人との出会いが、自分の財産。糖尿病診療の新しい世界を切り開いた先生が、新しい時代の医師に求めること

サイトへ公開: 2019年07月21日 (日)
CGMとの出会いから日本での普及、これからの時代に求められる医師像などについて、東京慈恵医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科 主任教授の西村理明先生にお伺いしています。
東京慈恵会医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科 主任教授 西村 理明先生-01

東京慈恵会医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科 主任教授 西村 理明先生

東京慈恵会医科大学卒業、同大大学院で医学博士号取得。Graduate School of Public Health,University of Pittsburgh修了(Master of Public Health取得)。その後、富士市立中央病院内科医長、Adjunct Assistant Professor,Graduate School of Public Health,University of Pittsburgh、東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科助手などを経て、2019年に同大学主任教授。糖尿病専門医・指導医、内分泌専門医・指導医、総合内科専門医。

持続血糖モニタリング(continuous glucose monitoring:CGM)の日本への導入・普及に尽力し、糖尿病診療に血糖変動の「可視化」をもたらした東京慈恵会医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科 主任教授の西村理明先生。今回のリアルストーリーでは、西村先生が医師を志した理由や糖尿病を専門領域に選んだ理由、CGMによって切り開いた糖尿病診療の新しい世界、そして次世代を担う若手医師へのメッセージなどをお話しいただきました。

医師である父の姿を見て、医師を志す

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「父親が小児科の医師であったことには、間違いなく影響を受けていたと思います」西村先生は、医師を志した理由について、このように話しはじめました。西村先生のお父様は、当時子どもだった先生を勤務先の病院によく連れて行ったそうです。「父は仕事場を見せることで、early expose(早期体験)を行っていたのかもしれませんね」と西村先生。少年だった西村先生は、医師として働く父の姿や周囲の人たちの声を通して、漠然とながらも医師という職業に対して、やりがいのある仕事、誇りを持てる仕事、といった認識を徐々に固めていったのかもしれません。そのような少年時代を過ごした西村先生は、やがて東京慈恵会医科大学に進学し、本格的に医師への道を歩みはじめます。

恩師、田嶼先生との出会いにより、糖尿病の世界へ

父親からの影響を少なからず受けて医師を志した西村先生ですが、「同じ医師でも、父とは違う領域でチャレンジしよう」と考え、小児科医以外の道を探しはじめます。「大学卒業後は、母校で研修を受けました。小児科医以外と言っても、具体的に何をしたいかは考えていなかったので、総合内科的な位置づけの第三内科の扉をたたきました」と話します。そして第三内科で、当時講師だった田嶼尚子先生(女性糖尿病医師のフロントランナー、大手町プレイス内科院長)と運命の出会いを果たします。田嶼先生からこれから進みたい道を聞かれた西村先生は、「病気を治す医者と予防する医者がいるのなら、自分は後者をやってみたいと考えています」と予防医学への興味を語ったそうです。すると田嶼先生は、「面白いわね。あなたみたいなことをその若さで言う人はいない」と言ったそうです。時間にしてわずか数分。このやりとりによって、西村先生は田嶼先生のもとで、糖尿病の世界に足を踏み入れることになりました。「それまでの私は糖尿病の『と』の字も関係のない人生でした。父の影響で医師を志し、田嶼先生との出会いで糖尿病と関わり、先生のもとで糖尿病診療に夢中で取り組むようになったら、その奥深さに魅了され、今に至っているという感じです。よき人、よき恩師との出会いに感謝です」と西村先生は穏やかに話しました。

