循環器病対策推進基本計画の施策-5 リハビリテーション

サイトへ公開: 2023年03月06日 (月)
循環器病対策推進基本計画の施策の1つである、リハビリテーションについてご紹介いたします。

循環器病患者さんの社会復帰を目的とした、各地域でのリハビリテーション医療の提供1)

ここでは、第1期循環器病対策推進基本計画(以下、基本計画)の2つ目の個別施策にあたる「保健、医療及び福祉に係るサービスの提供体制の充実」を達成するための10の項目のうち、5) リハビリテーション等の取り組みについて、その現状および課題と取り組むべき施策、また、心血管疾患リハビリテーションガイドラインが過去10年にどのように変化したかをご紹介します。

循環器病患者さんの社会復帰を支援するという観点から、日常生活動作の向上など、生活の質の維持と向上を図るため、発症早期からの継続的なリハビリテーションの実施が必要となる場合があります。特に脳卒中患者さんでは、急性期診療を行った後にも、様々な神経症状が残ることも多いのが現状です。
一般的に脳卒中の管理において、発症後速やかにリハビリテーションを開始し、円滑に回復期と維持期のリハビリテーションに移行することが求められるため、医療と介護の間で切れ目のない、継続的なリハビリテーションの提供体制を構築していく必要があります。リハビリテーションと同時に合併症の治療が必要な場合や、合併症の治療が優先される場合などもあり、それぞれの患者さんに応じた対応が求められます。また、患者さんがリハビリテーションの目的や必要性を理解した上で、再発予防、重症化予防、生活再建や就労支援などを目的とした治療と仕事の両立支援を実現すべく、多職種によるアプローチをとっていくことが重要です。
心血管疾患患者さんの管理では、特に心不全などで入退院を繰り返す患者さんが増加していることから、再発予防と再入院予防が重要になります。このため、運動療法、冠危険因子の是正、患者さんへの教育、カウンセリングなどを含む多職種(医師、看護師、薬剤師、理学療法士、栄養士、医療ソーシャルワーカー、保健師など)による疾病管理プログラムの一環として、心血管疾患に対するリハビリテーションを実施することが関連学会より提唱されています。患者さんが継続的にリハビリテーションを実施できるようにするためには、専門家を育成しつつ、地域の医療資源を含めた社会資源を効率的に用いて、多職種が連携して取り組む体制を構築する必要があります。

今後、国が取り組むべき施策として基本計画では、急性期から回復期および維持期・生活期までの、患者さんの状態に応じたリハビリテーションの提供などの取り組みを進めることを挙げています。脳卒中患者さんでは、

  • 地域の医療機関が連携し、患者さんの状態を踏まえた適切な医療および介護サービスを継続して提供できるよう、地域連携クリティカルパス(急性期病院から回復期病院を経て早期に自宅に帰れるような診療計画を作成し、治療を受ける全ての医療機関で共有して用いるもの)を活用すること
  • これに加えて、急性期の病態安定後、機能回復や日常生活動作の向上を目的とした集中的なリハビリテーションの実施が有効であると判断される患者さんには、速やかにリハビリテーションを開始し、回復期に切れ目なく移行できる連携体制を構築すること

としています。また、合併症の発症などにより、集中的なリハビリテーションの実施が困難な患者さんに対しては、どのようなリハビリテーションを含めた医療を提供するかを検討することが必要になります。維持期・生活期にかけて、患者さんの状態に応じた生活機能の維持および向上を目的とした医療、介護そして福祉に係るサービスを提供するとともに、リハビリテーションを十分に実施できる体制を維持することが必要です。
一方、心血管疾患患者さんにおいても、疾病管理プログラムとして、リハビリテーションを急性期の入院中から開始し、回復期から維持期・生活期にかけても継続する重要性を挙げています。状態が安定した回復期以降には、リハビリテーションを外来や在宅で実施することも見据えつつ、地域の医療資源を含めた社会資源を効率的に用いて多職種が連携する体制について、その有効性も含めて検討する必要があります。患者さんの高齢化に伴い、循環器病にとどまらず、嚥下機能障害や廃用症候群など複数の合併症を認めるケースが増加していることから、個々の患者さんの合併症に対応したリハビリテーションを推進することについても検討が必要です。専門的な循環器病のリハビリテーション実施施設として、国立循環器病研究センターや榊原記念病院などがよく知られていますが、各地域でのさらなる専門的な医療機関の増設と、質の高い医療の提供が期待されます。

過去10年の心血管疾患リハビリテーションガイドラインの変化2)

学会の取り組みとして、日本循環器学会および日本心臓リハビリテーション学会が合同で作成したガイドライン「2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」から、リハビリテーションがこの10年あまりでどのように変化してきたかをうかがい知ることができます。初版から2012年版までの改訂は、主に心血管疾患の運動療法に関する記述が中心でしたが、現在は心臓リハビリテーションの概念が、QOLと長期予後の改善をめざす疾病管理プログラム、または循環器病予防介入へと大きく変化しています。心臓リハビリテーションについては、多職種を包含するチーム医療として行い、急性期から維持期まで切れ目なく対応し、地域包括ケア、さらには終末期までを対象とするため、今後の循環器医療体制に重要な役割を果たすであろうことが示されています。

  1. 厚生労働省. 循環器病対策推進基本計画(令和2年10月). https://www.mhlw.go.jp/content/000688359.pdf
  2. 日本循環器学会/日本心臓リハビリテーション学会合同ガイドライン. 2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2021年3月27日発行). https://www.jacr.jp/cms/wp-content/uploads/2015/04/JCS2021_Makita2.pdf
ページトップ