糖尿病対策2- 健康日本21の最終評価から

サイトへ公開: 2023年06月29日 (木)
健康日本21(第二次)の最終報告書から、これまでの糖尿病対策にかかわる最終評価結果と今後の課題の概要をご紹介します。

健康日本21(第二次)の糖尿病にかかわる最終評価結果1)

ここでは、わが国の糖尿病対策に密接にかかわる「21世紀における国民健康づくり運動[健康日本21(第二次)。以下、同様]の最終評価報告書から、これまでの糖尿病対策にかかわる最終評価結果の概要と、最も高い評価と最も低い評価を得た項目の分析、さらに今後の課題についてご紹介します。

2022年(令和4年)10月に厚生労働省より健康日本21(第二次)の最終評価報告書(以下、最終報告書)が公開されました1)。健康日本21(第二次)は2013年(平成25年)度から開始された国民健康づくり運動であり、糖尿病やがん、循環器病疾患などを含む合計53項目について、目標設定後10年をめどに最終評価を行うこととしていました。この度報告された最終評価の内容は、「糖尿病対策に係る中間とりまとめ」(詳細は「糖尿病対策1- 施策の検討状況」を参照ください)で言及されているように、第8次医療計画など、今後の糖尿病対策にかかわる他計画との連携を含めた診療提供体制の見直しの検討に用いられます。

健康日本21(第二次)の評価は図1のとおり、「A(目標値に達した)」から「D(悪化している)」までの4段階に「E(評価困難)」をくわえた計5段階で評価する方法を採用しています。

図1 健康日本21(第二次)で採用された5段階評価

図1 健康日本21(第二次)で採用された5段階評価

糖尿病領域で目標を達成した項目1

糖尿病領域全体の最終評価結果を図2にお示します。

図2 糖尿病領域全体の最終評価結果

図2 糖尿病領域全体の最終評価結果

今回、最も高い「A(目標値に達した)」評価だった項目は、糖尿病の重症化予防が期待される「血糖コントロール指標におけるコントロールが不良だった患者さんの割合の減少[HbA1cがJDS値8.0%(NGSP値8.4%)以上の患者さんの割合の減少]」でした。ベースラインである2009年(平成21年)の1.2%と⽐べて、最終評価時点の2019年(令和元年)では0.94%でした(ベースラインからの相対的変化︓-21.7%)。
この結果は喜ばしいことである一方、検討会における議論の中で、近年糖尿病治療薬の選択肢が広がったことが結果に貢献している可能性があるという言及があったことには留意すべきでしょう2。性・年齢別の分析をみると、2017年(平成29年)度の男⼥・年齢区分別のコントロールが不良だった患者さんの割合は、どの年代においても男性のほうが⼥性より高く、男性全体では1.33%(⼥性全体0.51%)という結果でした1。特に、男性の50歳-64歳でコントロールが不良だった患者さんの割合が高く、1.5%を超えていました1

糖尿病領域の今後の課題1

他方、今回最も低い「D(悪化している)」評価だった項目は、糖尿病の発症・重症化予防にかかわる「メタボリックシンドロームと診断された患者さんとその予備軍」の数でした。図3のとおり、ベースラインである2008年(平成20年)度の約1,400万人と⽐べて、最終評価時点の2019年(令和元年)では約1,516万人と悪化しています(ベースラインからの相対的変化︓+8.3%)。

図3 メタボリックシンドロームと診断された患者さんとその予備軍の人数の推移

図3 メタボリックシンドロームと診断された患者さんとその予備軍の人数の推移

図4の性・年齢階級別の変化をみると、男性では60歳-69歳で⼀貫した増加がみられました。他の年齢区分においても、男性は、中間評価[2015年(平成27年)]ではいったん減少、または変化なしの傾向がみられたものの、最終評価時点の2019年(令和元年)ではどの年齢区分でも増加していました。
その他、「糖尿病腎症による年間の新規透析導⼊する患者さんの数の減少」と「治療継続する患者さんの割合の増加」の2項目が「C(変わらない)」評価でした。

図4 メタボリックシンドロームと診断された患者さんとその予備軍の割合の推移と変化幅[2008年(平成20年)と2019年(令和元年)の割合の差](年齢階級別)

図4 メタボリックシンドロームと診断された患者さんとその予備軍の割合の推移と変化幅[2008年(平成20年)と2019年(令和元年)の割合の差](年齢階級別)

上記の結果を踏まえて最終報告書では、糖尿病領域全体の今後の課題とその取り組みの例として、下記を挙げています1)

  • 糖尿病の⼀次予防、⼆次予防、三次予防の各段階において、切れ⽬や漏れのない対策が重要である。
  • 引き続き、「適度な運動」、「適切な⾷⽣活」、「禁煙」と「健診・検診の受診」の取り組みを進め、糖尿病の発症・重症化予防や適切な体重の維持、健診の受診率の向上を推進する。
  • 糖尿病を有する患者さんの⾼齢化に伴い、⾼齢者の糖尿病対策について⾃治体などへ下記のような事実を周知する。
    ー 内臓脂肪蓄積だけでなく、サルコペニア、⾝体活動の低下の影響が⼤きいこと。
    ー 認知症のある糖尿病を有する患者さんへの⽀援の在り⽅、治療⽬標・⽅法の修正など。

また、重症化予防および発症予防にかかわる課題とその取り組みの例として、下記を挙げています1)

  • 年間の新規透析導入される患者さんの⽬標達成[2028年(令和10年)までに糖尿病腎症以外の要因を含む年間の新規導入数を35,000⼈以下にする]に向けて、重症化予防のさらなる取り組みを推進する。
  • 医療保険者に対して、糖尿病腎症重症化予防の取り組みについて保険者インセンティブを含めた財政⽀援の継続を予定する。
  • 糖尿病を有する患者さんの数、メタボリックシンドロームと診断された患者さんとその予備軍の減少を⽬指して、さらなる取り組みを推進していく。
  • 働き盛りの患者さんにも受け⼊れられやすい、ICT(情報通信技術)を活⽤した予防プログラムを普及する。

先の結果で示された、糖尿病を有する患者さんの高齢化が進んでいること、また50代、60代男性で血糖コントロールが不良であったりメタボリックシンドロームに該当したりする患者さんの割合が高かったことなどへの対策も含め、最終報告書の内容が次期国民健康づくりプランや他の糖尿病対策計画に反映されることで、発症予防、重症化予防、そして合併症予防につながることが期待されます。

  1. 厚⽣科学審議会地域保健健康増進栄養部会、健康⽇本21(第⼆次)推進専⾨委員会. 健康日本21の最終評価報告書(令和4年10⽉). https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000998787.pdf
  2. 厚生労働省. 第1回腎疾患対策及び糖尿病対策の推進に関する検討会 議事録(令和4年10月28日). https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_29455.html
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