コロナ禍のリーダーシップ-11 ストレス対処法

サイトへ公開: 2023年08月30日 (水)
CCLの調査結果に基づいて、パンデミック・ストレスに対処するためのレジリエンス、感謝の気持ち、曖昧さへの寛容を高めるためのアイデアを紹介します。

本シリーズでは、米国の非営利組織であるCenter for Creative Leadership (CCL)が、様々なマネージャーレベルに属するリーダー約300人を対象に、COVID-19パンデミックとそれに関連する深刻な混乱やストレス要因がリーダーと組織にどのような影響を与えたかを調査した結果をまとめた、リサーチペーパーを翻訳してご紹介します。 https://doi.org/10.35613/ccl.2021.2044
調査の方法の詳細は同シリーズ「コロナ禍のリーダーシップ-4 研究方法」をご参照ください。

目的:COVID-19パンデミックに端を発する混乱やストレスが、ビジネスリーダーとその組織のバーンアウト、働きがい、および総合的なウェルビーイングにどのような影響を与えたか、またレジリエンス、感謝の気持ち、そして曖昧さへの不寛容との関係性を調査する。

対象:CCLのオンライン調査パネル「Leading Insights」に登録するリーダー2,000名強

方法:質問票(詳細は「コロナ禍下のリーダーシップ-5 Appendix A」を参照のこと)を配布し、2020/6/29から2020/7/14の間に291名から回答を得た。得られた回答を記述統計、t検定、ANOVAS、ピアソンの相関、および構造方程式モデルにより解析した。

リーダーができるCOVID関連ストレスへの対処法

われわれは、高度な統計(構造方程式)モデリングを用いて、COVID関連ストレスに対処するための人材支援にはどのような戦略が効果的であるかを探りました。具体的には、COVID関連ストレスを軽減する可能性のある媒介変数として、感謝の気持ち、曖昧さへの寛容さ(曖昧さへの不寛容の代替)、レジリエンスに注目しました(すべての解析結果はリクエストに応じて提供します)。

その結果、レジリエンスや感謝の気持ち、曖昧さに対する寛容さによって、COVID関連ストレスの仕事のやりがいやウェルビーイングに対する負の影響を軽減されることが示唆されました。つまり、COVID関連ストレスを報告した人のうち、レジリエンスや感謝の気持ち、曖昧さへの寛容のいずれかまたはすべてのレベルが高い人は、仕事のやりがいやウェルビーイングのレベルがより高いことがわかりました。特に、仕事のやりがいについては、これら3つの要因(レジリエンス、感謝の気持ち、曖昧さへの寛容さ)が、COVID関連ストレスの影響を完全に相殺していることがわかり、これらを説明変数として分析に加味すると、COVID関連ストレスと仕事のやりがいの低下との相関は見られなくなりました。

最後に、感謝の気持ちを除き、レジリエンスと曖昧さへの寛容さは、COVID関連ストレスがバーンアウトを引き起こすリスクを部分的に軽減しました。

この調査結果がリーダーや組織にもたらす意味
本調査結果は、リーダー、特にCOVID-19の流行とそれがもたらしたものに直面しているリーダーが、COVID関連ストレスを軽減するために取るべき行動について、明確に示唆しています。まずCOVID関連ストレスがリーダーや従業員の生活にどのような影響を及ぼしているのかを、オープンにかつ透明性をもって、正直に共有できることが、重要な最初の一歩です。第二に、COVID関連ストレスがバーンアウトや仕事のやりがい、ウェルビーイングに及ぼす影響をリーダーが管理するためには、レジリエンスや感謝の気持ち、曖昧さへの寛容さをどのように養うのかに焦点を当てて、職場で介入やプログラムを実施することが有用であることが示唆されました。

レジリエンス、感謝の気持ち、曖昧さへの寛容さを高めるための提案
パンデミックに対処するための能力を向上させるための、これら3つの介入策にご興味がおありですか? ここに実践できそうなアイデアを挙げてみました。

