IPF急性増悪抑制の重要性~リアルワールドデータからの顕示~

サイトへ公開: 2020年07月18日 (土)
本コンテンツでは、矢寺 和博 先生(産業医科大学 教授)の解説をご覧いただけます。
矢寺 和博 先生

産業医科大学医学部
呼吸器内科学 教授

矢寺 和博 先生 

特発性肺線維症(IPF)急性増悪は、急性の呼吸不全を伴う深刻な病態である。IPF急性増悪を認める重症例に対しては、通常、高用量ステロイド治療が行われるが、その予後を検討した大規模臨床研究は実施されていなかった。近年、本邦において診断群分類包括評価(DPC; Diagnosis Procedure Combination)データを用いたIPF急性増悪発現後の予後を解析した研究報告が発表された1)。本稿では、著者の矢寺和博先生にIPF急性増悪に関する最新のリアルワールドデータを解説していただいた。

IPF急性増悪の予後に関する全国規模のリアルワールドデータ

今回、我々は厚生労働省による日本全国の診療実績であるDPCデータを用いて、2010年4月から2013年3月までの退院記録を基に、IPF急性増悪発現例の予後をレトロスペクティブに解析しました。本研究は、IPF急性増悪と考えられる入院後1週間以内に、気管内挿管・人工呼吸管理を要し高用量ステロイド治療を実施した209例を対象とした(図1)、全国規模のリアルワールドデータによるエビデンスを提示した極めて意義のある報告です。IPF急性増悪発現例の中でも、重度の呼吸障害を伴う重症例が抽出されていることも注目すべき点です。

IPF急性増悪の予後に関する全国規模のリアルワールドデータ

IPF急性増悪発現後30日生存率は44.6%

本研究におけるIPF急性増悪発現による入院後の30日生存率は44.6%、90日生存率は24.6%でした(図2)。観察期間中の死亡は138例(66%)で、入院後の生存期間中央値は21.0日でした。生存群は死亡群と比較して若年、入院時の呼吸困難症状が軽度、挿管下気管支鏡検査の実施率が高い、抗凝固薬(未分画ヘパリン、あるいは低分子ヘパリン)の投与割合が高いなどの特徴がありました。また、高用量ステロイド治療に、スルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST)合剤あるいはマクロライド系抗菌薬を上乗せすることで予後に好影響を及ぼすことも明らかになりました。また、生存率に地域差はなく、IPF急性増悪発現による入院は、冬季に頻度が高いことも示されました。

IPF急性増悪発現後30日生存率は44.6%

予後改善にはIPF急性増悪発現抑制が必須

残念ながら、IPF急性増悪に対する治療法は未だ確立されていません。IPF急性増悪発現後の生存率は従来の報告2)と比較して、近年では改善傾向にあるといわれてきましたが、本研究におけるIPF急性増悪を発現した重症例では、3ヵ月以内の短期間に6割以上の患者が死亡し、依然予後不良となる症例が存在するという実態が映し出されました。これは実臨床に大変なインパクトを与えるものだと考えています。IPF急性増悪がどのような患者で発現しやすいのかは未だ解明されておらず、IPFのどの段階においても発現し重症化する可能性があります。IPF患者の予後を改善するためには、早期からIPF急性増悪の予防を見据えた治療を行うことが非常に重要であるということが、改めて明らかになったと言えます。

文献

1)Oda K, et al. BMC Pulm Med 2016; 16: 91.

2)Kondo A, et al. Acute exacerbation in idiopathic interstitial pneumonia. In: Harasawa M, et al. eds, Interstitial Pneumonia of Unknown Etiology. University of Tokyo Press, Tokyo, 1989; 33-42.

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