地域における薬物治療の標準化を目指して ~フォーミュラリ策定における評価軸の検討~ | インタビュー企画

サイトへ公開: 2020年05月08日 (金)
薬物治療標準化、医薬品リスク管理の向上、医療費抑制などから期待されるフォーミュラリ。その策定の意義や評価軸、地域展開について薬剤師の先生方に討議いただきました。

2019年11月

薬物治療標準化、医薬品リスク管理の向上、医療費抑制などから期待されるフォーミュラリ。その策定の意義や評価軸、地域展開について地域基幹病院の薬剤師の先生方にご討議いただきました。

(2019年9月13日開催 会場:ベルサール東京日本橋)

三浦 誠 先生
司会:三浦 誠 先生
洛和会音羽病院
薬剤部 副部長(薬剤部統括)
高栁 和伸 先生 本郷 文教 先生 筒井 由佳 先生 舟越 亮寛 先生
高栁 和伸 先生
倉敷中央病院 薬剤部
薬剤本部長
本郷 文教 先生
手稲渓仁会病院
薬剤部 部長
筒井 由佳 先生
近森病院 薬剤部 部長
舟越 亮寛 先生
亀田総合病院 薬剤部
薬剤部長

地域包括ケアシステムの構築に向け、急性期から慢性期、そして在宅まで、切れ目のない医療の提供体制づくりが進められています。薬物治療も例外ではありません。地域における患者さん1人ひとりの状態に合わせた標準的かつ継続的な薬物治療へのニーズが高まっています。
薬物治療を標準化する仕組みとして期待されるのがフォーミュラリです。フォーミュラリの地域展開については、医療費抑制政策の1つとして、国も積極的に推進していく動きをみせています。
本座談会では、地域医療をけん引する基幹病院で薬物治療を担っておられる薬剤師の先生方にお集まりいただき、フォーミュラリ策定・運用の意義や、地域展開のあり方、フォーミュラリ策定のために必要な評価軸の選定や策定の方法論についてご検討いただきました。

この記事のキーワード

薬物治療の一元化・標準化/タスク・シフト/PBPM/2020年度診療報酬改定/後発医薬品の使用促進/在庫管理/地域の合意形成/有効性・安全性・経済性・合理性/DIスキル/RMP/費用対効果/用法用量/フォーミュラリのアウトカム評価

目次

<フォーミュラリOver View>
1.地域フォーミュラリの意義と薬剤師の役割
 A.タスク・シフトおよび地域連携の重要性
 B.フォーミュラリをめぐる現状と課題
 C.地域フォーミュラリの展開方法
2.糖尿病治療薬における評価軸を考える
 A.何をどのように評価するか
 B.DPP-4阻害薬のケース
3.まとめ:不可欠となる薬物治療標準化の視点

<フォーミュラリOver View>

三浦 誠先生

三浦先生 本日は、地域医療の標準化に向けたフォーミュラリのあり方につきまして、皆さんと検討していきたいと思います。
ご承知のとおり、高齢化を背景に高騰する医療費の抑制策として、近年の診療報酬改定ではポリファーマシーや残薬への対応、後発医薬品の使用促進などが進められてきました。特にポリファーマシーの問題は、地域で患者さんの服薬管理が一元化されていないという現状を浮き彫りにしていると思います。
薬剤師の業務に視点を移すと、時代とともに対物中心から対人中心に移行しており、多職種連携や薬薬連携、処方分析・提案といった医師と薬剤師の協働が展開されてきている状況です。
また、最近では医師の働き方改革推進策の1つとして、タスク・シェアやタスク・シフトを推進することが求められています。薬剤師が多職種とどう協働していくかは、平成22年4月30日の医政局長通知*で具体的に明示されていますが、重要なのは、外来や入退院時、在宅復帰の際、または医療と介護の連携において、一元的・継続的な服薬管理のもとで、切れ目なく薬物治療を継続していくこと。そのために情報共有を含めた多職種との連携がポイントです(図1)。

*医政発0430第1号、平成22年4月30日、医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について

図1 薬物療法に関する連携(イメージ)

図1 薬物療法に関する連携(イメージ)

