研究者に聞く、EXTRA試験の意義 ―EXTRA試験を読み解く― 第3回

サイトへ公開: 2023年12月20日 (水)

ご監修:吉岡 弘鎮 先生(関西医科大学 呼吸器腫瘍内科学講座 准教授)

2023年6月、ジオトリフの新たなデータとして、国内のEGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺癌患者を対象としたEXTRA試験の臨床パートの結果が報告されました。今回は、関西医科大学 呼吸器腫瘍内科学講座 准教授の吉岡 弘鎮 先生に、今回発表されたEXTRA試験(臨床パート)の結果の治療戦略への影響についてお伺いしました。

ご監修:吉岡 弘鎮 先生(関西医科大学 呼吸器腫瘍内科学講座 准教授)

Ⅳ期EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌の薬物治療におけるジオトリフの位置付け

Common mutationに対する一次治療の薬物治療方針について教えてください。

EGFR-TKIを中心とした治療が基本となりますが、治療方針は大きくふたつに分けて考えています。ひとつ目は第三世代EGFR-TKIであるオシメルチニブから治療を開始する方法、ふたつ目は、ジオトリフ単剤療法など第一・第二世代EGFR-TKIを含む治療から開始して、疾患進行が認められれば再生検を行い、T790M変異が検出された場合にオシメルチニブを投与するシークエンス治療を目指した方法です。私は患者さんにこのふたつの方法を説明したうえで選んでいただくようにしています。

LUX-Lung 3 検証試験(ジオトリフの承認時評価資料)

ジオトリフの承認の根拠となったLUX-Lung 3検証試験は、Uncommon mutationを含むEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌(NSCLC)を対象に、一次治療におけるジオトリフ単独療法とPEM+CDDP併用化学療法の有効性と安全性を比較検討した国際共同第Ⅲ相試験です。

主要評価項目であるPFS中央値は、ジオトリフ群11.1ヵ月、PEM+CDDP群6.9ヵ月であり、ジオトリフ投与によるPFSの有意な延長が検証されました。
日本人サブグループ解析においてはジオトリフ群で13.8ヵ月のPFSであり、日本人におけるOSは46.9ヵ月であったことが報告されています。

副作用は、ジオトリフ群229例中228例、99.6%、PEM+CDDP群111例中106例、95.5%に認められました。
主な副作用は、ジオトリフ群で下痢、発疹/ざ瘡、口内炎、爪の異常など、PEM+CDDP群で悪心、食欲減退などでした。

ジオトリフに関して治療方針を検討するうえで重視されている臨床試験データについて教えてください。

シークエンス治療を考えるに当たって重視しているのは、ふたつの国際多施設共同後ろ向き観察研究の併合解析であるGioSwinG研究です。
EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者においてジオトリフによる一次治療後にT790M変異を獲得し、オシメルチニブによる二次治療を行ったアジア人168名のデータが報告されています。

開始用量40mgでジオトリフを投与後、オシメルチニブによる二次治療を受けたアジア人患者(147例)における治療成功期間(TTF)の中央値は、30.6ヵ月でした。

また、全生存期間(OS)の中央値は45.2ヵ月であり、Del19では63.5ヵ月、L858Rでは39.1ヵ月と良好な結果を示しています。
これまでにEGFR遺伝子変異陽性肺癌に対するOSデータは数多く報告されていますが、シークエンス治療ができれば長期のOSが期待できると考えられます。

なお、本研究では、安全性情報を収集しておりません。

EXTRA試験(臨床パート)の結果と解釈

EXTRA試験は、EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌における一次治療としてのジオトリフの有効性と関連する新規の予測バイオマーカーを同定することを目的にデザインされた、国内21施設による多施設共同前向き観察研究です1,2)。今回の報告は、試験結果のうち臨床パートのみの報告となっています。

PFSデータへの印象を教えてください。

EXTRA試験では日本人103例が登録され、ジオトリフのPFS中央値は18.4ヵ月でした。EGFR遺伝子変異別にみるとDel19で21.2ヵ月、L858Rで16.7ヵ月という結果が得られました。日本人のCommon mutationを有する患者さんにおいて、ジオトリフは十分治療選択肢のひとつになると考えられます。

ジオトリフ最終用量別のTTFデータはどのように解釈されていますか?

TTF中央値は40mg/日で継続投与した群では13.4ヵ月、30mg/日、20mg/日、20mg/隔日投与に減量した群ではそれぞれ15.4ヵ月、18.8ヵ月、18.3ヵ月でした。この結果を踏まえると、適切に用量を調整しながら治療を継続することは患者さんのQOLの観点だけでなく、治療成功期間の観点においても重要と考えられます。

OSデータへの印象を教えてください。

追跡期間中央値35ヵ月でOS中央値は未到達であり、3年の全生存率が点推定値58.5%と、今後の解析に期待できるデータだと思います。また、ジオトリフによる一次治療後のオシメルチニブ投与の有無別でも解析されていますが、現時点ではオシメルチニブ投与あり群のat riskの人の数が少なく、immatureな結果と考えます。このような状況では1例が中央値の算出に与えている影響が大きい点に注意が必要です。今後、長期的な追跡に伴って一部のオシメルチニブ投与なし群の症例が投与あり群へ変わり、投与あり群のOSが延長する可能性が十分に考えられます。

