循環器病対策推進基本計画の施策-9 診療情報の活用

サイトへ公開: 2023年06月13日 (火)
循環器病対策推進基本計画の施策の1つである、診療情報の活用についてご紹介いたします。

診療情報の活用1)

ここでは、第1期循環器病対策推進基本計画(以下、基本計画)の3つ目の個別施策にあたる「循環器病の研究推進」の中で、特に診療情報の活用に焦点をあててご紹介します。

循環器病の研究については、「健康・医療戦略」や「医療分野研究開発推進計画」などを踏まえ、厚生労働省、文部科学省および経済産業省が連携し、日本医療研究開発機構(以下、AMED)を通じて、基礎的な研究から実用化のための研究開発までの各段階においてその推進が図られています。また、様々な支援に基づき、国立循環器病研究センターをはじめとした医療・研究機関などでの研究も進められています。

基礎段階においては、病態の解明やバイオマーカー探索などの研究を推進するとともに、ゲノム情報やその他のオミックス情報(身体の中に存在している分子を網羅的にまとめた情報)の解析、またiPS細胞をはじめとする先端的な生命科学における成果も活用しつつ、様々な予防・早期介入法、診断法・治療法などに資するエビデンスを創出する研究開発を推進しています。医学研究に活用するため血液や組織などの試料とそれに付随する診療情報を保管するバイオバンクの形で収集なども一部で行われており、より一層の充実が望まれます。

応用段階においては、予防・早期介入法(医療機器など)の開発、治療法(医薬品、医療機器など)の開発・事業化、診断法や標準的治療の確立などの医療水準の向上、そして医療機器・社会システムの社会実装に向けた取り組み、多様な目的の研究について戦略的かつ総合的に推進が行われています。

これまでも、循環器病に対する様々な治療薬や医療機器が開発されてきましたが、循環器病の発症や重症化には多くの因子が関わっているため、その病態は十分には明らかにはされておらず、治療の多くは対症療法にとどまっていました。今後対症療法にとどまらず、原因に基づく治療法や、より低侵襲で有効な診断法・治療法を開発し、治療などに係る幅広い選択肢を国民に提供していくためには、コホート研究などによるリスク因子の同定、遺伝子や分子細胞レベルでの研究や臓器の相互作用(臓器連関)をはじめとする病態解明から、病態分子機序を標的とした新規治療法や診断技術の開発に向けた臨床研究をシームレスに進めることが重要になります。

今後、国が取り組むべき施策として基本計画では、基礎的な研究から実用化に向けた研究までを一体的に推進するため、AMEDにおける病態解明研究を含め、有望な基礎研究の成果の厳選および診断法・治療法などの開発に向けた研究と、速やかな企業導出の実施に向けた取り組みを推進することを挙げています。また、安全性を確保した上で、患者さんの苦痛軽減などのニーズを踏まえつつ、循環器病の病態解明、ならびに新たな診断技術や治療法の開発、リハビリテーションなどの予後改善、QOL向上に資する方法の開発、循環器病の主要な危険因子である生活習慣病の状況に加え、遺伝的素因などを含めた多様な観点から、個人の発症リスク評価や個人に最適な予防法・治療法の開発などに関する研究を、既存の取り組みと連携しつつ、体系的かつ戦略的に推進することとしています。

循環器病診療情報の登録システム2)

循環器病の診療情報を収集・活用することは、循環器病の発症状況や診療状況などの現状把握に基づいた診療提供体制の構築などに寄与することからも、循環器病対策の推進において重要です。これまで、日本循環器学会の診療実態調査である「JROAD」およびDPC情報を用いた「JROAD-DPC」、日本脳卒中協会の症例レジストリである「脳卒中データバンク」、また脳卒中の全国的な臨床データベースである「J-ASPECT Study」などが実施され、脳卒中と循環器病の診療実態の把握に努めています。

2019年の「非感染性疾患対策に資する循環器病の診療情報の活用の在り方に関する検討会」の報告でも、循環器病の症例情報を収集し、予防、診断、治療、リハビリテーションなどに活用するため、関係学会を交えた公的な情報収集の枠組みが求められること、さらには、将来的にこれらを統合して、脳卒中と循環器病の統合登録システムの構築が望まれることが示されました(図13)。これを受けて国立循環器病研究センターでは、2021年9月から「循環器病対策情報センター」を立ち上げ、収集事業開始に備えています4)

図1 診療情報の収集・活用のイメージ

図1 診療情報の収集・活用のイメージ

AMEDの研究事業の例5)

先に触れたAMEDの研究事業の一例として、「循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業」をご紹介します。この事業は、生活習慣の管理(栄養・食生活、身体活動・運動、休養・睡眠、飲酒、喫煙および歯・口腔の健康など)、健康診断・保健指導、生活習慣病の病態解明や治療法の確立、そして生活習慣病を有する患者さんの生活の質の維持・向上などの幅広いテーマを対象に、基礎から実用化までの一貫した研究開発を二つの分野に整理して、健康寿命の延伸や医療・医療費の最適化を目指すものです(図2)。分野の一つである「健康増進・生活習慣病発症予防分野」には、ヒトサンプルおよび食品成分のメタボロームデータの統合的解析によるマクロ栄養素摂取量に関するバイオマーカーの開発、またもう一つの分野である「生活習慣病管理分野」には、情報通信技術(ICT)を活用したDiabetic Kidney Diseaseの成因分類と糖尿病腎症重症化抑制法の構築などの研究が行われています。

図2 研究事業の例

図2 研究事業の例

  1. 厚生労働省. 第1期循環器病対策推進基本計画(令和2年10月).
    https://www.mhlw.go.jp/content/000688359.pdf
  2. 日本脳卒中学会、日本循環器学会 他. 脳卒中と循環器病克服5ヵ年計画 ストップCVD(脳心血管病)健康長寿を達成するために(2016年12月). https://www.j-circ.or.jp/five_year/files/five_year_plan.pdf
  3. 非感染性疾患対策に資する循環器病の診療情報の活用の在り方について. 非感染性疾患対策に資する循環器病の診療情報の活用の在り方に関する検討会(2019年7月). https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/000526843.pdf
  4. 国立循環器病研究センター. 循環器病対策情報センター. https://www.ncvc.go.jp/cvdinfo-ncvc/
  5. 厚生労働省. 第5回循環器病対策推進協議会(ペーパーレス)参考資料2 参考資料集.
    https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/000649147.pdf
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