エビデンス重視のフォーミュラリ導入をけん引 地域における適正使用の拡大も視野 | インタビュー企画

サイトへ公開: 2020年05月06日 (水)
新座病院が全国に先駆けて導入したフォーミュラリ。その利活用は院内に留まりません。evidence-basedを基盤とする薬剤の採用、その重責を担う薬剤師お2人が解説します。

2019年9月

新座病院が全国に先駆けて導入したフォーミュラリ。その利活用は院内に留まりません。"evidence-based"を基盤とする薬剤の採用、その重責を担う薬剤師お2人が解説します。

戸田中央医科グループ
医療法人社団青葉会 新座病院薬剤科

係長 鈴木 義人 先生 (左) 主任 金井 紀仁 先生 (右)
鈴木 義人 先生 金井 紀仁 先生

1都4県下で29の病院を有する戸田中央医科グループ(TMG)。医療法人社団青葉会新座病院(埼玉県新座市)はそのなかで、回復期リハビリテーション病棟96床、一般病棟32床で構成されるケアミックス型病院として急性期から回復期、慢性期、さらには在宅医療まで一貫した医療サービスの提供に注力しています。
同院の活動でとりわけ注目されるのは、国内に先駆けて導入したフォーミュラリの運用です。エビデンスに基づいて薬剤の適正使用を目指したその活動は院内外から高く評価され、同グループ全体に拡大し、将来的には地域フォーミュラリとしての展開も視野に入れています。
そのような取り組みの特徴、成果、ならびに地域医療へのインパクトなどについて、お話を伺いました。

この記事のキーワード

フォーミュラリ/薬薬連携/evidence-based/CDSR/アカデミックディテーリング/コスト抑制効果/在庫管理の効率化/医療安全/地域フォーミュラリ

1.薬剤科の概要と主な取り組み

──薬剤科では主にどのような業務に注力されていますか。

鈴木 義人 先生

鈴木先生 当院の薬剤科には6名の薬剤師が在籍しています。病棟の薬剤管理指導業務は経験を積んでもらう狙いから主に若手の薬剤師の担当です。私と主任の金井は彼らをサポートしつつ、医薬品情報の管理や他部署との関わりにウェイトを置いています。
当院の理念は「地域医療連携に努め、急性期から慢性期さらに在宅での療養生活まで一連の医療サービスを行う」です。回復期リハビリ病棟の患者さんには、できる限りベッドサイドに出向いて患者さんとの関係性を深めています。また、薬物モニタリングによる適正な薬物治療が重要です。患者さん、ご家族、ひいては地域の健康を支える一助になるべく、様々な業務を行っています。

──多職種によるチームアプローチの重要性が指摘され、そのなかで薬剤師の役割が大きくなっています。

鈴木先生 ICT(Infection Control Team、感染対策チーム)やNST(Nutrition Support Team、栄養サポートチーム)といった代表的なチーム医療には薬剤師も参加しており、特にICTは金井が責任者を務めている関係で薬剤科のかかわりが大きいです。
回復期リハビリ病棟では週1回、病棟の看護師さんと薬剤師で薬剤の適正使用に関するカンファレンスを行っています。これによって服薬に不安のある患者さんを双方でピックアップし、それぞれの視点で変更などを検討していきます。

──カンファレンスでの議論はスムーズですか。

鈴木先生 ときには意見が異なることもあります。しかしそれは、患者さんによりよい医療を提供したいと思えばこそ。両者で意見をすり合わせた上で、主治医に対して薬剤選択や投与量、投与期間の変更などの処方提案を行い、判断を仰ぎます。結果的に3者の異なる視点が反映されるため、適正な判断につながりますし、他職種とのかかわりは薬剤師にとって勉強になることが多いですね。

──地域医療に対して薬剤科ではどのようなアプローチを行っていますか。

鈴木先生 今年度から地区薬剤師会の地域連携委員会に参加しており、そこで地域の薬局や他の病院の先生方と情報交換をさせていただいています。そのなかでお薬手帳と薬剤サマリーの活用による情報共有といった課題が挙がっており、現在検討しているところです。
患者さんの薬物治療について外来では今までどうだったのか、入院中にはどういう変化があったかといった情報を共有できるようになれば、薬局薬剤師と病院薬剤師のお互いのメリットになり、それは最終的に患者さんのメリットになります。ぜひ進めていきたいと考えています。
そして当院薬剤科の取り組みのポイントであり、本日のメインの話題でもあるのが、フォーミュラリによる管理ですね。

