減塩が当たり前の世の中に。子供たちと日本の未来を救うために、減塩活動を推進

サイトへ公開: 2018年11月14日 (水)
医師として働くなかで感じた葛藤や、減塩活動に込めた思い、今後の展望を、減塩活動推進のフロントランナーである日下医院院長の日下美穂先生にお伺いしています。
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日下医院 院長 日下 美穂先生

獨協医科大学卒業、同大大学院で医学博士号取得。獨協医科大学循環器内科と自治医科大学薬理学で高血圧、腎臓病の研究を行う。その後、広島大学医学部第一内科に入局。済生会広島病院循環器内科医長を経て、1994年呉市にて日下医院を開院。日本高血圧学会減塩委員会委員。

日本で一番多い疾患は高血圧で、推定患者数は約4,300万人※1。国民病ともいえる高血圧は、動脈硬化を引き起こし、脳卒中、認知症、心筋梗塞、腎臓病の原因にもなり、平均寿命と健康寿命のギャップを作る大きな要因にもなっています。この高血圧の主な原因が、高食塩食です。今回のインタビューでは、高血圧を専門とし、減塩活動のフロントランナーとしてさまざまな取り組みを行う日下医院院長の日下美穂先生にご登場いただき、減塩に対する思い、活動の成果、今後の展望などをお話しいただきました。

※1 NIPPON DATA2010および2010年国勢調査人口より推計

医師だけでは無力、という思いから減塩活動を始める

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「高血圧に対して減塩が必要なことは、何十年も前から分かっていた。しかし、私も含めて医師は患者さんに減塩、減塩と言い続けても効果はなかった」日下先生は、過去を振り返りこのように話しました。この体験から、患者さんに減塩を意識させるには医師だけでは無力であり、多職種を巻き込み、社会全体に減塩を浸透させる取り組みを行う必要があると実感したそうです。

「こだわりのヘルシーグルメダイエットレストランin呉&広島」を発足

その思いを具現化したひとつに、「こだわりのヘルシーグルメダイエットレストランin呉&広島」プロジェクトがあります。この活動は、街のレストランで料理人が美味しい減塩メニューを提供し、患者さんや住民は気軽にその味を体験できるというもの。“ 減塩は言葉で説明しても難しい ” “ 実際に体験しないと伝わらない ”という観点から2007年に起案し、1食分の食塩が2~3g、カロリーが600kcal以下になるよう制限を設けました。しかし、当時は今よりも減塩への意識が低く、実現までに数々の困難があったそうです。例えば、料理人の中には「料理は塩が命」と考える人も多く、「塩を利かせなければ美味しくない」といった反発も少なくなかったそうです。そこで、減塩メニューは各店最低1つのランチセットとして通常メニューと減塩メニューの両方が選べるようにする、管理栄養士がメニュー開発をサポートし気軽に相談できるようにする、といった工夫を取り入れました。その結果、本活動は2008年に8店の飲食店が参加してスタート。地域のタウン情報誌「月刊くれえばん」でのPRも奏功し、活動がテレビに取り上げられるなど徐々に認知度が高まり、今では約40店が参加するほどになりました。ジャンルも、フレンチ、イタリアン、和食、中華料理、インド料理またはラーメンやお好み焼きなど多岐にわたります。お客さまからの評判も上々で、「先生が言うからとりあえず食べに行った」という方でも実際に食べてみると、「見た目もきれいで味もおいしい!」と驚くことが多いそうです。また、作り方を料理人に質問するお客さまもいて、お店で味わった減塩メニューを家庭の料理に応用するという流れも生まれました。

