医療におけるリーダーシップ・ギャップの課題-5ギャップの特定

Center for Creative Leadership（以下、CCL）は、リーダーシップに関する理解と実践、発展を促進するために1970年に設立された、米国に拠点を置く非営利組織です。CCLはリーダーシップ開発に必要なサポートをさまざまな業界に提供しており、リーダーシップ研究の世界的なパイオニアとして知られています。このシリーズでは、CCLの研究活動を通じて得られたインサイトに基づいて作成された報告の中から、不確実さや複雑さを増している医療を取り巻く環境の中で、医療関連分野が直面するリーダーシップ・ギャップの課題について検討したコンテンツを翻訳してご紹介します。

目的：医療分野のリーダーにおいて最も重要なコンピテンシーがなにかを明確にする。また、医療分野のリーダーシップの強みと弱みを特定し、組織のニーズと一致しているか、さらにはそこにギャップが存在するかを判断する。
対象：2000年から2009年にCCLのBenchmarks評価を終了した医療分野で働く34,899人（男女比1:1、平均年齢44歳、構成：経営者・幹部25％、中堅・上位管理職55％、現場・時間従業員10％、組織階層記入無し10％）
方法：CCLのBenchmarks評価は、155の行動記述項目を21の尺度に分類した360度フィードバック調査である。対象となる回答者［自己申告した者と観察に基づく評価を行った者（オブザーバー）ともに］は、16のリーダーシップ・スキルのうち、成功のために最も重要だと思われる8つのコンピテンシーを特定して、その相対的重要度を回答した。回答者は、16のコンピテンシーを実行する際の有効性を、5段階で評価（5が最も高い有効性を表す）して、点数の平均を算出した。また、回答者はディレイルメントの項目で、成功を阻害する可能性を5段階で評価した。

リーダーシップ・ギャップの特定

CCLの調査によると、医療分野のリーダーやマネージャーは、変革のマネジメント、業務上の目標の達成、および臨機応変な対応といったスキルに長けています。また、素直で学習速度が速く、人を和ませる能力があり、部下の個人差に対応する能力に長けているとの報告がある一方、いくつかの重要なスキルが不足しているとも指摘されています。

この調査の結果、医療分野で成功するために最も重要とされるスキルである「部下を先導する能力」が、リーダーのパフォーマンスという観点から他の14のコンピテンシーよりも低い評価を受けていることが示されました。医療分野のリーダーは、他者を先導する能力に高い価値をおいていますが、このスキルを遂行する過程には改善の余地があることがわかります。他にも、リーダーが高い価値をおいている「問題のある従業員に毅然と向き合う」、「良い人間関係の構築」、「参画型マネジメントの採用」などのスキルについても低い評価を受けています。

表　リーダーシップ・スキルの重要度と有効性の関係

これらの結果は、医療分野の組織において部下を先導する際の課題が大きいことを示唆しています。リーダーは、組織が向かうべき方向性を定め、組織内での整合性をとり、コミットメントを生み出すのに必要な対人関係やリーダーシップ・スキルをさらに開発することでメリットを得ることができます。

ここには、部下へのコーチング、効果的な権限委譲、優秀な人材の採用、そして他者を巻き込んだ変革の実行のスキルが含まれます。

また、医療分野のリーダーは、将来の役割や課題に対して必要な経験やスキルを身につけることに、より重きをおく必要があります。この調査では、リーダーの自己認識力とキャリア形成に改善の余地があることが示されていることから、組織は、戦略的な人材育成と将来のリーダーを準備することに重点を置くことで利益につなげられます。

個人レベルと組織レベルの両方で、ギャップや制限があることが特定されたリーダーシップ・スキルの開発をどのように改善したり促進したりすべきなのか、理解するための努力が必要です。次項では、これらの問題について考察して、その対処方法を提案していきます。