糖尿病対策6- 現状把握のための指標

サイトへ公開: 2023年08月30日 (水)
厚生労働省が第8次医療計画に向けて改訂中の、糖尿病対策にかかわる指標の選定基準とマトリックス3x3版について解説します。

糖尿病対策の現状把握のための指標1)

ここでは、厚生労働省の「腎疾患対策及び糖尿病対策の推進に関する検討会(以下、検討会)」から公表された中間取りまとめにおける、第8次医療計画にむけた糖尿病対策にかかわる指標例の見直しの方針と、指標27項目を表にしたマトリックス3x3版の改定案についてご紹介します。

医療計画は、医療機能の分化・連携を推進することを通じて、地域において切れ目のない医療の提供を実現し、良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を図ることを目的に策定されています。第5次以降の医療計画では、各地域の特性を勘案したうえで、具体的な評価指標や数値目標を設定することが求められるようになりました。これは、特に5疾病・5事業および在宅医療について、病期・医療機能およびストラクチャー・プロセス・アウトカムに分類した全都道府県共通の指標を示すことによって、医療体制の経年的な比較、医療圏間の比較、あるいは医療体制に関する指標間相互の関連性などを明らかにするためです。くわえて、把握した現状を基に課題を抽出し、PDCAサイクルをより有効に機能させて次の施策立案に活用しようとする、昨今のEBPM(Evidence-based Policy Making;エビデンスに基づく政策立案)につながるものでもありました。EBPMとは、政策の企画をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化したうえで政策効果の測定に重要な関連をもつ情報や、統計などのデータを活用する政策立案手法のことを指します2)
その中、2023年(令和5年)2月に厚生労働省の検討会から、糖尿病対策に係る中間とりまとめが公表されました3)。とりまとめでは、次の第8次医療計画で用いられる糖尿病対策の指標例の見直しについて研究班より提案がありました。
今回の指標例改定の前提として研究班が意識したポイントには、

  • “指標項目”の選定に注力し、具体的な“定義”については参考に留めた
  • 過去の指標項目との継続性や、各疾患領域のバランスなどに配慮した
  • 指標項目の重複はなるべく避けるように配慮した
  • 今後、各都道府県の行政官・医療者が理解しやすいよう、なるべくシンプルにするよう配慮した

ことが挙げられています。

上記を踏まえ、第8次医療計画では以下の方針で整理を進める提言がなされました。

  • 下記の3項目を軸に全体を整理する。
    ① 糖尿病の予防
    ② 糖尿病の治療・重症化予防
    ③ 糖尿病合併症の発症予防・治療・重症化予防
  • 「専門家数」と「専門医療機関数」のいずれも用いうる指標は、医療提供体制の整備という観点から「専門医療機関数」を採用する。
  • 「比率」と「実数*」のいずれも用いうる指標は、都道府県間での比較を可能とする観点から、原則として「人口10万人当たりの比率」を採用する。

*ただし、「1型糖尿病に対する専門的治療を行う医療機関数」や「妊娠糖尿病・糖尿病合併妊娠に対する専門的な治療を行う医療機関数」などの、「人口10万人当たり」を母数とすることが必ずしも適当でなく、かつ適切な母数(母集団)の設定が難しい指標については「実数」を用いる。
また、「HbA1cもしくはグルコアルブミン(GA)検査の実施」や「重症低血糖の発生率」などの糖尿病を有する患者さんを対象とした検査の実施、ならびに糖尿病を有する患者さんの合併症の発生については、母数として「糖尿病患者数」を用いる。

定義における議論の詳細について「比率」と「実数」を例に述べると、これまでの医療計画では実数での算出でしたが、都道府県比較のためには、実数より比率のほうが望ましいという検討結果でした。また、比率にする場合、指標によっては分母の検討が必要なこともあり、分母の設定が困難な指標項目の場合には、実数とすることも考慮されました。
分母として「糖尿病を有する患者さんの数」が望ましいと特に考えられた項目は、医療の質としてプロセス指標に関わる指標項目であり、HbA1c・GA検査の実施、眼底検査の実施、尿中アルブミン・蛋白定量検査の実施、クレアチニン検査の実施(いずれも患者さんの数もしくは割合)などが該当しました。
また、分母が「人口10万人対」または「糖尿病を有する患者の数」のどちらでもないと考えられた項目は、分子が発生し得る母体となる集団を特に見定めるべき項目であり、1型糖尿病に対する専門的治療を行う医療機関数や妊娠糖尿病・糖尿病合併妊娠に対する専門的な治療を行う医療機関数などが該当します。

さらに、第7次医療計画で採用されたマトリックス3x4版(37項目)は、マトリックス3x3版(27項目)()への改定が提案されました。このように、より研究や実臨床で活用しやすい指標に改定された内容が、今後の第8次医療計画などに反映されていくものと考えられます。

表 マトリックス3x3版 糖尿病の医療体制構築にかかわる現状把握のための指標例案(27項目のイメージ)

表 マトリックス3x3版 糖尿病の医療体制構築にかかわる現状把握のための指標例案(27項目のイメージ)

これまでも厚生労働省はEBPMを推進してきました4)。ここでご紹介した指標の見直しなどもEBPMの一環であり、エビデンスに基づいた医療政策立案が今後わが国でどのように進められていくのか、注目が集まります。

  1. 厚生労働省. 資料3-4:山内参考人提出資料「糖尿病の医療体制構築に係る現状把握のための指標について」. https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/001005977.pdf
  2. 内閣府. 内閣府におけるEBPMへの取組. https://www.cao.go.jp/others/kichou/ebpm/ebpm.html
  3. 厚生労働省. 腎疾患対策及び糖尿病対策の推進に関する検討会における糖尿病対策に係る中間とりまとめ(令和5年2月13日). https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/001057801.pdf
  4. 厚生労働省. 厚生労働省のEBPM推進に係る有識者検証会(令和4年度). https://www.mhlw.go.jp/stf/yuusikisha04.html
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