世界初、減塩サミットを開催

日下先生は、「こだわりのヘルシーグルメダイエットin呉&広島」がある程度軌道に乗った2012年に、減塩に特化した世界初のイベント「減塩サミットin呉2012」を開催します。研究発表などを行う学術的要素と、実際に減塩メニューを屋台で食べて体験できるイベント的要素を併せ持った新感覚の集会で、スローガンは「子供たちとこの国の未来のために、市民と医師が本気で減塩について考える ; SALT-CONSCIOUS(塩を意識する)」。ここには、日本の将来を考え、本気で減塩に取り組むのなら子供たちをターゲットにする必要がある”という日下先生の強い想いが含まれています。「子供たちは、子供のころに食べたお母さんの味を美味しいと思うわけです。小さいころから減塩の味を覚えて、それがお母さんの味になれば、大人になっても減塩が当たり前になり、減塩を意識することなく減塩ができている状態になるのです」日下先生はこのように話します。減塩サミットには、大勢の市民や患者さん、学生などの子供たち、医師、医療関係者、行政関係者など約8,000人が参加したそうです。そして今年は、「呉減塩サミット2018」として、5月に呉市や近隣地域を対象に開催。高血圧の専門医による市民公開講座、味覚検査や健康相談などを行う健康関連イベント、屋台で減塩メニューが楽しめるソルコンマルシェを実施しました。また、日下先生は全国の学会の際に、子供を対象としたキッズクッキングショーの開催を中心となってすすめています。「イベントに参加した現地の人がいいことだと思えば、私たちがいなくても活動を継続したり、発展させたり、人に伝えたりして広がっていくことが期待できます。つまり、あらゆる場所に減塩の種を蒔くことが大切なのです」。呉市から始まった減塩活動は、着実に全国に広がっています。

変わる減塩意識。メタボ検診や学校給食にも変化が

減塩活動によって、広島県や呉市では減塩に対する意識が変わりました。例えば、2012年には、呉市の保険年金課が中心となって行う国民健康保険の特定健康診査(いわゆるメタボ検診)に推定食塩摂取量測定が追加されました。この施策は、呉市が全国に先駆けて行ったそうです。測定は、呉市医師会臨床検査センターが担当しており、一般開業医も患者さんの食塩摂取量の検査を同センターに依頼できるようになったそうです。そして、減塩活動のもっとも大きな成果として日下先生が挙げるのは、「学校給食の減塩化」です。2012年から呉市立内の小学校では、減塩給食が始まりました。当初、周囲からは「減塩では味が落ちて食べ残しが増え、必要な栄養が摂れなくなる」といった声もあったそうです。しかし、味の変化が分からないように段階的に食塩量を減らし、かつ、味付けを工夫したことで、減塩による残食はなく、むしろおかわりをする生徒さんもいたそうです。

減塩活動への思い

さまざまな減塩活動に精力的に取り組む日下先生ですが、減塩活動がなくても減塩が浸透している社会になって欲しいという思いを持っています。その実現のために日下先生は、「子供が減塩を意識すれば、お母さんやおばあさんは子供の言うことは聞くので、家庭での減塩が定着します。すると、お父さん、おじいさんにも減塩が広まります。子供が減塩すると、波及効果が大きいのです」と、子供のころからの減塩の重要性を繰り返し強く説きます。読者の中に学校医をしている先生がいる場合には、減塩給食を働きかけたり、減塩の大切さを生徒にレクチャーしてほしいとも話しました。一つ一つのアクションは小さくても、しっかりと種を蒔くことで、やがて実るときがくるはずです。こうした地道な活動の積み重ねが、減塩が当たり前の社会を作ることになるのでしょう。

【ココがポイント】

減塩に対する強い想いを持ちつつ、つねに患者さん目線で物事を考える日下先生。診察室でいくら減塩の重要性を伝えても患者さんの意識は変わらない。このような思いを抱いたときに、そこで諦めるのではなく、「では、どのようにすれば患者さんの意識は変わるのか」という視点を持ったことで、40もの飲食店が参加する「こだわりのヘルシーグルメダイエットin呉&広島」や、約8,000人の参加者を集めた「減塩サミット」が生まれ、行政を動かし、学校給食の減塩化にもつながっていきました。近い将来、減塩が当たり前の世の中になる。日下先生を取材し、先生の想いや人柄に触れると、このような期待を抱いてしまいます。

日下医院 院長 日下 美穂先生-03

表:こだわりのヘルシーグルメダイエットレストランin呉&広島参加店

表:こだわりのヘルシーグルメダイエットレストランin呉&広島参加店
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