海外の取り組み – 英国NHS

医療現場におけるリーダーシップ開発の海外事例として、英国の国民保健サービスであるNational Health Service(NHS) ¹ の取り組みを紹介します。NHSでは、人々に思いやりのある質の高い医療サービスを持続的に提供するため、より良い患者ケア、治療体験、予後につながる優れたリーダーシップの開発を目標として掲げています。これを達成するため、NHSは、統合緊急医療/NHS111サービスのスタッフが必要なリーダーシップの行動、戦略、資質を身につけるための取り組みを行っています。

NHSが提示する主要な２つのリーダーシップモデル

■Clinical Leadership Competency Framework（CLCF）² 

全臨床医を対象としたプログラムで、「医療サービスの提供」を中心に設計されたモデルです。すべての臨床医が、リーダーシップの一翼を担い、同僚のリーダーシップ能力を高める責任があることが強調されています。1）個人の資質の発揮、2）他者との協働、3）医療サービスの管理、4）医療サービスの改善、5）方向性の設定、の5つのドメインから構成され、各ドメインについて本モデルがどのように適用されるか、学習と成長の機会を医学部生、臨床医、経験豊富な臨床医それぞれの段階で例示しています。

■The NHS Leadership Academy’s Healthcare Leadership Model³ 

リーダーシップの行動様式を次の3つに分類したモデルです；1）明確な目的意識と貢献意識を持たせ、それを正当化する、2）チームや個人が効果的に働けるよう動機付ける、3）システムのパフォーマンスを向上させることに集中する。また、以下の9つの「リーダーシップの要素」で構成されています；1）目的意識の共有、2）配慮を伴う指導、3）情報の評価、4）サービスの連携、5）ビジョンの共有、6）チームを巻き込む、7）説明責任を果たす、8）能力育成、9）結果を出すための影響力。

NHSリーダーシップアカデミーが提供するリーダーシッププログラム

NHSリーダーシップアカデミーでは、NHS全体に優れたリーダーシップを発揮し、患者ケアに直接的な影響を与えるリーダーの育成を目的として、以下の様々なプログラムやリソースを提供しています。これらの中では、職員や組織、地域パートナーがリーダーを育成し、優れたリーダーシップが違いを生み出している事例が提示されています。
The Mary Seacole programme：リーダーシップとマネジメントの知識とスキルを開発するために設計された6ヵ月のリーダーシッププログラムです。理論学習と実践のバランスをとることを目的として、実際の職場でできるスキルの獲得を目指します。参加者が自らの成功をチームの成功につなげ、思いやりのある患者ケアをサポートする能力の育成を目指しています。

■The Edward Jenner Programme

リーダーシップの入門者向けのオンライン学習パッケージです。すべての職員が無料で利用でき、また、自分のペースで学習を進められます。このプログラムに参加することで、看護師や助産師は再評価に必要な継続的専門教育の単位を取得することができます。

■The Elizabeth Garret Anderson programme

中級から上級のNHSリーダーを対象とするプログラムです。臨床、非臨床を問わず、より大きな組織、部門、複雑なプロジェクトをリードすることを希望する人が対象です。

また、アカデミーは、リーダーを目指す非白人や少数民族（BAME）のための「ステップアップ・プログラム」や、さらなる発展を望むBAMEのシニアリーダーのための「レディ・ナウ・プログラム」なども運営しています。その他のリーダーシップに関するリソースとしては、NHSが設立したリーダーシップ・マネジメント学部、ローカルリーダーシップアカデミーとそれが提供するコーチングとメンタリングの無料マッチングサービス、NHSクリニカル・リーダーズ・ネットワークなどがあります。