2.フォーミュラリ導入の背景と目的

──フォーミュラリは全国に先駆けて導入されたと伺いました。

鈴木先生 回復期リハビリ病棟はご存じのとおり包括点数ですので、薬剤費は全額持ち出しとなります。ですから、効果的で安全な薬剤を患者さんに提供しながらも、薬剤費を極力抑えることが最重要課題です。このミッションを達成するために、実はフォーミュラリという名称が世に出る以前から、採用医薬品の絞り込み、あるいは薬剤選択を行っていました。現在導入されているフォーミュラリはその延長線上に位置づけられます。

金井 紀仁 先生

金井先生 経緯からお話しすると、2010年に医薬品評価の勉強会に参加し、同種同効薬の比較を始めました。当時より行っていた採用医薬品の選定は”cost-based”に傾きやすく、有効性と安全性を考慮した選定が行われていたのかということに疑問を抱いていました。2014年頃にフォーミュラリーという名称が登場したのを機に再度、薬剤の有効性や安全性について "evidence-based" で評価し、採用薬剤選択を再構築していこうという動きになったわけです。

3.フォーミュラリ導入で押さえるべきポイント

──フォーミュラリを再構築していく上で、留意された点は何だったでしょうか。

金井先生 フォーミュラリ導入の目的は、「重症例、難治症例、希少疾患などを有する患者に対して高価でも有用な治療を提供する環境を維持するために、有効性と安全性が同等な既存治療にて疾患のコントロールが可能な症例に対しては、費用を考慮する」ことです。導入に当たって押さえるべきポイントとしては、①自施設の患者集団(対象集団)を把握する、②情報は自ら収集し評価する、③医師の同意を得る──の3つをいつも挙げています。
①は、ターゲットを外さないように自施設、あるいは地域の特徴を踏まえた上で採用医薬品を選択するということです。当院では、回復期リハビリ病棟がメインとなりますので、脳血管疾患や整形外科疾患、さらに脳血管疾患のリスクファクターである糖尿病や高血圧といった生活習慣病をターゲットに、フォーミュラリを定めていくということになります。
次に②ですが、ここで重要なのは、一方向的なプロモーション情報やこれまでの自分の経験などに左右されすぎないということです。そのような偏った情報収集をもとにしたフォーミュラリでは、薬剤の本当の価値が見極められません。より客観的な情報収集が必要になります。
そして③は、処方する医師に対して説得力のある説明ができるかどうかが問われてきます。当院では海外の教育手法であるアカデミックディテーリングを応用し、医師への情報提供資材を作成しています(図)。

図 アカデミックディテーリングによる地域フォーミュラリ導入

図 アカデミックディテーリングによる地域フォーミュラリ導入

(資料:新座病院 金井 紀仁 先生ご提供)
参考:金井紀仁, 鈴木義人, アプライド ・ セラピューティクス Vol. 10, pp26-46, 2018

──実際どのように「客観的に」採用医薬品を絞り込んでいるのでしょうか。

金井先生 CDSR(コクランデータベースシステマティックレビュー)や臨床論文を用いて絞り込みます。レビューがあれば、そこから抽出された論文を評価するので時間的な短縮が図れますが、それがない場合は、自分たちでレビューしていかざるを得ません。1,000報を越える論文から必要な情報を収集することもあり、大変な労力が必要です。

──薬剤の評価については、有効性や安全性、経済性などの評価軸があると思いますが、どこに重きを置いているのでしょうか。

金井先生 総合的な評価ですから、評価軸の優先順位を明確に申し上げることはできないですが、基本は有効性、安全性がメインで、経済性は二の次というスタンスです。効果や安全性が同程度なら薬価の安い後発医薬品を採用しますが、後発医薬品と比較して先発医薬品の方が明らかに有効性や安全性で上回っているのであれば、薬価が高くても先発医薬品を採用します。ですから、当院の現在のフォーミュラリは、後発医薬品への切り替えを図る目的で導入しているというよりは、あくまでも”evidence-based”で適正な薬剤使用を進めていくためのツールと捉えています。

──アカデミックディテーリングをベースにした医師への情報提供資材はどのように活用されるのですか。

金井先生 情報提供資材は、薬剤の採用理由等がA4用紙1枚にコンパクトにまとめられたものですが、この資材をもとに薬事委員会で係長の鈴木が説明をして採用医薬品として了承を得ています。その後、医師から個別に「なぜこの薬剤が採用されたのか」とかいった質問はときどき受けますが、そのような場合もこの資料とバックグラウンドにあるエビデンス集の内容を用いて説明することでほぼ納得していただいています。フォーミュラリに関しては医師側も非常に協力的で、これまで大きな問題になったことは特にありません。

