循環器病対策推進基本計画の施策-6 循環器病の緩和ケア

サイトへ公開: 2023年06月13日 (火)
循環器病対策推進基本計画の施策の1つである、緩和ケアについてご紹介いたします。

循環器病の緩和ケア

ここでは、第1期循環器病対策推進基本計画(以下、基本計画)の2つ目の個別施策にあたる「保健、医療及び福祉に係るサービスの提供体制の充実」を達成するための10の項目のうち、7) 循環器病の緩和ケアについて、その現状および課題と取り組むべき施策、また、緩和ケアにおける心不全とがんの共通点と相違点をご紹介します。

「緩和ケア」というと、がん治療を思い浮かべる医療関係者も少なくないかもしれません。しかし、2020年の世界保健機関の報告では、成人において緩和ケアを必要とする疾患別割合の第1位は循環器疾患であり、悪性新生物(がん)は第2位という結果であったことからも1)、循環器疾患における緩和ケアの必要性や認知度が高まっていることがうかがい知れます。
2018年4月の「循環器疾患の患者に対する緩和ケア提供体制のあり方に関するワーキンググループ」(以下、緩和ケアWG)の報告でも、“循環器疾患と悪性新生物(がん)は、共に生命を脅かす疾患であり、病気の進行とともに全人的な苦痛が増悪することを踏まえて、疾患の初期段階から継続した緩和ケアを必要とする一方、例えば心不全は臨床経過の特徴として増悪を繰り返すことから、治療と連携した緩和ケアが必要”とされています2)図1「身体機能、苦痛の程度」)。循環器病患者さんが直面する全人的な苦痛には、身体的、精神心理的、そして社会的な側面があり、各苦痛に含まれる要素として、以下が挙げられています2)。

  • 身体的苦痛:呼吸困難、全身倦怠感、疼痛など
  • 精神心理的苦痛:うつ、不安、認知機能障害、睡眠障害など
  • 社会的苦痛:家族や介護、経済的な問題など

図1 心不全の重症度ステージと患者さんの身体機能、苦痛の程度、および必要とされるケアの強度のイメージ

図1 心不全の重症度ステージと患者さんの身体機能、苦痛の程度、および必要とされるケアの強度

また、2020(令和2)年度の診療報酬改定において、「緩和ケア診療加算」「外来緩和ケア管理料」対象となる患者さんに末期心不全患者が追加され、必要な研修など盛り込まれたことは記憶に新しいところです。

今後、国が取り組むべき施策として基本計画では、先の緩和ケアWGの報告にある心不全患者さんの臨床経過および提供されるケアのイメージ(図1「必要とされるケアの強度」)で示される通り、特に終末期に患者さんは日々生命の危険を感じながら過ごすことから、全人的な苦痛のケアが必要であり、多職種連携や地域連携の下、循環器病患者さんの状態に応じた緩和ケアを治療の初期段階から推進することを推奨しています3)。そして、専門的な緩和ケアの質の向上にくわえて患者さんとその家族のQOL向上を図るため、関係学会などと連携し、医師などに対する緩和ケアに関する研修会を通じて、緩和ケアの提供体制を充実させていくこととしています3)
また、循環器系の学会や団体、および患者会などで構成される日本循環器協会の取り組みとして、運営するウェブサイト「知っておきたい 心不全のいろは(外部サイト)」4)*を通じて、一般の方に向けた心不全に関する疾患啓発の一環として診断、治療、公的な支援制度などを紹介するなど、心不全に関する総合的な情報の発信に力を入れています。

緩和ケアにおける心不全とがんの共通点と相違点2)

先に述べたとおり、循環器疾患とがんは、疾患の初期段階から継続して緩和ケアを必要とします。患者さんがお住いの地域で、多職種が連携して支援を行うにあたり、に示す心不全とがんとの主な共通点と相違点を理解した上で緩和ケアが実施されることが大切です。また、図2に示すように、心不全は、がんとは異なる疾病経過をたどる臓器不全の代表的な疾患です。これらの共通点・相違点は、慢性的な呼吸不全を呈する呼吸器疾患[慢性閉塞性肺疾患(COPD)など]、心不全以外の循環器疾患(脳卒中など)などの非がん疾患患者さんに対して、疾患特性に応じた緩和ケアを提供する上でも参考にできると考えられます。

表 心不全とがんの共通点および相違点

表 心不全とがんの共通点および相違点

図2 がんと臓器不全の疾病経過のイメージ

図2 がんと臓器不全の疾病経過のイメージ

*日本ベーリンガーインゲルハイムは、ウェブサイト「知っておきたい 心不全のいろは」の運営に関わっています。

  1. 世界保健機関 「Palliative care」(2020/8/5公開) https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/palliative-care
  2. 循環器疾患の患者に対する緩和ケア提供体制のあり方に関するワーキンググループ. 循環器疾患の患者に対する緩和ケア提供体制のあり方について[2018(平成30)年4月]. https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000204784.pdf
  3. 厚生労働省. 循環器病対策推進基本計画(令和2年10月). https://www.mhlw.go.jp/content/000688359.pdf
  4. 日本循環器協会. 知っておきたい心不全のいろは. https://heart-failure.jp/
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