SSc-ILDの診療ガイドライン(日本と海外)
国内外の診療ガイドラインに基づいて、SSc-ILDの診療アルゴリズムおよび推奨される治療法をご紹介します。また、SScの主症状である皮膚病変(皮膚硬化)の診療アルゴリズムおよび推奨される治療法についてもご紹介します。
注: ニンテダニブの効能効果は、特発性肺線維症ならびに全身性強皮症に伴う間質性肺疾患です。皮膚病変等の全身性強皮症に伴う間質性肺疾患以外の臓器病変に対する本剤の有効性は示されておりません。
日本における診療アルゴリズム
日本では、2016年に全身性強皮症診断基準・重症度分類・診療ガイドライン1)が発表され、SSc-ILD、皮膚硬化、消化管病変、などの8分野における治療および診療に関する推奨が示されています。
SSc-ILDの診療アルゴリズム
全身性強皮症診断基準・重症度分類・診療ガイドラインにおけるSSc-ILDの診療アルゴリズムを下図に示します。
SScと診断されたすべての患者に対して胸部高分解能CT(HRCT)による間質性肺疾患のスクリーニングを行うことが推奨されています(SSc-ILDに関するCQ1: 推奨度1C)。HRCTで間質性肺疾患が確認された場合、末期肺病変への進展予測を行って治療の適応を判断し(SSc-ILDに関するCQ2: 推奨度1C)、進行リスクが高い患者に対して治療が検討されます。
SSc-ILDの診療アルゴリズム
![SSc-ILDの診療アルゴリズム](/jp/sites/default/files/inline-images/M006_1_0.png)
SSc-ILDクリニカルクエスチョン一覧
推奨度の記載方法は[➡<参考>全身性強皮症診断基準・重症度分類・診療ガイドラインにおける推奨度の記載方法について]をご参照ください。
Clinical Question | 推奨度 | 推奨文 | |
CQ 1 | SSc診断時にILDのスクリーニングをすべきか? | 1C | すべての例で高解像度CTによるILDのスクリーニングを行うことを推奨する。 |
CQ 2 | 末期肺病変への進展を予測する有用な指標は? | 1C | HRCTにおける線維化所見と病変あるいは病変全体の広がり、肺機能検査によるFVC予測値により末期肺病変への進行リスクを予測し、治療適応を判断することを推奨する。 |
CQ 3 | シクロホスファミドは有用か? | 1A | 進行が予測されるSSc-ILDに対してシクロホスファミドの使用を推奨する。 |
CQ 4 | アザチオプリンは有用か? | 2C | SSc-ILDに対してCYC治療後の維持療法として使用することを提案するが、ファーストラインとして単独で使用しないことを提案する。 |
CQ 5 | ミコフェノール酸モフェチルは有用か? | 2C | SSc-ILDに対してミコフェノール酸モフェチル(MMF)をCYCの代替療法として使用することを提案する。 |
CQ 6 | カルシニューリン阻害薬は有用か? | 2D | SSc-ILDに対してタクロリムス、シクロスポリンをファーストライン治療薬として使用しないことを提案する。 |
CQ 7 | 副腎皮質ステロイドは有用か? | 2D | SSc-ILDに対してCYCやMMFなどの免疫抑制薬に中等量以下を併用することを提案するが、パルス療法を含むステロイドを単独で実施しないことを提案する。 |
CQ 8 | エンドセリン受容体拮抗薬は有用か? | 2B | SSc-ILDに対する治療としてボセンタン、マシテンタン、アンブリセンタンを使用しないことを提案する。 |
CQ 9 | イマチニブは有用か? | 2C | CYC不応もしくは忍容性から投与できないSSc-ILDに対して少量イマチニブの使用を選択肢のひとつとして提案する。 |
CQ 10 | 生物学的製剤(TNF阻害薬、アバタセプト、トシリズマブ)は有用か? | なし | SSc-ILDに対してTNF阻害薬、アバタセプト、トシリズマブの有用性は明らかでない。 |
CQ 11 | リツキシマブは有用か? | 2C | CYC不応もしくは忍容性から投与できないSSc-ILDに対してリツキシマブを使用することを提案する。 |
CQ 12 | ピルフェニドンは有用か? | 2D | CYC不応もしくは忍容性から投与できないSSc-ILDに対する選択肢の一つとしてピルフェニドンを用いることを提案する。 |