(資料:平成30年10月18日 第7回医薬品医療機器制度部会資料2より抜粋)

そして、地域での薬物治療の標準化を図る手段として、院内・地域フォーミュラリに取り組むことがあるのではないかと考えられます。
フォーミュラリ導入で期待される効果としては、標準薬物治療の推進や医薬品リスク管理の向上、経済性の観点からは後発医薬品の有効活用、院内採用医薬品数の削減などが挙げられます。また、副次的には医薬品購入費の削減にもつながるでしょう。導入が地域に拡大すれば、意思決定者が多く介在するため策定の難易度が高くなりますが、その分地域医療経済への影響度も大きくなります。
さて、現在のフォーミュラリ導入状況を見ると、現状、院内フォーミュラリの導入割合は極めて低く(図2)、まだまだ周知されているとは言えません。フォーミュラリをどう扱えばいいのか、悩まれている病院薬剤師は少なくないと思われます。一方で国は2020年度診療報酬改定で医薬品の適正な利用の在り方の1つとしてフォーミュラリ等の対応を検討しています。したがって病院薬剤師もフォーミュラリについて考えていくことが、喫緊の課題と言えるでしょう。

図2 フォーミュラリの導入状況

図2 フォーミュラリの導入状況

(資料:中医協診療報酬改定結果検証部会(2019年3月27日)資料「平成30年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査の報告書案」)

1.地域フォーミュラリの意義と薬剤師の役割

A.タスク・シフトおよび地域連携の重要性

三浦先生 それではフォーミュラリについて早速ご意見を伺いたいと思いますが、策定に当たってはキーワードとして医師や多職種との連携、タスク・シフトが関連します。その辺りの現状からお話しいただけますか。

本郷 文教先生

本郷先生 本年7月の厚生労働省のヒアリング資料に、医師または医師以外の職種が担う業務のうち、薬剤師に移管が可能な業務が挙げられています*。実際には1988年度の診療報酬改定で入院調剤技術基本料が新設されたのをきっかけに薬剤管理指導業務が本格的にスタートし、以来、医師の処方に対して薬剤師の介入がどんどん進んでいます。医師も処方提案に関して柔軟な対応をとるようになってきており、特にPBPM(プロトコルに基づく薬物治療管理)の概念が浸透するにつれ、薬剤師の介入が一気に広がってきた印象を持っています。
手稲渓仁会病院では薬剤師による処方提案を以前から積極的に行ってきましたが、PBPMによって、病院全体として承認されたという実感があります。現在、整形外科病棟では処方全体のうち30%ほどを薬剤師が入力している状態で、外科系医師からは大変好評です。内科系の医師からも薬剤師に介入してほしいという要望があり、今後さらに医師のニーズは高まると考えています。
*日本薬剤師会・日本病院薬剤師会、令和元年7月17日、医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフティングに関するヒアリング(提出資料)

高栁 和伸 先生

高栁先生 ご指摘のとおり、医師と薬剤師の役割分担は間違いなく進んでいます。一方で、今、新たに問題となっているのは薬物治療の継続性です。病院でしっかり治療が行われても、退院後に服薬を継続していただけず、再入院となるケースがある。これは、入院時の確認作業や退院時の指導が不十分、あるいは退院後のフォロー不足、といった理由が考えられます。
倉敷中央病院では、「入院中の継続的かつ安全な投薬を行っていく上で、薬剤師の支援が欠かせない」として持参薬の確認・評価を始めました。継続可能な薬、術前に中止する薬、術後再開する薬などを各診療科の医師と話し合い、ルール化して評価の枠を拡大してきました。今後は入院中にとどまらず、地域で薬物治療を継続していく視点が、病院薬剤師には求められています。

筒井 由佳 先生

筒井先生 近森病院では、地域の薬局や薬剤師会との連携を進めていく中で、院内での取り組みを公開して地域と共有しています。例えば、先ほども出たPBPM。医師との事前の取り決めで病院薬剤師の疑義照会を簡素化していますが、これを地域にも当てはめていく。フォーミュラリに関しても、基幹病院では医薬品の使用指針の類を定めていると思いますので、それが薬物治療の標準化に有用であれば、地域に広げていけばいいという考えです。

