地域医療連携を支える手稲渓仁会病院成田院長の外柔内剛のリーダーシップ

サイトへ公開: 2017年08月07日 (月)
北海道札幌市における地域の連携ネットワークへの取り組みや、病院の経営者として大切なことなどについて、手稲渓仁会病院、院長の成田吉明先生にお伺いしています。
手稲渓仁会病院 院長 成田 吉明 先生-01

手稲渓仁会病院 院長 成田 吉明 先生

1985年、北海道大学医学部卒。1989年、北海道大学大学院修了。北海道大学第二外科に入局し、1985年から1995年の間、帯広厚生病院、伊達赤十字病院、北海道大学病院に勤務する。1995年、文部教官助手として北海道大学病院に勤務。1997年、手稲渓仁会病院へ入職。2013年に副院長兼地域連携福祉センター長に就任を経て、2015年4月より現職。

手稲渓仁会病院は、1987年の開院から、北海道札幌市手稲地区の地域医療を支えてきた北海道内有数の高度急性期病院です。特に、地域医療連携において、手稲渓仁会病院を中心とする他病院との情報共有、患者紹介などの連携システムは非常に優れており、モデルとして全国的な注目を浴びています。今回は、手稲渓仁会病院 院長の成田吉明先生に、地域医療連携をうまく機能させるためのリーダーシップについて、また、高度急性期病院の外科医としての経験から培われた成田先生独自の経営観についておうかがいしました。

手稲渓仁会病院の特徴:地域での強固な連携ネットワークと、より広域への高度急性期医療の提供

手稲渓仁会病院は、札幌市手稲地区唯一の高度急性期病院として「地域医療支援病院」、「地域がん診療連携拠点病院」、「救命救急センター」、「ドクターヘリ基地病院」などの指定を受け、地域医療の拠点の役割を担っています。手稲地区は、病院の規模や機能が相互補完的に配置されている地域であり、手稲渓仁会病院が中心としておこなう地域医療連携は、地方における好例として注目されています。

図1:TMNIT in Hokkaidoによる地域医療連携ネットワーク

図1:TMNIT in Hokkaidoによる地域医療連携ネットワーク

手稲地区では、手稲渓仁会病院を中心として、急性期、回復期、慢性期の各病院、かかりつけ医との強固な紹介ネットワークを作っています。その一環として、ITによる地域連携システムを運営するプロジェクト(Total communication Medical Network using Information Technology in Hokkaido:通称TMNIT in Hokkaido)を運営(図1)し、連携する医療機関と患者さんの通院、入院、手術の情報や、各医療機関の空床情報や患者さんの対応の可・不可などの情報を共有し、病院間のスムースな患者さんの紹介・逆紹介の体制を整備しています。このシステムの充実とともに、手稲渓仁会病院の患者紹介率、逆紹介率はプロジェクト発足直後と比較して高くなっています(患者紹介率:47.5%⇒72.3%、逆紹介率:27.6%⇒56.4%:2007年、2015年比較)※1

手稲渓仁会病院の特徴:地域での強固な連携ネットワークと、より広域への高度急性期医療の提供-01

さらに、近年はドクターヘリの運用、医療用ジェット機“メディカルウィング”の研究運行への協力、後志地域への周産期医療の支援など、診療圏を超える広域への高度急性期医療の提供にも取り組んでいます。これらを手稲地区の強固な連携システムと相乗させ、さらなる地域医療の活性化を目指して先行投資を行っています。

優れた連携システムは“血の通った信頼関係”の上に

成田先生は、地域医療連携の良好な運営のために重要な要素として、“信頼関係“を挙げます。そのためにまず重視していることとして、特に、ネットワークに参加するそれぞれの医療機関の役割を尊重し、互いの領域を侵害しないことを徹底しています。「手稲地区というチームのなかで、役割が重複し、患者さんの取り合いとなってしまうと、途端に地区内の連携がうまくいかなくなってしまいます。手稲渓仁会病院は高度急性期の機能のみ持つということを地区内に明言し、その方針を徹底することで、他の医療機関からの信頼を維持しています。」

また、その信頼関係を維持するために、成田先生は、気を張らない人間関係を構築する場、いわゆる”飲みュニケーション“もまた大切だといいます。手稲地区内では、さまざまな職種ごとの集まりを設け、顔を突き合わせて頻繁なミーティングを持ち、その集まりの後には、お酒を交えた交流会を行うようにしています。「肩肘を張らずに、それぞれの立場の関係者と医療連携の理想を共有し、地域全体で今後の課題について意識を高めるためのいい機会となっています。他の医療機関のクレームなども角を立てずに聞くことができ、真面目に会議を設けると何年もかかるような議論が、1回の飲み会で解決されることもあるほど、密度の濃いコミュニケーションがとれています。」とのこと。

現在、さまざまな地域において、ITシステムを導入した医療機関の連携が進んでいますが、その仕組みを成功させる上でも、このような地域の信頼関係は重要です。ITシステムを導入すると情報共有がスムースに行われ、地域医療連携が進むだろうと思われがちですが、意外にも、連携する医療機関のコミュニケーション不良によって難航してしまう事例は少なくないといいます。手稲地区の良好な地域連携の背景には、手稲地区の医療機関間の”血の通った信頼関係“がありました。