CQ 13 | 自己末梢血造血幹細胞移植は有用か? | 2A | CYC抵抗性のSSc-ILDに対する選択肢のひとつとして自己末梢血造血幹細胞移植を提案するが、移植関連死が起こり得るため慎重に適応を選択する必要がある。 |
CQ 14 | プロトンポンプ阻害薬は有用か? | 2D | SSc-ILDではプロトンポンプ阻害薬の使用を提案する。 |
皮膚硬化の診療アルゴリズム
皮膚硬化の主な治療対象は、
①発症から6年以内のびまん皮膚硬化型SSc(dcSSc)
②急速な皮膚硬化の進行
③触診にて浮腫性硬化が主体
のうち2項目以上を満たす患者と提案されています(皮膚硬化に関するCQ2: 推奨度2D)。
②または③のみを満たす患者では、抗トポイソメラーゼⅠ抗体や抗RNAポリメラーゼⅢ抗体、抗U3RNP抗体(保険未収載)が陽性であれば治療を検討すべきとされています。
皮膚硬化の診療アルゴリズム
![皮膚硬化の診療アルゴリズム](/jp/sites/default/files/inline-images/M006_2_0.png)
皮膚硬化クリニカルクエスチョン一覧
推奨度の記載方法は[➡<参考>全身性強皮症診断基準・重症度分類・診療ガイドラインにおける推奨度の記載方法について]をご参照ください。
Clinical Question | 推奨度 | 推奨文 | |
CQ 1 | modified Rodnan total skin thickness score(以下mRSS)は皮膚硬化の判定に有用か? | 1B | mRSSは皮膚硬化の半定量的評価に有用であり、用いることを推奨する。 |
CQ 2 | どのような時期や程度の皮膚硬化を治療の適応と考えるべきか? | 2D | ①皮膚硬化出現6年以内のdcSSc、②急速な皮膚硬化の進行(数ヵ月から1年以内に皮膚硬化の範囲、程度が進行)が認められる、③触診にて浮腫性硬化が主体である、のうち2項目以上を満たす例を対象とすべきと提案する。強皮症特異抗核抗体も参考にする。 |
CQ 3 | 副腎皮質ステロイドは皮膚硬化の治療に有用か? | 2C | 副腎皮質ステロイド内服は、発症早期で進行している例においては有用であり、投与することを提案する。 |
CQ 4 | 副腎皮質ステロイドは腎クリーゼを誘発するリスクがあるか? | 1C | 副腎皮質ステロイド投与は腎クリーゼを誘発するリスク因子となるので、血圧および腎機能を慎重にモニターすることを推奨する。 |
CQ 5 | D-ペニシラミンは皮膚硬化の治療に有用か? | 2B | D-ペニシラミンはSScの皮膚硬化を改善しないと考えられており、投与しないことを提案する。 |
CQ 6 | シクロホスファミドは皮膚硬化の治療に有用か? | 2A | シクロホスファミドは皮膚硬化の治療の選択肢のひとつとして考慮することを提案する。 |
CQ 7 | メトトレキサートは皮膚硬化の治療に有用か? | 2D | メトトレキサート(MTX)は皮膚硬化を改善させる傾向は認められているが、その有用性は確立していない。 |
CQ 8 | 他の免疫抑制薬で皮膚硬化の治療に有用なものがあるか? | シクロスポリン:2C タクロリムス:2C MMF:2C アザチオプリン:2D |
シクロスポリン、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)を皮膚硬化に対する治療の選択肢のひとつとして提案する。 |
CQ 9 | リツキシマブは皮膚硬化の治療に有用か? | 2B | 皮膚硬化に対する有効性が示されているが、安全性の観点から、適応となる症例を慎重に選択しながら投与することを提案する。 |
CQ 10 | 他の生物学的製剤で皮膚硬化の治療に有用なものがあるか? | IFNα:1A TNF阻害薬:なし トシリズマブ:なし IFNγ:なし IVIG:なし |
IFNαは使用しないことを推奨する。 TNF阻害薬、トシリズマブ、IFNγ、IVIGの有用性は明らかでない。 |
CQ 11 | イマチニブは皮膚硬化の治療に有用か? | 2A | 皮膚硬化に対する有用性は明らかではなく、皮膚硬化に対する治療としては投与しないことを提案する。 |
CQ 12 | その他の薬剤で皮膚硬化の治療に有用なものがあるか? | ミノサイクリン:1A トラニラスト:なし ボセンタン:なし シルデナフィル:なし |