三浦先生 洛和会音羽病院でも医師と薬剤師の事前合意内容に基づく処方代行入力について、医師へアンケートを実施しましたが、医師のほとんどから高評価を得ています。やはり、薬物療法が継続できるよう院内の取り組みを実施し、それを地域に発信していくことは重要ですね。

舟越 亮寛 先生

船越先生 少し視点を変えると、PBPMが実践されている病院は、病棟薬剤業務実施加算を算定しているところがほとんどです。同加算の届け出件数はまだ病院全体の2割ほどですが、その2割が3割、4割と増えていけば、おのずとPBPMは普及し、標準化も図られていきます。逆に言うと、冒頭で三浦先生がおっしゃったように、PBPMにしてもフォーミュラリにしても、今のところはまだ最先端の難易度の高い取り組みであるとも言えます。

B.フォーミュラリをめぐる現状と課題

三浦先生 そのハードルの高い取り組みですが、まだ少ないとはいえ、フォーミュラリを施設からグループ、地域へと展開している病院が出てきているのは確かですね。昭和大学病院では、附属病院間を患者さん・医療従事者が移動する際に、医薬品の切り替えが必要になるケースがあり、その行為自体が服薬コンプライアンスに影響を与えるというリスク要因になっていたと聞いています。また治療の標準化の遅れに加え、採用品目数の増加に伴う経済的なデメリットも多く、フォーミュラリの運用に至ったそうです。
フォーミュラリの策定と地域への展開が薬物治療の継続と標準化を図っていく上で大きな手段になるのは間違いないと思いますが、どのように進めていくべきかご意見をいただけますか。
院でも医師と薬剤師の事前合意内容に基づく処方代行入力について、医師へアンケートを実施しましたが、医師のほとんどから高評価を得ています。やはり、薬物療法が継続できるよう院内の取り組みを実施し、それを地域に発信していくことは重要ですね。

筒井 由佳 先生

筒井先生 フォーミュラリの地域展開については、高知県では全く進んでいないと思います。ただ、その必要性は感じています。当院でインスリンを処方された患者さんが、転院後に当院へ再入院したときに、処方が変更されているといったケースがあります。情報提供書があっても、転院先で継続されていないという現実があるのです。
また、地域性は大きな要素だと思います。人口約30万人のところに3つの基幹病院がある高知市では、どこか1つの病院が医師会等と協力してフォーミュラリを策定するのは、なかなか大変でしょう。ただ、幸い薬剤師間では病院同士の情報共有を行っているので、ここが突破口になるかもしれません。

三浦先生 医療機関同士のタイアップの仕方は重要でしょうね。採用薬の観点からは、やはり後発医薬品の採用が進んでいると思いますが、受診ごとに同一成分でも違う銘柄に替えられると患者さんも不安になりますし、医療従事者側にとっても手間になります。いろいろ難しい問題をはらんでいます。

筒井先生 後発医薬品の採用に関して地域で講演した際、ある薬局から当院のホームページで公開している採用薬を参考にしたいと伺いました。採用薬の安全性や経済性など、院内でしっかりフォーミュラリの基準を評価していく必要性を感じましたし、それを公開するのは大きな意義があると考えています。

本郷先生 当院は札幌市手稲区という人口20万人の地域規模の基幹病院で、確かに高知市とは環境が異なるようです。当院の場合むしろ、連携を図っている地域のクリニックからどのような薬を採用しているのか尋ねられます。そのような状況もあって、当院でも採用薬をほぼ公開していますが、それが地域内で同じような薬を採用していくことにつながっていくと考えれば、地域フォーミュラリと言えるのかもしれません。

高栁先生 その通りだと思います。難しく考えてしまいがちですが、要するに医薬品の使い方を近隣の病院や薬局と情報共有していく。その1つひとつの積み重ねがフォーミュラリになっていくと思いますね。逆に、ある日突然「これがフォーミュラリです」とリストを見せられても、なかなか難しいでしょう。

