糖尿病対策3- 疫学データからみる糖尿病の実態と課題

サイトへ公開: 2023年07月28日 (金)
糖尿病対策を理解するうえで不可欠な疫学データをもとに、そこからみえてきた患者さんの高齢化の課題についてご紹介します。

糖尿病の疫学データから1)

糖尿病対策を理解するうえで不可欠な患者数の推移や、男女年齢別データをもとに、わが国のこれまでの糖尿病対策の結果と、そこからみえてきた患者さんの高齢化の課題についてご紹介します。

このシリーズでは、ここまでわが国の糖尿病対策にかかわる取りまとめや計画の概要をご紹介してきました。健康日本21(第一次)に始まるさまざまな糖尿病対策が取られてきたこの20年間に、糖尿病を有する患者さんの数にいったいどのような変化が生じたのでしょうか。今回は、疫学データをもとにみていきましょう。
図1の「糖尿病が強く疑われる人*」と「糖尿病の可能性を否定できない人†」の合計をみると、2007年をピークに減少しており、それまでの増加傾向には歯止めがかかっていることがわかります1)。一方、憂慮すべきは「糖尿病が強く疑われる人」の推移が経年的に増加傾向にあることです。
*HbA1c(NGSP)値が6.5%以上[2007年(平成19年)まではHbA1c(JDS)値が6.1%以上]、または「糖尿病治療の有無」に「有」と回答した人。
†HbA1c値が6.0%以上、6.5%未満[2007年(平成19年)まではHbA1c(JDS)値が5.6%以上、6.1%未満]で、「糖尿病が強く疑われる人」以外。

図1 日本における糖尿病人口の推移

図1 日本における糖尿病人口の推移

2017年(平成29年)10月の糖尿病を有する患者さんの男女年齢別の総患者数(図2上)をみると、30歳代から増え始め、40歳代の特に男性で急激に増加し、70歳代でピークに達しています。また、2014-2017年(平成26-29年)の患者さんの数の増減(図2下)をみると、70歳代および80歳以上の男性と、80歳以上の女性で顕著に増加していることがわかります。
「国民健康・栄養調査」では、一部の集団で求めた患者さんの割合を国民の総数にあてはめて推計として算出しているため、結果の解釈には注意が必要ですが、糖尿病を有する高齢者が増加していることは間違いないといえます。加齢に伴い耐糖能が低下することは従来からよく知られており、骨格筋の減少や脂肪組織の増加といった体組成の変化、運動量の低下、ミトコンドリア機能の低下など、さまざまな機序が高齢者における耐糖能低下に関与していると考えられています。

図2 糖尿病を有する患者さんの男女年齢別の総患者数

図2 糖尿病を有する患者さんの男女年齢別の総患者数

他方、喜ばしいこととして図3のとおり、「2012-2019年(平成24-令和元年)調査に基づく令和元年推計」(赤線)は回帰曲線の推定で1,150万(95%信頼区間1,080-1,220万)と、「糖尿病が強く疑われる人」の将来予測(青線)を下回っています。つまり、総患者数は高齢化の影響もあり増加していますが、増加のスピードは改善傾向にあるといえます1)。「21世紀における国民健康づくり運動[健康日本21(第二次)、以下同様]の最終評価報告書でも、糖尿病を有する患者さんの増加抑制は「B*[現時点で⽬標値に達していないが、改善傾向にある(⽬標年度までに⽬標到達が危ぶまれる)]」相当と評価されています(最終報告書の他の項目の結果は「糖尿病対策2- 健康日本21の最終評価から」を参照ください)。

図3 「糖尿病が強く疑われる人」の1997、2002、2007年(平成9、14、19年)調査(策定時)に基づく将来予測(青線)と2012-2019年(平成24~令和元年)調査に基づく2019年(令和元年)推計(赤線)

図3 「糖尿病が強く疑われる人」の1997、2002、2007年(平成9、14、19年)調査(策定時)に基づく将来予測(青線)と2012-2019年(平成24~令和元年)調査に基づく2019年(令和元年)推計(赤線)

国は健康日本21(第二次)において「国民の健康寿命の延伸・健康格差の縮小」などを目標としており、これは2024年度からの次期国民健康づくり運動プランにも引き継がれると考えられます。患者さんの高齢化は、その計画がうまく運用されていることの証左の1つといえます。一方で、高齢化の影響を受けた糖尿病を有する患者さんの疾患管理をどのように行っていくのかが今後の課題であり、日本糖尿病学会と日本老年医学会、両学会による「高齢者糖尿病診療ガイドライン」の刊行など、さまざまな取り組みがなされています。

  1. 厚⽣科学審議会地域保健健康増進栄養部会、健康⽇本21(第⼆次)推進専⾨委員会. 健康日本21の最終評価報告書(令和4年10⽉). https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000998787.pdf
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