2005年の米国糖尿学会で、CGMに出会う

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その後は、田嶼先生のもとで1型糖尿病診療に取り組む西村先生でしたが、患者さんの血糖自己測定(SMBG)やHbA1cの値を見るたびに、「この方法で血糖変動の全容を把握できているのか」「適切な治療を提供できているのか」といった疑問を持つようになったそうです。そのような中、西村先生は、2005年の米国糖尿病学会の展示ブースで女性が腹部に機械を装着し、血糖値を連続して測定している光景に目を奪われました。そして、その機械(CGM)を個人輸入できるという話しを聞いた西村先生は、購入に必要な書類を準備し、厚生労働省への手続きも自ら行い、また、当時未認可のCGMを院内で使用するために、倫理委員会の許可も取りました。これらのステップには約1年を費やしたそうですが、『 CGM は日本の糖尿病診療を大きく変えるはず。必ず患者さんの役に立つはず』という確固たる信念によって、日本への導入を実現したのです。

医師や患者さんから、たくさんの感謝の声が

日本に導入されたCGMのインパクトは、非常に大きかったそうです。「CGMによって血糖値を連続して測定できるようになり、HbA1cだけでは知ることができなかった血糖変動の全容が可視化されました。田嶼先生に『これは、はっきり言って血糖変動のカンニングですね』と、話しかけたときの微笑みを今でも鮮明に覚えています」。

CGMは、西村先生をはじめ、機器の必要性を強く感じた周囲の人たちの啓発・普及活動により認知度が高まり、日本糖尿病学会でもその価値が認められ、2009年に承認、2010年には保険適用されることになりました。「学会会場で『CGMのおかげで本当に適切な治療を患者さんに提供できるようになりました』といった感謝の言葉を言われたことが何回もあります。また、患者さんからは『自分でもよくなっているのが分かるし、治療に前向きになった』といった言葉を数多くいただきました。CGMの必要性を信じてがむしゃらに走ってきましたが、日本の糖尿病診療に少しは貢献できたという想いはあります。ただ私ひとりの力じゃなくて多くの先生方が声をあげてくださったからこそここまで来られたと信じています。いろいろな人とのつながりと、協力してくれた多くの方々がいてこそのCGMであり、ひとりでは実現することは決してできませんでした」と西村先生は話します。

人を診る医師は、これからの時代にさらに必要とされる

糖尿病診療の新しい扉を切り開いた西村先生ですが、テクノロジーが急速に進化している時代だからこそ、医師は「人を診る」ことがますます大切になっていくという考えを持っています。「今後、糖尿病診療では、人工知能(AI)の活用が当たり前になるはずです。単純に処方薬を決めることは、アルゴリズムに任せられる時代になるでしょう。ただし、糖尿病は患者さんが一生付き合っていく病気です。その人の生活や性格、何に苦労しているのか、何に悩んでいるのか、何を望んでいるのか、といった患者さんの人生観を理解したうえで最適な治療方針を決めることが大切です。しかし、これは人間にしかできません。そのためには、相当な知識と経験が必要となりますが、糖尿病診療は、そういった医師らしさが最後まで残る領域だと思っています」。

そして最後に、次世代を担う医師に対して、次のようなメッセージを送りました。「糖尿病は、まだ解明されていない部分が多くある奥が深い疾患です。また、全人的、包括的な治療を必要とする疾患であり、しっかりと人を診るという真の『医師らしさ』が強く求められます。病態の解明や治療につながる研究テーマも数多くあり、方向性を見い出せず困っている患者さんも非常に多くいます。そういう分野ですから、興味のある方はぜひ門戸をたたいてください」。

【ココがポイント】

これまでの歩みを振り返っていただいた中で、「よき人に出会い、導かれた」「ひとりの力ではなく、周囲のサポートがあったおかげ」と、お世話になってきた方々への感謝を何度も口にした西村先生。出会い、縁、恩を大切にしている先生の人柄を感じました。また、若手医師に対してのメッセージからは、ご自身がよき師となり後進を育てていく、という想いが伺えました。先生の考えに共感する方が先生のもとで学び、大きく飛躍し、糖尿病診療をさらに発展させていく。西村先生の目には、そんな未来が見えているのかもしれません。

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