飾らない親しみやすさと、着実に信頼を積み上げる誠実さ:外柔内剛のリーダーシップ

手稲渓仁会病院 院長 成田 吉明 先生-02

成田先生は、道内有数の基幹病院を束ね、また、手稲地区の連携をまとめあげる人物とは思えないほど、飾らなく、柔らかい人柄です。リーダーとしてのご自身の特徴を伺うと、「多分、わかりやすい人間に見えるのだと思います。警戒しなくても付き合えると思ってくれているのでしょう。みんな気軽に話しかけてくれています。リーダーは、できるだけたくさんの人から情報を上げてもらうことも仕事の一つだと思っているので、非常に助かっています。」といいます。

また、成田先生は、チームのメンバーから上げてもらった情報を即時に判断し、組織を動かすということもリーダーの資質として重要と指摘します。成田先生には、毎日各医療職、看護職、事務職などから大小さまざまな報告や連絡、相談などが届きます。そのような中でも、忙しいことを理由にせず、どんな問いにでも必ずすぐに答えを出すということを心掛けているとのこと。「言われたことをうやむやにし、『言ってもダメだ』と思われると、次第に情報が上がって来なくなってしまいます。報告や連絡、相談を受けたときにはできるだけ早く、納得してもらえる判断をし、『この人はしっかり考えてくれる』と思ってもらえるように努めています。相手の職位や立場、話の大小問わず、常にこうしています。」と成田先生はいいます。

経営者になりたかったわけではなく、“いつの間にか”基幹病院の院長になっていた

成田先生は、今でこそご自身の経営観をもち、基幹病院の経営者として活躍されていますが、意外にも、もともとは病院の経営に関する関心を持っていたわけではありませんでした。

成田先生が手稲渓仁会病院の経営に参加し始めたのは、2013年の副院長就任時のことでした。就任前は、呼吸器、乳腺外科医としてのキャリアを盤石に積み、北海道中の患者さんの診療にあたれる手稲渓仁会病院の外科部長として技術を磨くことに楽しさとやりがいを感じており、満足していました。当時は6名の副院長がおり、すでに外科からも1名が副院長職に就いていましたが、そのような中、異例の「外科から2人目」の副院長として成田先生が抜擢されました。まさに青天の霹靂の出来事であり、非常に戸惑ったといいます。「何か特別な意思が働いていることを感じ、嫌な予感さえしました」と成田先生は振り返ります。

その“嫌な予感”はまさに的中し、2015年には院長職への指名がかかり、いつの間にか、地域の基幹病院の舵をとる立場となっていました。

“病院”の経営者として大切なこと:経営論より、チーム医療で培った“外科医の習性”

成田先生は院長就任を機に経営の勉強を始めます。その中で、病院経営セミナーや著名な経営者の書籍などにも触れてきましたが、それらに影響を受けたりすることはなく、むしろ、経営における自身の価値観を作った原点は、外科医としての経験でした。
成田先生は、経営を率先するリーダーの役割を「正しい情報をできるだけ多く集め、即時に最適な判断をすること」と考えています。この考えは、外科医としてのチーム医療での経験から身についたものだといいます。外科医は、一分一秒を争う手術や急患の対応にあたって、非常に短い時間の中で、その場で得られた情報から最適と考えられる判断をしなくてはなりません。「日々、高度急性期病院で外科医として勤務してきた中で、情報をもらって即時に判断し、人を動かすということが習性のように根付いています。この“外科医の習性”から、情報を上げてもらうこと、判断を任せてもらい、私の判断を信じて即時に動いてもらうことが非常に重要と考えています。」
また、成田先生は、経営とチーム医療に共通する重要なポイントとして、チーム内での協力を挙げ、「優秀な術者だけいても手術はうまくいきません。全面的に補助してくれる看護師さん、術後、夜中までナースコールに対応してくれる看護助手さんなど、たくさんの人の協力があってはじめて手術の成功があります。一人の超人的な技術をもつ外科医がいても、一人で患者さんの治療を行うことはできません。」と強調します。
成田先生の地域医療・手稲渓仁会病院の経営それぞれに向かう姿勢には、“チーム”を重視する姿があり、一人や一病院の突出した能力に頼らずに、それぞれのプレイヤーの役割を尊重し、組織の連携を強化することに主眼を置いた仕組みをつくるという一貫したポリシーが垣間見えます。
手稲地区のように、地区内唯一の基幹病院と周囲の病院が相互補完的に所在する地域において求められるリーダー像という視点から、成田先生の“チーム”や“信頼”を重視するリーダーシップは最適の資質であったのでしょう。

【ココがポイント】
成田先生は、ご自身の“外科医としてのチーム医療の経験”から、メンバーから上げてもらった情報に対して正しい判断を即時に返すことを、リーダーとしてチームのメンバーからの信頼を得るための秘訣として挙げられました。

これまでご紹介してきた、病院経営においてリーダーシップを奮ってこられた先生方にも、さまざまな個性がみられ、それぞれの病院のおかれる環境によって十色のリーダーシップがありましたが、手稲地区の特徴である地域のチームの利益を最大化するために、医療機関内の協働・連携と、長期的な信頼関係の維持を最重要とする環境においては、成田先生の“チーム”を尊重される価値観や、親しみやすく誠実な人柄が、手稲渓仁会病院、および手稲地区をまとめる人物として最適なリーダーシップであるのでしょう。取材中にもさまざまな医療職員、事務職員が成田先生に気軽に話しかけ、にこやかにお話しされる姿をお見かけし、成田先生の普段の親しみやすさを感じるとともに、強い信頼関係の存在を感じました。

出典・引用文献

出典・引用文献
※1)手稲渓仁会病院のすうじ:地域医療連携のすうじ
(https://www.keijinkai.com/teine/number/area/)

ページトップ