医療におけるリーダーシップ・ギャップの課題-6ギャップを埋める

サイトへ公開: 2023年08月01日 (火)
CCLの研究から、医療関連分野が直面するリーダーシップ・ギャップの課題をまとめたシリーズとして、ここではリーダーシップ・ギャップを埋める(6)を翻訳してご紹介します。

Center for Creative Leadership(以下、CCL)は、リーダーシップに関する理解と実践、発展を促進するために1970年に設立された、米国に拠点を置く非営利組織です。CCLはリーダーシップ開発に必要なサポートをさまざまな業界に提供しており、リーダーシップ研究の世界的なパイオニアとして知られています。このシリーズでは、CCLの研究活動を通じて得られたインサイトに基づいて作成された報告の中から、不確実さや複雑さを増している医療を取り巻く環境の中で、医療関連分野が直面するリーダーシップ・ギャップの課題について検討したコンテンツを翻訳してご紹介します。

目的:医療分野のリーダーにおいて最も重要なコンピテンシーがなにかを明確にする。また、医療分野のリーダーシップの強みと弱みを特定し、組織のニーズと一致しているか、さらにはそこにギャップが存在するかを判断する。
対象:2000年から2009年にCCLのBenchmarks評価を終了した医療分野で働く34,899人(男女比1:1、平均年齢44歳、構成:経営者・幹部25%、中堅・上位管理職55%、現場・時間従業員10%、組織階層記入無し10%)
方法:CCLのBenchmarks評価は、155の行動記述項目を21の尺度に分類した360度フィードバック調査である。対象となる回答者[自己申告した者と観察に基づく評価を行った者(オブザーバー)ともに]は、16のリーダーシップ・スキルのうち、成功のために最も重要だと思われる8つのコンピテンシーを特定して、その相対的重要度を回答した。回答者は、16のコンピテンシーを実行する際の有効性を、5段階で評価(5が最も高い有効性を表す)して、点数の平均を算出した。また、回答者はディレイルメントの項目で、成功を阻害する可能性を5段階で評価した。

リーダーシップ・ギャップを埋める

リーダーへの投資を検討している医療分野の組織は、組織のニーズ、システム全体のリーダーシップ能力、そしてリーダー個人の能力開発の方向性を一致させる必要があります。

この調査で明らかになったリーダーシップのギャップを埋めるためには、組織と個々のリーダーが、それぞれの職域で効果的に行動するために必要なスキルとそのふるまい方についてしっかりと理解する必要があります。そのため、ここでは医療分野のリーダーや組織が重視すべき6つの要素を理解するための出発点を示します。

  1. 部下を先導する ― 部下を先導する能力は多岐にわたる要素を含むスキルであり、改善には高い自己認識力と対人関係の理解が必要です。効果的に部下を先導しているマネージャーやエグゼクティブは、熟練したディレクターやモチベーターであるだけでなく、部下への投資も行っています。リーダーは、意思決定のレベルを該当する従業員のレベルに合わせて適宜調節することで、行動することに対する部下の自信を育みます。また、常に部下を指導して、課題や機会を提供します。このように、人を育てることを意識しているリーダーは、優秀で生産性の高い人材を見つけ、引き寄せることができます。

  2. 参加型マネジメントの採用 ― 強力なリーダーは、参加型のマネジメントスタイルを活用して他者を巻き込み、合意を形成して、意思決定に反映させます。参加型マネジメントを重視するマネージャーは、他の人々がアイデア、情報、反応、そして違った視点を共有することを奨励し、それに耳を傾けます。また、コミュニケーションを大切にして、常に情報を提供し、他者を変革に巻き込み、多角的な視点から注意を払います。

  3. 人間関係の構築と修復 ― 強固な人間関係を築き、それを維持できるマネージャーは、敬意にあふれ、外交的で、公正な人物です。あらゆる人々と関係を構築することができると同時に、同僚や上層部、顧客からの支持と信頼を容易に得ることができます。彼らは交渉に長け、協力し合い、共通点を見出すことで目標を達成することができます。そして、判断や決断を下す前に、相手がなにを考えているかを理解しようとします。