舟越先生 亀田総合病院では、医薬品の採用手続きは整備されているのですが、「1増1減」や「同種・同効薬は2枠まで」など、在庫管理の観点からのルールが多いです。実際、当院に限らず多くの病院の医薬品集の手順書などは、病院経営的な観点から作られていると思います。そこに、臨床的なルールがもう少し盛り込まれてくると、医薬品集からフォーミュラリの概念に近づいていく。そして地域ごとの事情や特性を踏まえてつくられたものが、地域フォーミュラリになっていくのでしょう。その前提として、まず院内で使用指針をつくり、医師の合意形成が図られていく必要があります。

本郷先生 今、在庫数の観点から採用薬が限られる場合が多いですが、患者さんに応じて採用薬でない医薬品を臨時に取り寄せる場合があります。ですがこれは例外的で仕方のない部分。基準は何かということを決めておくことが重要ですね。

高栁先生 なるほど、基準を決めたうえで、例外的なケースの妥当性を検証することも大事になりますね。

C.地域フォーミュラリの展開方法

三浦先生 医薬品の採用手続きのルール化は在庫管理の観点では整備できているものの、臨床的に十分落とし込めていないというところが課題ということですね。また地域で展開していくには、地域性を踏まえて基幹病院が基準となるようなルールをつくり、それを連携先の医療機関や薬局に提供していくことが必要だということかと思います。

本郷先生 例えば感染症領域では、抗菌薬の使用方法に関して標準化が進んでいますね。各施設のアンチバイオグラムを参考に耐性菌の出現を抑えるためのAST(抗菌薬適正使用支援チーム)の取り組みは、フォーミュラリの実践にかなり近い。

舟越先生 NST(栄養サポートチーム)やICT(感染対策チーム)もそうですが、院内チームでの支援や介入の標準化に伴って、医薬品も標準化されていく傾向がありますね。一方、専門医と非専門医といった施設をまたいだ連携においては標準化があまり進んでいないという現状がありますが、そこをチーム化していくことができれば、地域への展開が望めると考えています。

筒井先生 具体的には、例えば、皮膚科の医師が1名だけで、毎日勤務できないという場合、その皮膚科医と一緒に抗菌薬の使い方を見直して、採用薬や使用指針を決めることができれば、他の医師も安心して処方できると思います。専門医のいない他の施設に広げていくこともできるのではないでしょうか。

舟越 亮寛 先生

舟越先生 国が本気で地域フォーミュラリを進めたいなら、各都道府県で設置されている後発医薬品安心使用促進協議会のように、フォーミュラリ推進協議会みたいなものを構築することも考える必要があると思います。地域全体の合意形成には三師会はもちろん、行政を巻き込むことがポイントだと思います。基幹病院が主導しても、経営的な事情で参加していただけない先生方もいらっしゃいますから、全体の合意形成には、調整役として行政に入ってもらう必要があるわけです。

三浦先生 確かに薬物治療に関してはいろいろな考え方があるでしょうし、経営的な事情もあり、それをとりまとめていくのは大変です。行政を後ろ盾にしたフォーミュラリ推進協議会といった組織が必要かもしれませんね。

2.糖尿病治療薬における評価軸を考える

A.何をどのように評価するか

三浦先生 健康保険組合連合会(健保連)は8月、診療報酬体系に「生活習慣病治療薬のフォーミュラリを盛り込むべき」と主張し、糖尿病治療薬ではビグアナイド薬の後発医薬品を第1ステップとすることを提案しています*。生活習慣病治療薬に関しては、経済性にウエイトが置かれ、後発医薬品の優先度が高い印象はありますが、DPP-4阻害薬のように先発品しか市販されていない領域では、どういう点をみていけばいいのか。糖尿病治療薬におけるフォーミュラリの評価軸について検討していきます。
*健康保険組合連合「政策立案に資するレセプト分析に関する調査研究Ⅳ」(2019年8月)
まず、糖尿病治療薬全般についてです。先ほど紹介した昭和大学病院でのフォーミュラリの作成情報源(表1)を例にして議論を進めたいと思います。有効性のパートでは、審査報告書、添付文書、医薬品インタビューフォームなどが挙げられていますが、この辺りは活用されていますか。