EXTRA試験:安全性

有害事象の発現率は98.0%(101/103例)でした。主な有害事象(発現率5%以上)は、ざ瘡様皮疹66.0%(68例)、下痢61.7%(63例)、爪囲炎49.5%(51例)、口内炎39.8%(41例)、食欲不振19.4%(20例)、ALT上昇12.6%(13例)でした。投与中止に至った有害事象は、肺臓炎3例(Grade2,3,5:各1例)、ざ瘡様皮疹3例(Grade2:2例、Grade4:1例)、下痢2例(Grade1:2例)、食欲不振1例(Grade4)でした。死亡に至った有害事象は肺臓炎の1例でした。

肺癌診療ガイドライン2023年版3)について

今回のガイドライン改訂で、Common mutation例への一次治療におけるジオトリフ単剤療法については、Clinical Question(CQ)からBackground Question(BQ)への記載となりました。今回の改訂について、どのようにとらえていらっしゃいますか?
ガイドラインでは、治療選択の評価のために臨床試験の質をある程度揃えて比較しなければなりません。これまでガイドラインでは、第一世代EGFR-TKIを対照群とした第Ⅲ相試験と化学療法を対照群とした第Ⅲ相試験の両方について、ひとつのCQの中で触れられていましたが、ガイドライン委員会の中でも対照群が異なる第Ⅲ相試験を同一のCQの中で取り扱うことの妥当性について常に議論になっていました。今回の改訂では前者のみとなるよう整理されたと考えています。

ジオトリフについては第一世代EGFR-TKIを対照にした第Ⅱb相試験(LUX-Lung 7試験)4)が行われていますが、第Ⅲ相試験としては化学療法との比較(LUX-Lung 3試験)5)となっています。

今回のガイドライン改訂は、先生の日常診療における治療戦略にどのような影響を与えますか?

特に影響はありません。なぜなら、今回の改訂はジオトリフ単剤療法などに関してネガティブなデータが出てきたことによるものではなく、臨床試験データの扱いに応じた整理と考えられるからです。冒頭でご紹介したように、ジオトリフによる一次治療後にオシメルチニブを投与するシークエンス治療を目指す方法は、主要な治療戦略のひとつであることに変わりありません。

Common mutationの患者さんと一次治療を検討する際の説明の仕方について教えてください。

複数の治療選択肢がある中で、患者さんと情報を共有しその患者さんにとっての最適な治療を一緒に決定していくことが重要と考えています(Shared Decision Making:共有意思決定)。
患者さんには、まず大きくふたつの治療戦略があることをお話しします。オシメルチニブから開始する戦略と、第一・第二世代EGFR-TKIを含んだシークエンス治療を目指す戦略のふたつです。後者のシークエンス治療は、より長い予後が期待されるものの再生検の実施とT790M変異の検出が必要であること、また、それぞれの治療の有害事象の違いなどをご説明しています。

そして患者さんがシークエンス治療を目指す戦略を希望された場合には、ジオトリフ単剤投与とエルロチニブ+ラムシルマブ併用療法をご紹介して、それぞれで期待されるPFSや有害事象の違い、投与経路の違いやそれに伴う通院頻度の違いを説明して患者さんの希望をお伺いしています。

実際には10~15分ほどで、図を描きながら説明することが多いです。多少時間はかかりますが、ひとつひとつ、患者さんごとに理解度を確認しながら進めることが大切だと考えています。

薬物治療選択に関する患者さんとのShared Decision Makingの流れ

①オシメルチニブから開始する戦略とシークエンス治療を目指す戦略を提示して選んでいただく
・シークエンス治療が成功した場合は長期のOSが期待できることを説明する
・ただしシークエンス治療には再生検の実施とT790M変異の検出が必要であることを説明する

②シークエンス治療を目指す戦略を希望された場合
・ジオトリフ単剤投与とエルロチニブ+ラムシルマブ併用療法を紹介する
・それぞれの治療で期待されるPFSや有害事象、投与経路、通院頻度の違いを説明する

③選択した治療に応じて、有害事象の予防策を説明する

【引用】

  1. Okuma Y, Morikawa K, Tanaka H, et al.: Thorac Cancer 2019; 10: 395-400.
    本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施された。
    著者にベーリンガーインゲルハイム社よりコンサルタント料等を受領している者が含まれる。本論文の著者のうち1名はベーリンガーインゲルハイム社の社員である。
  2. Takata S. et al.: Ther Adv Med Oncol, 2023; 15: 1-14.
    本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施された。
    著者にベーリンガーインゲルハイム社よりコンサルタント料等を受領している者が含まれる。本論文の著者のうち1名はベーリンガーインゲルハイム社の社員である。
  3. 日本肺癌学会:肺癌診療ガイドライン 2023年版
  4. Park K. et al.:Lancet Oncol 17(5), 577-589, 2016
    本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施された。
  5. 社内資料 国際共同第Ⅲ相試験(LUX-Lung 3)[承認時評価資料]
    本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施された。
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