ミノサイクリンは皮膚硬化の治療として投与しないことを推奨する。 トラニラスト、ボセンタン、シルデナフィルの皮膚硬化に対する有用性は明らかでない。 |
CQ 13 | 造血幹細胞移植は皮膚硬化の治療に有用か? | 2A | 皮膚硬化に対する有効性が示されているが、安全性の観点から、適応となる症例を慎重に選択して行うことを提案する。 |
CQ 14 | 光線療法は皮膚硬化の治療に有用か? | 2C | 長波紫外線療法は皮膚硬化の改善に有用である場合があり、行うことを提案する。 |
<参考>全身性強皮症診断基準・重症度分類・診療ガイドラインにおける推奨度の記載方法について
推奨の強さ・エビデンスの強さは以下のように記載されています。
推奨の強さの提示について
推奨グレード | |
1 | 強く推奨する |
2 | 提案する |
なし | 決められない場合 |
エビデンスのレベル分類 | |
A | 効果の推定値に強く確信がある |
B | 効果の推定値に中程度の確信がある |
C | 効果の推定値に対する確信は限定的である |
D | 効果の推定値がほとんど確信できない |
海外における治療アルゴリズム
海外では、欧州リウマチ学会(EULAR)による治療のrecommendations(EULAR recommendations for the treatment of systemic sclerosis)が2016年に改訂されており、皮膚および肺病変(SSc-ILD)を含む6分野における治療および診療の推奨が示されています2)。
皮膚硬化・SSc-ILDに対する治療推奨
EULAR recommendationsにおいて、皮膚硬化、SSc-ILDに対する治療は以下のように推奨されています。
EULAR recommendationsによる皮膚硬化およびSSc-ILDの治療法と推奨度
治療法 | 推奨文 | 推奨度 |
メトトレキサート(MTX)※ | 2つのRCTとその追加解析において、早期のdcSSc患者のスキンスコアを改善することが示されているが、他の臓器における有効性は確立されていない。 MTXは早期dcSSc患者における皮膚硬化の治療に使用を考慮してもよい。 |
A |
シクロホスファミド (CYC) |
質の高い2つのRCTの結果から、薬剤の毒性が知られてはいるものの、SSc-ILD患者、特に進行性のILDを伴う患者においてCYCの使用を考慮すべきである。 | A |
自己末梢血造血 幹細胞移植(HSCT) ※ |
2つのRCTにおいて、CYC静注と比べて皮膚硬化の改善と呼吸機能の安定化が示されており、また、無イベント生存期間の改善が示されている。急速に進行しているSSc患者で、臓器不全のリスクがある患者においてHSCTの使用を考慮すべきである。治療に関連する副作用や治療開始早期における治療関連死のリスクの高さから、慎重に対象症例を選択することおよび医療チームの経験が特に重要である。 | A |
※ 全身性強皮症の適応は本邦未承認(2019年12月時点)
Kowal-Bielecka O. et al.: Ann Rheum Dis 2017; 76(8): 1327-1339.
また、2018年には、Scleroderma Clinical Trials Consortium(SCTC)およびCanadian Scleroderma Research Group(CSRG)に所属する170名のエキスパートドクターへの質問票に基づいてSScの治療アルゴリズムが発表されており、皮膚病変、SSc-ILDに関しては以下のようになっています3)。
エキスパートドクターへの質問票に基づく皮膚病変およびSSc-ILDの治療アルゴリズム
![エキスパートドクターへの質問票に基づく皮膚病変およびSSc-ILDの治療アルゴリズム](/jp/sites/default/files/inline-images/M006_3_0.png)
【文献】
1) 全身性強皮症 診断基準・重症度分類・診療ガイドライン. 日皮会誌 2016; 126(10): 1831-1896.
2) Kowal-Bielecka O. et al.: Ann Rheum Dis 2017; 76(8): 1327-1339.
3) Fernández-Codina A. et al.: Arthritis Rheumatol 2018; 70(11): 1820-1828.