専科教育を受けています。さらに、メディカルコントロール(MC)体制の強化により、救急救命士を含む救急隊員の資質向上のため、循環器病対策を含めた研修機会の確保にも取り組んでいます。ここでいうMC体制とは、消防機関と医療機関が連携して、①各種プロトコールの策定、②医師の指示、指導・助言、③救急活動の事後検証、④再教育などにより、医学的観点から、救急救命士を含む救急隊員が行う応急処置等の質を保障する仕組みのことを指します4)
今後、国が取り組むべき施策として、基本計画では循環器病患者さんを救急現場から急性期医療を提供できる医療機関に、迅速かつ適切に搬送できる体制の構築を進めるため、各都道府県で地域の実情に応じた搬送および受入れの実施に関する基準の見直しの必要性をあげています。また、救急隊の観察・処置などについては、MC体制の強化によって、引き続きエビデンスに基づいた知識と技術の向上を図るとしています。

図 急病の疾病分類別の搬送人員(令和2年 単位:人)

図 急病の疾病分類別の搬送人員(令和2年 単位:人)

表 急病の疾病分類別の年齢区分別搬送人員(令和2年 単位:人)

表 急病の疾病分類別の年齢区分別搬送人員(令和2年 単位:人)

  1. 脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る診療提供体制の在り方に関する検討会. 脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る診療提供体制の在り方について(平成29年7月).
    https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000173149.pdf
  2. 厚生労働省. 循環器病対策推進基本計画(令和2年10月).
    https://www.mhlw.go.jp/content/000688359.pdf
  3. 総務省消防庁 令和3年版 救急救助の現況Ⅰ救急編. 
    https://www.fdma.go.jp/publication/rescue/items/kkkg_r03_01_kyukyu.pdf
  4. 厚生労働省 第5回循環器病対策推進協議会(ペーパーレス)参考資料2 参考資料集.
    https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/000649147.pdf
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