腎疾患の個別対策:普及啓発

サイトへ公開: 2024年03月28日 (木)
腎疾患の個別対策の1つである普及啓発について紹介します。

腎疾患の普及啓発1)

ここでは、腎疾患対策検討会報告書(以下、報告書)などから、腎疾患の個別対策の1つである普及啓発ついて、その目的、課題、今後の取り組み、また自治体での取り組みを紹介します(腎疾患対策の全体目標と5つの実施すべき取り組みは図1を参照ください)。

図1 腎疾患対策の全体目標と5つの実施すべき取り組み

腎疾患の個別対策の1つである普及啓発を行う目的について、報告書では、医療関係者や行政機関に対してのみならず、成人・小児を問わず広く国民全体に慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease、以下CKD)について普及啓発を行い、より多くの人が腎疾患対策を実践する体制を構築すること、さらに、より計画的で、効率的・効果的な普及啓発活動を実施することで、腎疾患対策のさらなる推進を図ることであるとしています。  
一方腎疾患の普及啓発における現状の課題ついて、報告書では以下を挙げています。
 

  • CKDは生命を脅かし、患者さんの数も多い疾患であること、治療可能であること、早期発見・早期治療が重要であることなどの、CKDの正しい認識および知識が十分普及していない
  • 医師、メディカルスタッフ、行政機関、CKDを有する患者さん、国民全体、高齢者、小児など、対象に応じた普及啓発内容の検討が十分とはいえない
  • 普及啓発活動の実施状況の把握や効果の評価・検証が十分とはいえず、効果的な普及啓発活動が実施されていない
  • 医療関係者、関連学会および行政機関などにおいて好事例が十分に共有されておらず、好事例の横展開が十分に進んでいない


上記課題を鑑みて、今後実施すべき取り組みについて報告書では、国が関連学会などと連携して、対象に応じた普及啓発すべき内容の検討および整理を行い、それを踏まえた普及啓発資材を開発して、普及を図ることとしています(図22)。また、関連学会は、普及啓発を含めた地域の腎疾患対策の中心的役割を担う担当者を都道府県ごとに決定して、その担当者を中心に地方公共団体と連携した普及啓発活動を推進するとともに、活動の情報を集約し、地域での実施状況の把握、そして活動の効果評価を行うことを挙げており、その中で、糖尿病や高血圧、心血管疾患など、他の疾病と連携した普及活動は効果的・効率的だとしています。  
評価指標としては、各都道府県での普及啓発活動実施数や、市民公開講座などの実施数、CKDの認知度などを挙げています。そして、普及啓発の好事例があれば、国および地方公共団体は関係者を含めて共有し、関連学会、関連団体と連携して、効果的・効率的に活動の横展開を行うこととしています。

図2 厚生労働省作成の腎疾患普及啓発資材の例2

都道府県でのCKD普及啓発の取り組みの例

令和4年(2022)人口動態統計(確定数)の概況によると、悪性新生物、心疾患、老衰、脳血管疾患、肺炎、誤嚥性肺炎、不慮の事故に次いで腎不全はわが国の死因の第8位であることからも3)、腎疾患は国民の健康に重大な影響を及ぼしている疾患であり、自覚症状に乏しいCKDを早期に発見・診断し、CKDの重症化予防を徹底することが非常に重要です。そのための取り組みとして、2つの自治体を例に、どのような普及啓発活動がなされているかをみてみましょう。  
最初にご紹介するのは、東京都のCKD疾患啓発ウェブサイト「ほっとけないぞ!CKD(慢性腎臓病)4)」です。このウェブサイトは、腎臓の機能やCKDの基本情報から、CKDの重症度ステージ、循環器系疾患との関連、そして予防としての運動および食事療法の情報が簡潔にまとめてあり、一般住民の方がCKDとそれに関連する情報の全体像を一度に把握しやすい構成で掲載されているものです。一般住民の方は、特に医学・医療情報についてインターネットで検索をした際、その情報量の多さから、どの情報を信頼してよいかがわからないという問題にしばしば直面します。この東京都のウェブサイトのように、行政機関による疾患情報の普及啓発の一環として、正しい情報が一カ所で収集できるように整備されていることは、一般住民の方のみならず医療関係者にも重症化してからの受診が減ることで負担軽減につながるなど大きなメリットになると期待されます。  
次にご紹介するのは、令和3年度慢性腎臓病(CKD)診療連携構築モデル事業の1つである新潟県の取り組みです5)。新潟県は、CKDの普及啓発の一環として、市民公開講座を日本腎臓病協会と共催しているほか、その情報をSNSで広く発信しています6)図3)。また、県は民間の保険会社と連携して、保険の営業所員が事業所を訪問する際に、CKDに関する資料を配布するなどの方法も活用して普及啓発に努めています5)

図3 新潟県のSNSを利用したCKD疾患啓発例6)

このように、ここではご紹介しきれなかった他の自治体も含めた地道な普及啓発活動によって、今後1人でも多くの方がCKDを知ることにつながり、たとえ発症したとしてもCKDは早期発見と早期治療をすることで重症化の予防が可能である1)ということが広く知られることを願うものです。

  1. 腎疾患対策検討会. 腎疾患対策検討会報告書(平成30年7月). https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/001005981.pdf
  2. 厚生労働省.腎臓からのSOSを見逃していませんか?(令和2年2月14日). https://www.mhlw.go.jp/content/000595775.pdf
  3. 厚生労働省. 令和4年(2022)人口動態統計(確定数)の概況. https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei22/dl/15_all.pdf
  4. 東京都. 「ほっとけないぞ!CKD(慢性腎臓病)」https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/shippei/ckd/
  5. 新潟県福祉保健部健康づくり支援課. 令和3年度慢性腎臓病(CKD)診療連携構築モデル事業報告. https://www.mhlw.go.jp/content/000965489.pdf
  6. 健康立県にいがた公式Xアカウント. https://twitter.com/Niigata_kenko
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