糖尿病対策4- 糖尿病網膜症の現状

サイトへ公開: 2023年07月28日 (金)
糖尿病網膜症にかかわるこれまでの対策を、健康日本21(第二次)の最終報告書をもとに振り返りつつ、観察研究報告からみえてきた糖尿病網膜症の課題についてご紹介します。

糖尿病網膜症の現状1)

ここでは、わが国の糖尿病対策に密接にかかわる「21世紀における国民健康づくり運動[健康日本21(第二次)。以下、同様]の最終評価報告書をもとに、糖尿病網膜症にかかわる重症化・合併症予防の項目の結果をご紹介します。一方で、観察研究報告で示された網膜症の検査実施割合が低水準にとどまっているというデータをお示しします。

2022年(令和4年)10月に厚生労働省より健康日本21(第二次)の最終評価報告書(以下、最終報告書)が公開されました1)(詳細は、「糖尿病対策2- 健康日本21の最終評価から」を参照ください)。最終報告書の糖尿病網膜症に関係する項として、まずは糖尿病の重症化予防にかかわる⾎糖コントロールが不良だった患者さんについてみていきましょう。

評価項目の「血糖コントロール指標におけるコントロールが不良だった患者さんの割合の減少[HbA1cがJDS値8.0%(NGSP値8.4%)以上の患者さんの割合の減少]」はベースラインである2009年(平成21年)の1.2%と⽐べて、最終評価時点の2019年(令和元年)では0.94%でした(ベースラインからの相対的変化︓-21.7%)(図1)。この結果は、最終報告書で最も高い「A(目標値に達した)」と評価されました。

図1 血糖コントロールが不良だった患者さんの割合の推移

図1 血糖コントロールが不良だった患者さんの割合の推移

くわえて、最終報告書では合併症の減少を表す指標として、「糖尿病腎症による年間の新規透析導⼊された患者さんの数」を評価しています。しかし、糖尿病の細⼩⾎管症には、腎症と並んで、視覚障害の原因となる糖尿病網膜症もあります。そこで、糖尿病網膜症の現状を見てみると、2019年(令和元年)に新たに視覚⾝体障害と認定された人の原因疾患割合において、糖尿病網膜症は第3位(10.2%)でした(図2左、研究の概要は図下を参照ください)。また、視覚身体障害の新規認定数の推移をみると、糖尿病網膜症は2001年-2015年(平成13年-27年)に減少し2)、2015年-2019年(平成27年-令和元年)は横ばいという結果でした(図2右3)。さらに、血糖コントロールの改善と治療の向上により、糖尿病網膜症を原因とする失明も減少傾向にあるとしています1)。このため、最終報告書では腎症だけでなく網膜症の現状も考慮して、合併症の減少については「⼀定程度の評価ができる」とされました1)

図2 視覚身体障害の原因疾患割合[2019年(平成元年)度]と視覚身体障害の新規認定数の推移[2001年-2015年(平成13年-27年)および2015年-2019年(平成27年-令和元年)]

図2 視覚身体障害の原因疾患割合[2019年(平成元年)度]と視覚身体障害の新規認定数の推移[2001年-2015年(平成13年-27年)および2015年-2019年(平成27年-令和元年)]

一方、Sugiyamaらの観察研究の報告では、年1回以上の網膜症の検査を実施している施設の割合について、日本糖尿病学会認定教育施設(以下、学会施設認定)では59.8%、学会施設認定がない施設では44.8%という結果が示されました4)、研究の概要は表下を参照ください)。特にわが国では、糖尿病を有する患者さんの多くが学会施設認定を受けていない医療機関で治療を受けている実情があります。その患者さんの半数以上に対して、年1回以上の網膜症の検査が実施されていないことには注意が必要です。Sugiyamaらは「…糖尿病診療のいくつかの側面は最適化されているとはいえず、都道府県や施設によって大きな差異がみられた。わが国の糖尿病診療の質を向上させるために、個人や組織によるいっそうの努力が必要である。」としています4)。上記のことから、糖尿病網膜症の重症化予防・合併症予防の観点を鑑みて、各種学会ガイドラインに記されているように網膜症の定期検査実施の割合を高めることが急務であるといえます。

表 糖尿病にかかわる検査実施割合(年1回以上)の算出

表 糖尿病にかかわる検査実施割合(年1回以上)の算出

  1. 厚⽣科学審議会地域保健健康増進栄養部会、健康⽇本21(第⼆次)推進専⾨委員会. 健康日本21の最終評価報告書(令和4年10⽉). https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_28458.html
  2. Morizane Y, et al. Incidence and causes of visual impairment in Japan: the first nation‑wide complete enumeration survey of newly certified visually impaired individuals. Jpn J Ophthalmol 63:26–33, 2019.
  3. Matoba R, et al. A nationwide survey of newly certified visually impaired individuals in Japan for the fiscal year 2019: impact of the revision of criteria for visual impairment certification. Jpn J Ophthalmol 67:346-352, 2023.
  4. Sugiyama T, et al. Variation in process quality measures of diabetes care by region and institution in Japan during 2015–2016: An observational study of nationwide claims data. Diab Res Clin Pract 155:107750, 2019.
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