──フォーミュラリに対する医師の評価の高さが表れていますね。

金井先生 最新のエビデンスを評価して採用医薬品が定められているため、非専門領域で特に助かっているというお話もいただいています。

4.医師からの評価および導入成果

──現在、フォーミュラリが導入されている疾患領域はどの程度でしょうか。

金井先生 フォーミュラリの導入は15領域に及んでおり、先ほど触れたように先発医薬品のみの領域もあります。現在は系統ごとに1つか2つの銘柄を選択するという形で、糖尿病領域でいえば、DPP-4阻害薬は当院の患者さんの特徴に応じて1~2剤に絞り込まれています。SGLT2阻害薬やSU薬なども同様ですね。とはいえ、フォーミュラリにおける採用医薬品は処方に対して絶対的な拘束力があるわけではありません。他の薬剤を使うべきといった医師からの申し出が薬剤科にあれば、臨時採用品という形で処方選択していただくことになっています。

──フォーミュラリを導入することで得られたメリットは?

金井先生 複数規格の採用があった薬剤はフォーミュラリを導入すると、1つの規格に絞られていきますので、在庫管理は容易になりますし、投与量の誤りといったリスクも減少します。したがって薬剤の絞り込みは医療安全の観点からも重要です。
鈴木先生 在庫管理のためにフォーミュラリを導入していく、という考え方もありだと思います。管理をしている側からいえば、在庫数が減ればそれだけ適正在庫、適正購入にもつながっていきます。在庫管理が効率化できるだけで経営的なメリットは大きいと感じています。

5.戸田中央医科グループでの展開

──同じくTMGに属する東所沢病院でフォーミュラリを段階的に導入しているとお聞きしています。

金井先生 2年ほど前から当院がバックアップして導入を進めています。東所沢病院の院長、薬局長をはじめ経営陣が当院のフォーミュラリに関心を持ち、一緒にやりたいと言ってくださったことがきっかけです。
まず、当院のフォーミュラリを提示し、先方の患者背景などとマッチしていることが確認できたことから、当院のフォーミュラリをそのまま導入することができました。東所沢病院は療養病床が中心で回復期リハビリ病床もあります。病院機能、患者層のいずれも当院と近いということが大きな理由でしょう。

──"evidence-based"で作成されたフォーミュラリの汎用性の高さを証明できたといえますね。

金井先生 実は本年4月、TMG全体で活用するフォーミュラリの作成と普及に向けてTMG所属病院の薬剤部主導でフォーミュラリ検討ワーキンググループ(WG)が発足しました。主メンバーの8人は、急性期領域、慢性期領域、感染、がんなど各専門領域の薬剤師で、医薬品・薬物療法に関する臨床論文の評価能力も備えています。私もそのうちの1人です。
この8人が月1回会合を設け、さまざまな領域に適合するフォーミュラリを作成し、各施設でどのように運用していくかを検討しているところですが、同時に各メンバーの専門外のフォーミュラリに関する教育にも時間を割いています。

──ゆくゆくはTMG全体にフォーミュラリを導入していくことになりますか。

金井先生 そうですね。ただし、WGの主メンバーはフォーミュラリとアカデミックディテーリングに用いる説明資材づくりまでですから、各施設に医師への説明要員を最低1人、養成していかなければなりません。その方々をピックアップしていくために、TMGの4つのエリアごとに勉強会を開催し、説明要員の確保に取り組んでいるところです。
また、グループ全体の体制にしたのには、狙いがあります。各施設で個別にフォーミュラリを作成するのは時間的な制約がありますし、個別に作成すると1施設の偏った考え方が反映される可能性が否定できません。グループ全体で取り組めば、複数の施設の意見が集約されますので、客観性を保つことができるのです。

6.地域フォーミュラリへの期待

──TMG全体へのフォーミュラリの導入が進められれば、次の展開はお考えでしょうか。

金井先生 フォーミュラリを導入している病院を中心に、近隣病院や地域薬剤師会に広げていきたいと考えています。地域フォーミュラリになっていくと、入院の際の持参薬管理も容易になり、薬剤の切り替えの頻度が減ることからいわゆる変換リスクを回避できますので、医療安全上も大きなメリットがあると考えています。

鈴木先生 地区薬剤師会でもそういった意見は出てきていますので、薬局の先生方と議論している最中です。最終的には医師会にも入っていただく必要がありますが、開業医の先生方では薬剤の購入や薬価についておそらく見方が違うと思いますので、どういうフォーミュラリを構築すべきなのか、議論の必要がありますね。

