腎疾患をとりまく現状

サイトへ公開: 2024年03月28日 (木)
腎疾患について、慢性腎臓病の定義やその主な原因、疫学などをまとめました。

腎疾患の現状1)

ここでは、腎疾患対策検討会報告書(以下、報告書)などから、腎疾患の現状について、その主な原因や慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease、以下CKD)の疫学などを紹介します。

腎臓は「沈黙の臓器」といわれ、自覚症状が乏しく、症状を自覚した時には腎疾患が既に進行しているというケースも少なくありません。しかし、腎疾患は早期から適切な治療を行うことで重症化の予防が可能であり、そのためには疾患の早期診断および早期治療が重要となります。腎臓は血管が豊富な臓器であり、腎臓の血管の障害は腎疾患の発症に直結します。このことから、血管障害を引き起こす糖尿病、高血圧、そして脂質異常症などの生活習慣病や加齢などの要因が、腎疾患の主な発症リスクになります。
よく知られている腎疾患として、代謝異常による糖尿病性腎症、免疫学的機序による慢性糸球体腎炎、また主に高血圧や加齢による腎硬化症などがあります。これらの疾患は併存する場合もあることから、糖尿病がその発症や進展の少なくとも一部に関与する腎疾患を包括した、「糖尿病性腎臓病(Diabetic Kidney Disease、以下DKD)」という概念が欧米で提唱され、わが国の関連学会においても広く共有されています(図)。一方で、糖尿病を有する日本人の患者さんを対象にした観察研究において、年1回以上の尿アルブミン測定または尿蛋白測定の実施割合は、学会施設認定なしの医療機関では18.7%(437,952例/2,335,978例)であり、学会施設認定ありの医療機関の54.8%(24,466例/44,629例)と比べて定期的に尿アルブミン測定または尿蛋白測定を実施している割合が低いことが報告されました2)。この結果は、特にわが国では糖尿病に罹患している患者さんの多くが学会施設認定なしの医療機関で治療を受けていることを勘案すると見過ごせない報告です。さらに多発性嚢胞腎、そして膠原病などの難病も腎障害の原因となり得ます。難病は、生活習慣病の既往がなくても発症し、急速に進行する場合もあることから、早期診断および早期治療が重要になります。

図 DKDの概念図

CKD1)

CKDは1つの疾患の名称ではなく、腎臓の働きが徐々に低下していくさまざまな腎臓病を包括した総称であり、予防啓発に積極的に取り組むために提唱された名称です。医学的には、「蛋白尿」など、または「腎機能低下」が3ヵ月以上続く状態と定義されています。また、CKDの重症度は、蛋白尿および腎機能の状態の組み合わせにより、表の「CKD重症度分類」で示すように4段階(緑、黄、オレンジ、赤)で分類されています。緑はリスクが最も低い状態で、黄、オレンジ、赤になるにつれ、死亡、末期腎不全、そして心血管死亡発症のリスクが上昇します。腎機能が同程度であっても、蛋白尿が多いほど重症度が高くなることに注意が必要です。

表 CKD重症度分類

CKDの疫学1)

CKDを有する患者さんの数は、約1,480万人と報告されています3)。近年、透析を必要とする患者さんの増加は鈍化してはいますが、医療技術や機器の進歩にともない長期にわたる透析治療を実現しつつ、2022年(令和4年)末は347,474人と初めて前年と比較して減少となりました4)。新規透析導入される患者さんの数における高齢化の影響を除外するための年齢調整を行うと、2008年(平成20年)比で新規透析導入率について減少傾向(ただし、女性は減少しているものの、男性は増加している)がみられ5)、このことは、これまでの腎疾患対策の着実な成果を示唆するものと考えられます。一方で、高齢化の進行がCKDを有する患者さんの増加要因となることも反映し、新規透析導入される患者さんの数も近年は横ばい傾向にあり、2022年(令和4年)は39,683人でした4)。実際2022年(令和4年)の透析導入される患者さんの平均年齢は71.42歳であり4)、透析を必要とする患者さんの高齢化は進んでいます。
新規透析導入される患者さんが透析に至った原因(原疾患)別の年次推移をみると、糖尿病性腎症、腎硬化症、慢性糸球体腎炎、そして多発性嚢胞腎の順に多いという結果でした4)。よく知られているように、1998年(平成10年)以降は糖尿病性腎症が第1位を占めており、以降一貫して右肩上がりで患者数は増加していましたが、その割合は、2011年(平成23年)以降はおおよそ40%台と横ばいで推移しています4)。一方、主に高血圧や加齢により発症する腎硬化症が年々増加していることには注意が必要です。

CKDと循環器系疾患の関連1)

CKDを有する患者さんは、循環器系疾患(心筋梗塞や脳梗塞など)のリスクも高いことが知られています1)。腎不全は、悪性新生物、心疾患、老衰、脳血管疾患、肺炎、誤嚥性肺炎、不慮の事故に次いでわが国の死因の第8位ですが6)、透析を必要とする患者さんをはじめとするCKDを有する患者さんは、死因の上位である心疾患や脳血管疾患などの合併症が死因となることが多くあります。そのため、CKDは国民の健康に与える影響が大きく、生命を脅かす重篤な疾病であると広く認識して対策を行うことが重要です。

原疾患を問わないCKDへの対策1)

2016年(平成28年)度に糖尿病性腎症重症化予防プログラムが策定されたことで、腎疾患対策のうち糖尿病性腎症対策の重要性の認識は広まりつつある一方、CKDは原疾患を問わない概念であり、血圧、血糖の管理、減塩指導などの治療原則も共通しています。また、まだ絶対数は少ないものの、年々増加傾向にある腎硬化症を含めた生活習慣病対策と、若年者や長期にわたり透析をされている患者さんも少なくない、慢性糸球体腎炎などの難病対策も含めたCKD対策を行うことで、より効果的・効率的な対策につながることが期待されます。

  1. 腎疾患対策検討会. 腎疾患対策検討会報告書(平成30年7月). https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/001005981.pdf
  2. Sugiyama T, et al. Variation in process quality measures of diabetes care by region and institution in Japan during 2015–2016: An observational study of nationwide claims data. Diab Res Clin Pract 155:107750, 2019.
  3. 日本腎臓学会 編. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023. 東京医学社、2023.
  4. 花房規男、他. わが国の慢性透析療法の現況(2022年12月31日現在). 透析会誌 56(12):473-536,2023.
  5. 若杉三奈子、他. 日腎会誌 60(1):41‒49, 2018.
  6. 厚生労働省. 令和4年(2022)人口動態統計(確定数)の概況. https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei22/dl/15_all.pdf
ページトップ