糖尿病対策7- 腎症重症化予防プログラムの効果検証事業の概要

サイトへ公開: 2023年08月30日 (水)
厚生労働省と経済産業省が合同で進める予防・健康づくりに関する大規模実証事業の目的と事業内容を概説します。

予防・健康づくりに関する大規模実証事業1)

ここでは、厚生労働省と経済産業省が合同で進めている「予防・健康づくりに関する大規模実証事業」の一環である、糖尿病性腎症重症化予防(以下、重症化予防)プログラムの効果検証事業の概要をご紹介します。
なお、本稿では日本糖尿病学会の記載に準じて「糖尿病腎症」で統一した表記としていますが、厚生労働省などで行われている事業名や公的資料の中で「糖尿病性腎症」が用いられている場合は「糖尿病性腎症」と表記しています。
わが国では、2019年(令和元年)6月21日の「経済財政運営と改革の基本方針2019」において、“データ等を活用した予防・健康づくりの健康増進効果等を確認するため、エビデンスを確認・蓄積するための実証事業を行う”ことが閣議決定されました2)。厚生労働省と経済産業省では、この方針に基づき、保険者などに対して適切な予防健康事業の実施を促進するため、2020年(令和2年)度から予防・健康づくりの大規模実証事業(以下、大規模実証事業)を開始しました(概要は図1を参照ください)。また、このような国の取り組みに伴う身近な変化として、マイナンバーカードの保険証利用は記憶に新しいところです。

図1の「実証事業の内容(予定)」で示すように重症化予防プログラムの効果検証事業は、この大規模実証事業の中で、糖尿病対策の個別実証事業のひとつに位置づけられています。重症化予防プログラムの効果検証の結果を踏まえて2023年(令和5年)度以降、保険者などによる予防健康事業等での活用が予定されています。

図1 予防・健康づくりの大規模実証事業(概要)

図1 予防・健康づくりの大規模実証事業(概要)

重症化予防プログラムの効果検証事業1)

重症化予防プログラムの効果検証事業の概要を図2にお示しします。
重症化予防プログラムの目的は、保険者で実施する糖尿病腎症重症化予防の取り組みについて、その介入および支援の効果やエビデンスの検証を、腎機能などへの影響の長期的な効果と、受診状況における変化の短期的な効果の2つの観点から実施することでした。
これまで保険者は、重症化予防プログラム[2016年(平成28年)4月策定、2019年(平成31年)4月改定]に基づき、かかりつけ医や専門医との連携のもと、健診・レセプトデータから抽出したハイリスク者(糖尿病治療中の人や治療中断かつ健診未受診の人など)に対する受診勧奨や保健指導に取り組んできました。
そこで今回、今後介入すべき対象者の優先順位や適切な介入方法などをより明確化するため、下記に示す3つの効果検証を行いました(各効果検証事業については、次回以降のコンテンツでご紹介していきます)。
① 保健指導などの介入を受けた糖尿病腎症を有する患者さんにおける検査値を含む指標の変化を分析する
② 糖尿病腎症未治療者と治療中断者に対する医療機関への受診勧奨の有効性を分析する
③ NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)やKDB(国民健康保健データベース)を活用し、長期的な検査値の変化や重症化リスクの高い対象者の特徴を分析する

図2 重症化予防プログラムの効果検証事業(概要)

図2 重症化予防プログラムの効果検証事業(概要)

先に糖尿病対策にかかわる指標例の見直しの記事で、EBPM(Evidence-based Policy Making;エビデンスに基づく政策立案)についてご紹介しました(詳しくは「糖尿病対策6- 現状把握のための指標」を参照ください)。大規模実証事業もまた、エビデンスを確認・蓄積し、かつエビデンスに基づく評価を次の取り組みに反映していくことを目的に実施されています。計画では、2023年(令和5年)度までに効果検証の結果を踏まえて保険者などによる予防健康事業等での活用が予定されています。糖尿病腎症の重症化予防プログラムにどのように反映され、患者さんにどのような影響を与えていくのか、今後の展開に期待が寄せられています。

  1. 厚生労働省. 糖尿病性腎症重症化予防プログラムの効果検証事業報告書(令和3年度). https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_18949.html
  2. 内閣府. 経済財政運営と改革の基本方針2019 ~「令和」新時代:「Society 5.0」への挑戦~(令和元年6月21日閣議決定). https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2019/decision0621.html
ページトップ