表1 フォーミュラリの作成情報源

表1 フォーミュラリの作成情報源

(資料:昭和大学病院ホームページ http://www.showa-u.ac.jp/SUH/guide/pharmacy/formularyをもとに作成)

本郷先生 DI担当者は目を通していると思いますが、審査報告書まで読み込んでいる病棟薬剤師は多くはないと思います。
三浦先生 それは臨床試験プロファイルも同様でしょうか。薬剤師の情報収集能力や、得られた医薬品情報の提供能力が重要になってくると思いますが、そのあたりの教育はどうされているのでしょう。

舟越先生 新薬が出た場合、当院ではここに挙げられている資料を全部読まなければ埋まらないような、DI室作成のチェックシートを用いて、薬剤師の新人研修に活用しています。新人薬剤師は資料を総括的に評価できるようになってから、病棟に配属となるわけです。こういった資料に一度は目を通しておかないと、医薬品情報の収集・提供の際に抜け・漏れが生じかねません。

高栁先生 そうですね。どの資料に何が記載されている、といった最低限のDIスキルはすべての薬剤師が持っておくべきでしょう。情報の見落としが有害事象の発生につながりでもしたら、責任を問われかねません。最低限のスキルを身につけるのは努力というよりも義務でしょう。

舟越先生 教育制度として整備することの利点は、フォーミュラリを策定する際、薬物評価において管理職と現場の薬剤師との目線合わせになることです。DIスキルにバラつきがあることで、議論が進まなくなったり、特定の人の発言ですべてが決まったりしてしまうようなことは絶対に避けなければなりません。

高栁先生 例えばインタビューフォーム。当院ではADMEの情報については詳細をMRに確認するようにしています。医薬品の体内動態は薬剤師として最低限知っておくべき情報です。ただ、これは有効性というよりむしろ安全性に関することかもしれません。

三浦先生 安全性の話が出ましたので議題を移しますが、現状、RMP(医薬品リスク管理計画)の利活用が現場レベルであまり進んでいないということがありますが、その点はいかがでしょうか。

高栁先生 RMPは製薬企業が策定するのですが、理想的には、それにとどまらず、院内独自のRMP、さらに広げて地域におけるRMPを作成できるのではないかと期待しています。「RMPの各リスクが該当なし」という新薬が時々ありますが、そういうものこそ独自に作成する意義はあると思っています。
三浦先生 安全性のリスクに対しては、添付文書よりも細かなデータが記載されているRMPをしっかりと理解して活用していくことが、医薬品の評価やフォーミュラリの作成で重要になってくるということですね。
経済性についてはいかがでしょうか。

舟越先生 当院では、同種同効薬の場合、有用性加算のついていない医薬品は採用しません。副次的にイベントを抑えるという評価があっても同様です。ここの割り切りは明確ですが、費用対効果というラインまで落とし込めていないのが現状です。

高栁先生 糖尿病治療薬をはじめとした生活習慣病治療薬の費用対効果をどう評価するかは、正直すごく難しいと思います。実際に評価するとなると何年にもわたって継続してデータを収集していくということになりますから。

三浦先生 病院での医薬品の新規採用・更新の際に、例えば海外での費用対効果に関する評価を、どう経済性に結び付けるかという視点が必要ですね。最後に合理性についてはいかがでしょうか。

舟越先生 同種同効薬であれば、新しく上市された新薬の方が相対的に少ない適応になりますね。この場合、合理性を考えれば新薬を採用する必要はないということになる。もちろん、採否を考える要素はこれだけではなくて、デバイスも含めた使用性の視点も重要かと思います。効率性や利便性などをいろいろ組み合わせて合理的かどうかを判断するということです。

筒井先生 デバイスについては、服薬の継続性を考えて従来と同じタイプ、あるいは普及しているタイプにした方がいいという選び方はありますね。剤形のバリエーションという視点も必要ですね。これは高齢化率の違いなど、地域によって重要度が変わってくるかもしれません。