鈴木先生 施設をまたいで地域で継続的かつ最適な医療を提供していくためには、やはり薬剤の適正使用という面でも目線合わせが必要だと感じています。これからの地域医療連携は地域フォーミュラリが前提になるのかもしれません。その意味からも地域におけるわれわれ薬剤師の役割や責任は大きいと感じています。

鈴木 義人 先生 金井 紀仁 先生

取材の裏話・・・

インタビュアーインタビュアー:フォーミュラリを導入するに当たり、どの辺りが大変なのでしょうか。
鈴木先生鈴木先生:学術論文をしっかり読み込んでいくための知識や技術が必要なので、やはり人材の育成が一番大変です。今は金井主任がメインとなっていますが、その次の世代を育てていかないと彼の負担がなかなか減らない。
金井先生金井先生:特にエビデンスを重視していくと膨大な時間がかかります。また、日々さまざまな薬剤が出てきますから、作成後も常に再検証やアップデートが必要です。これは鈴木薬局長や周りの薬剤師の理解があってのことですが、日々の業務時間のなかでフォーミュラリにかかわる時間をかなりいただいています。どれくらいですかね?
鈴木先生鈴木先生:だいたい半日くらいかな。
インタビュアーインタビュアー:それは大変ですね。半分は研究者のようなお仕事をされているということですか。いつからそのような働き方に?
金井先生金井先生:今の評価体制になった2年前からです。例えば、あまり新薬の出ない領域は1年に1回程度の見直しですみますが、他の、先発医薬品しかない領域に関してはそのペースでは追いつけないので、半年に1回ほどのペースで見直しを行っています。その周期で大きなエビデンスが3~4報出てきたりしますから。
鈴木先生鈴木先生:医師に納得していただけるようなフォーミュラリを作成するには、それだけのマンパワーと時間が必要です。ただし、投資した分のリターンも大きいと思います。

【解説】院内フォーミュラリーと地域フォーミュラリー

―厚生労働省 中医協の議論などをもとに㈱医薬情報ネットが作成―

フォーミュラリーについては当初、後発医薬品への切り替えといった経済性に目が向けられがちでしたが、最近では「質と安全性の高い薬物療法を効果的に実施するためのツール」として認知されるようになり、医療関係者のフォーミュラリーへの関心が高まっています。2019年6月26日に開催された中央社会保険医療協議会総会では、2020年度診療報酬改定におけるフォーミュラリーの評価が議論の俎上に上りました。
同総会で厚生労働省は、フォーミュラリーには院内フォーミュラリーと地域フォーミュラリーの2パターンがあると紹介した上で、両者を比較してそれぞれの特性を説明しています(表)。病院内で完結する院内フォーミュラリーとは異なり、地域フォーミュラリーはステークホルダーが多くなる分、必然的に運営管理などの難易度は高くなるのは致し方ないといえます。しかし、導入効果はかなり高いといえるでしょう。
地域フォーミュラリーの実践例として取り上げられた地域医療連携推進法人「日本海ヘルスケアネット」では、患者負担の減少、医療機関や薬局での在庫減などの経済的メリットに加え、①患者においては患者の目からみても重複投与やポリファーマシーがわかりやすくなる、②医療機関においては紹介・逆紹介を経て薬剤の使用品目が収束し、患者の管理が行いやすくなる、③薬局においては病院薬剤師と薬局薬剤師の連携が密になる──など地域医療へのプラスの影響が挙げられていました。
こうしたフォーミュラリーの効用について診療側委員と支払側委員の双方とも一定の評価を下しています。日本医師会の松本吉郎常任理事は、「フォーミュラリーを地域の拠点病院が公開することで、診療所では採用薬を参考にすることができ、もしかすると地域で協力して一括購入することがあるかもしれない」とその広がりに期待感を示しています。
ただし、診療報酬上の評価に関しては「まずは関連学会がフォーミュラリーの考え方をガイドラインに入れることを進めていくべきで、診療報酬で誘導していくのは違う」(幸野庄司・健康保険組合連合会理事)などの慎重論が相次ぎました。保険局の森光敬子医療課長の「医療の質なども含めて議論する必要がある」との言葉から、点数化された場合もかなりハードルの高い算定要件が予想されます。

医薬品の効率的かつ有効・安全な使用について

「医薬品の効率的かつ有効・安全な使用について」
中央社会保険医療協議会総会資料(2019年6月)より抜粋

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