  • 毎日リセットする:ストレスや曖昧さにうまく対処するために、日常の忙しさから意図的に離れる時間を設けてみてください。その間に、マインドフルネスや呼吸法などのエクササイズを行い、リラックスして集中力を高めましょう。また、単純に自分の考えを振り返ってみるのもよいでしょう。一日の過ごし方について、何か挑戦したいこと、変えたいことはないか、考えてみてください。
  • 感謝の気持ちを記録する:手紙やメール、チャット、はがきなどを介して、あなたの人生にポジティブな影響を与えてくれた人に感謝することが、あなたの感謝の気持ちを高めるのに良い方法であることが、研究によってわかっています。あなたの人生を豊かにしてくれる人(チームメンバー、メンター、アシスタント、人生のパートナーなど)を思い浮かべ、その人に感謝の気持ちを伝えましょう。また、感謝の気持ちを記録し、振り返るために、日記やリストをつけることもできます。今日感謝したことを3~5個書き留めるだけでかまいません。毎日または毎週、リストを書いてみてください。
  • 悩ましい考えに疑問を感じてみる:ストレスの多い状況下では、最悪の事態を心配したり、想定したりしがちです。たとえそれが退屈やイライラといった比較的軽い苦痛であっても、職場で苦痛を感じている自分に気づいたら、少し立ち止まって、自分自身や状況、あるいは周囲の人について思い込みをしていないかどうか考えてみましょう。“この自分の考えは、ものごとの全体像や様々な視点を反映したものだろうか、それとも、どちらかというとネガティブな面だけに注目してしまっていないだろうか?"、”この思考のせいで、私はどのような気持ちになっているのか?"、"この思考のせいで自分が苦しくなったり、やる気がなくなったりする一方で、反対にこの思考が役に立ったり、この思考のおかげでやる気がでたりすることがどの程度あるだろうか?"、"この思考のせいで、私は何がしたくなるだろうか?"


レジリエンスと感謝の気持ちを育み、曖昧さに対処できるようになるための、実証された方法については、COREフレームワークを紹介したCCLのリサーチインサイト・ペーパー(Fernandez, Clerkin, & Ruderman, 2020)を、また2021年発売の、マリアン・ルーダーマン、キャサリン・クラキン、カティア・フェルナンデスによるCOREの紹介と応用に注目した書籍を参照ください。

総括
まとめると、以上の結果は、COVID関連するストレスが、バーンアウトや仕事のやりがいといった仕事にかかわる変数から一般的なウェルビーイングにいたるまで、人間の機能の様々な領域に影響を及ぼすことを示唆しており、リーダーシップに関する知見の集積に寄与するものとなっています。一方で希望を抱かせる結果にもなっており、具体的には、レジリエンスの実践、感謝の気持ちの表現、曖昧さに対する寛容さの能力の育成に取り組むことは、すべてCOVID関連ストレスの負の影響を軽減するのに役立つことが示唆されています。この論文が、リーダーや組織がCOVID-19のパンデミックが職場に与えた影響について理解を深めるための一助となることを希望するとともに、今後関連する研究がさらに進められていくことを期待しています。

「コロナ禍のリーダーシップ」シリーズの参考文献
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「コロナ禍のリーダーシップ」シリーズの著者について


Katya Fernandez, Ph.D.

KatyaはCenter for Creative Leadershipのリサーチサイエンティストです。リーダーの認知の歪みと職域の重要なアウトカムとの間に存在する関係性において、感情の制御が果たす役割を探求しています。また、リーダーシップの文脈でレジリエンスを効果的に育成する方法にも広く関心を持っています。ワシントン大学(セントルイス)で心理学の博士号を取得。

Cathleen Clerkin, Ph.D.

Cathleenは、Candidのリサーチ部門のシニアディレクターです。この論文が書かれた当時は、Center for Creative Leadershipの戦略研究マネージャー兼上級研究員でした。研究テーマは、リーダーシップ開発における神経科学とホリスティックな実践の統合、組織におけるアイデンティティ、公平性、多様性、包括性の問題、創造性と革新性などです。ミシガン大学で心理学の博士号を取得。

Originally published by the Center for Creative Leadership in “Leading Through COVID-19: The Impact of Pandemic Stress and What Leaders Can Do About It”
https://cclinnovation.org/wp-content/uploads/2021/03/leading-through-covid19.pdf

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