本郷 文教先生

本郷先生 あるいは、急性期と慢性期という施設機能によっても異なりますね。しっかり検討していく必要があります。

三浦先生 ありがとうございました。

B.DPP-4阻害薬のケース

三浦先生 本セッションの冒頭に申し上げたDPP-4阻害薬でのフォーミュラリ評価軸について、最後に議論したいと思います。有効性の評価項目につきましては例えばHbA1c低下作用や血中DPP-4阻害活性が挙げられます。HbA1c低下作用については、年齢によって使いやすいかどうかを、添付文書やインタビューフォーム、あるいはRMPを読み込む必要がある。血中DPP-4阻害活性についてはいかがですか。

舟越先生 薬理学的特性の知識としては頭に入っていますが、それが何に影響するのかは不明な点が多いです。長期の臨床試験でエビデンスが出てくれば効果の裏付けにはもちろんなりますが、プロファイルとして重きを置くかというと、そうでもないのではないでしょうか。

三浦先生 なるほど。では、どのような点でも構いませんので、お考えをお聞かせください。

本郷先生 用量・用法はどうですか。DPP-4阻害薬の服用回数は1日1、2回、週1回と様々ですが、患者さんによって選択は異なります。

舟越先生 当院では基本1日1回のものを選んでいます。糖尿病治療薬は1日1回のものが多いですし、夕方の飲み忘れを防ぐという理由もあります。ただ、糖尿病治療には併用薬が多いので、用法・用量の評価はおっしゃる通り患者さんごとに捉えていく必要があると考えています。

三浦先生 DailyかWeeklyかの選択では、これも地域性があるかもしれません。合理性を考える要素の1つとして確認しておくべきですね。

筒井先生 地域性の点では、高知市では若くて元気な糖尿病の方は少なく、ほとんどが高齢者です。ポリファーマシーや残薬の問題、介護の頻度なども考慮すると、Weeklyは選択肢に含まざるを得ないというところです。

高栁先生 米国では、FDAが新規2型糖尿病治療薬に対し、心血管への安全性を証明する試験の実施を義務付けています。心血管リスクが増大しないことが承認の条件になっているので、その点を考慮に入れて、心血管リスクをエビデンスで検証した薬剤を選択することは必要なのかもしれません。

3. まとめ:不可欠となる薬物治療標準化の視点

三浦 誠先生

三浦先生 糖尿病治療薬、DPP-4阻害薬の評価軸ということで、様々な視点をご提示いただきました。
私から最初にまとめとして申し上げると、地域フォーミュラリを策定・運用して地域の薬物治療の標準化を進めていくには、・各施設におけるチーム医療や人材教育のシステムおよびツールを充実・発展させる、・地域と共有していく、・医薬品の採用に当たっては有効性・安全性・経済性・合理性の観点からバランスよく評価する、ということです。
ただ、これまでのフォーミュラリの取り組みをみると、医療費抑制や病院経営上の都合といった経済性が重視される傾向がありますので、本来行われるべき薬物療法に支障を来していないかといった点を吟味する必要があります。

舟越先生 老健(介護老人保健施設)などでは、処方された高額な医薬品は切り替えられ、そこでミスが発生した事例もあるようですので、たしかに経済性ばかり優先すると医療安全上の問題が生じやすいと思います。

筒井先生 フォーミュラリに関しても、経済性だけでなく、今回議論されたようにエビデンスを重視した策定が必要だと思います。

本郷先生 包括点数の療養病棟や老健で、単に高額だから使わないのではなく、エビデンスを重視した仕組みを地域でどうつくっていくかが課題です。

高栁 和伸 先生

高栁先生 継続的かつ標準的な薬物治療は、医療の質を担保するだけでなく、地域医療に経済効果をもたらすことを我々が示していく必要があります。実際、再入院や救急搬送になると、膨大な医療費がかかります。地域フォーミュラリを策定するのはあくまでもスタートで、これを運用することによって、これだけ救急入院が減少した、などのデータを収集し、発信していくことが重要だと思いますね。地域の医師会や薬剤師会ともそういう意識で取り組めたらいいなと思います。

三浦先生 フォーミュラリで地域医療のアウトカムを変えていくためには、エビデンスを重視しながらフォーミュラリの見直しを絶えず図っていくことも大事ですね。本日はありがとうございました。

地域における薬物治療の標準化を目指して ~フォーミュラリ策定における評価軸の検討
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