  4. 自己認識力 ― 有能なリーダーは、自分の長所と短所、そして自分の行動が他者に与える影響について正確に把握しています。自己認識力の高い人は、フィードバックを求め、反省と学習を大切にします。自己認識力の高いマネージャーは、自身の個人的な誤りを認め、そこから学び、状況を修正するために邁進します。

  5. 広い組織的視野 ― マネージャーの志向が狭いと、責任の度合いや、部門または機能を超えた動きが制限されます。志向の狭いマネージャーにとって、昇進は現在の能力レベルを超えてしまうことを意味し、他部門の運営方法に対する理解の欠如は、他部門との協調はできないものだという認識を与えます。一方、広い組織的視野を持つリーダーは、長い間、複数の部門や業務に従事してきています。利害関係や専門性、そして考えが対立するグループやチームと協働した経験もあります。また、戦術的・技術的なスキルを身につけるだけでなく、戦略や組織レベルの課題についても理解しています。

  6. チームを構築して、先導する ― 効果的なチームリーダーであるマネージャーは、明確な目標と期待値を設定します。もし対立することがあってもそれを解決し、チームメンバーのモチベーションを高め、各々の仕事が組織の目標にどのように合致しているかを理解させることができます。また、チームメンバーとして適切な構成になるよう人選を行い、与えられたタスクや進行中の業務を完遂するために必要な専門性、知識、およびスキルを持つ人材を集めます。

また、これらのコンピテンシーや他のコンピテンシーの向上を目指すリーダーに対して、組織は、評価、チャレンジ、そして支援の機会を提供することを望んでいます。

評価には、現在の強み、開発の必要性、および現在の有効性の程度に関する情報が含まれます。医療関係者の多くは、臨床検査により正確な診断と治療の範囲を絞り込めることなど、業務の技術的な側面を管理するためにはデータが威力を発揮することを理解しています。同様に、組織は、組織の長期的な健全性を維持するために必要なリーダーシップ行動とスキルを理解して、それらを正確に測定する方法を見つける必要があります。360度評価のリーダーシップ開発評価ツールが最も詳細で有用な場合が多いですが、非公式な評価や継続的なフィードバックも有益です。

チャレンジは、学び、成長する機会を提供します。例えば、新しい経験やスキルを必要とする経験などがこれにあたります。医療機関は、あらゆるレベル、あらゆる職務の従業員に、「ストレッチした(少し背伸びが必要な)」任務の重要性と、その任務を最大限に活用する方法を理解させる必要があります。医師がキャリアの初期にローテーションや研修を通じて学ぶように、医療分野のリーダーも、新しいことに挑戦し、異なる方法で仕事をして、変化を管理できるようなリーダーシップ任務や役割を持つべきです。

支援は、強み、現在のスキル、および確立された考え方や行動様式に関するガイダンスと安心感を提供します。個人コーチング、アクションラーニング、そしてチームコーチングは、管理者や組織管理、医師リーダー、看護職、またケアチームに対して、学習とパフォーマンスの支援を提供する効果的な方法です。

最後に、最も成功している医療機関は、リーダーシップ戦略を策定して、個々のリーダーに不可欠なスキルと行動を身につけさせるとともに、その組織文化に投資しています。組織文化は、事業戦略と連動して、成果を生み出します。協力し合う組織文化を通じて、組織に属する人々は、将来にわたって先導するために必要なあらゆる能力を開発することができます。

Originally published by the Center for Creative Leadership in “Addressing the Leadership Gap in Healthcare. What’s Needed When It Comes to Leader Talent?”
http://cclinnovation.org/wp-content/uploads/2020/02/addressingleadershipgaphealthcare.pdf
 

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