ご監修:関 順彦 先生(帝京大学医学部内科学講座 腫瘍内科 教授)
![研究者に聞く、EXTRA試験の意義 ーEXTRA試験を読み解くー](/jp/sites/default/files/inline-images/%2301_thumbnail.jpg)
2023年6月、ジオトリフの新たなデータとして、国内のEGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺癌患者を対象としたEXTRA試験の臨床パートの結果が報告されました。今回は、本試験の責任研究者である帝京大学医学部内科学講座 腫瘍内科 教授の関 順彦 先生に、治療選択の考え方や今回発表されたEXTRA試験の臨床パートの結果の解釈についてお伺いしました。
データに基づいた薬物治療の検討の重要性
EGFR遺伝子変異陽性Ⅳ期非小細胞肺癌の薬物治療についてお伺いします。一次治療は、どのように検討していますか?
私は、Exon19欠失かL858R変異かといった変異の種類や、患者さんの年齢や喫煙歴、併存疾患といった背景や希望などを踏まえて、製剤ごとの有害事象プロファイルや有効性のデータと照らし合わせて治療の選択肢を検討しています。
また、グローバル試験のデータを参照する場合には、全体の結果が日本人にも当てはまる結果なのかどうかにも注意しています。
さらに、サブグループ解析も含めて、データを多面的に見て、さまざまな可能性を考えて治療方針を立てることが重要だと考えています。
ジオトリフに対する評価
一次治療の選択肢のひとつであるジオトリフについては、どのような点を評価していますか?
![一次治療の選択肢のひとつであるジオトリフについては、どのような点を評価していますか?](/jp/sites/default/files/inline-images/dr_seki01.png)
第一に評価しているのは、減量して治療を継続できる場合が多い点です。副作用が出る場合は減量することでその患者さんにとっての至適投与量に調節できると考えられます。
そして第二に、ジオトリフを一次治療とするシークエンス治療によって無増悪生存期間(PFS)だけでなく全生存期間(OS)の延長が期待できるデータが複数の観察研究から得られている点です1-3)。日本では後治療が充実しているので、OSに占める一次治療の期間の割合が低くなると考えられます。ですので、特に日本の場合は一次治療のPFSの延長だけでなく、OSの延長にも目を向けることが重要だと考えます。
臨床試験成績
LUX-Lung3試験 日本人サブグループ解析
ジオトリフの国際多施設共同第Ⅲ相試験であるLUX-Lung3試験では、EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌の一次治療におけるジオトリフ単独投与とPEM+CDDP(ペメトレキセド+シスプラチン)併用化学療法の有効性の比較検討と安全性が検討されました。
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主要評価項目であるPFSの中央値は、ジオトリフ群11.1ヵ月、PEM+CDDP群6.9ヵ月で、ジオトリフ投与によるPFSの有意な延長が検証されました。
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LUX-Lung3試験には、日本人が83例含まれており、日本人集団のサブグループ解析が実施されました。各群の患者背景はこちらのとおりでした。
![本解析の結果、日本人集団全体のPFS中央値はジオトリフ群13.8ヵ月、PEM+CDDP群6.9ヵ月で、ジオトリフ投与による62%の再発リスク低下が認められました。](/jp/sites/default/files/inline-images/slide04_14.png)
本解析の結果、日本人集団全体のPFS中央値はジオトリフ群13.8ヵ月、PEM+CDDP群6.9ヵ月で、ジオトリフ投与による62%の再発リスク低下が認められました。
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変異別の結果をみると、L858Rを有する症例におけるPFS中央値は、ジオトリフ群13.7ヵ月、PEM+CDDP群8.3ヵ月でした。
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日本人集団において、有害事象発現率は両群とも100%で、ジオトリフ群における主なものは下痢100.0%(54例)、発疹/ざ瘡100.0%(54例)、爪の異常92.6%(50例)などでした。PEM+CDDP群における主なものは悪心89.3%(25例)、食欲減退78.6%(22例)、好中球減少症71.4%(20例)などでした。
![EXTRA試験報告(臨床パート)の注目ポイント](/jp/sites/default/files/inline-images/slide07_11.png)
EXTRA試験報告(臨床パート)の注目ポイント
今回報告されたEXTRA試験とは、どのような試験でしょうか。
![今回報告されたEXTRA試験とは、どのような試験でしょうか。](/jp/sites/default/files/inline-images/dr_seki02.png)
EXTRA試験は、EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌における一次治療としてのジオトリフの有効性と関連する新規の予測バイオマーカーを同定することを目的にデザインされた、国内21施設による多施設共同前向き観察研究です。今回の報告は、試験結果のうち臨床パートのみの報告となっています。
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![slide10_9.png](/jp/sites/default/files/inline-images/slide10_9.png)
臨床パートの結果で注目される点についてお聞かせください。
過去に報告されている国際共同第Ⅲ相臨床試験であるLUX-Lung3試験の日本人サブグループ解析では、ジオトリフのPFS中央値は13.8ヵ月でした。一方、今回報告したEXTRA試験におけるPFS中央値は18.4ヵ月(95% CI:13.8–22.1)でした。このようにジオトリフによる一次治療でも18.4ヵ月という結果が出ている点が、過去に報告されてきたデータと変わってきているところです。
近年の薬物療法開発の試みの傾向として、併用療法を行うことでPFSやOSを延ばそうとする向きがあります。そうした中でEXTRA試験ではジオトリフ単剤でのPFSを報告しています。
![近年の薬物療法開発の試みの傾向として、併用療法を行うことでPFSやOSを延ばそうとする向きがあります。そうした中でEXTRA試験ではジオトリフ単剤でのPFSを報告しています。](/jp/sites/default/files/inline-images/slide11_8.png)
さらに、EXTRA試験では試験終了時の全生存率は50%を超えていてOS中央値は計算できなかったのですが、ジオトリフ一次治療後のオシメルチニブ投与の有無によるサブグループ解析を行ったところ、オシメルチニブ投与の有無による有意な差は認められませんでした。
![3年に及ぶ長期追跡の結果として、オシメルチニブを投与されなかった症例でのOSが示されたということです。](/jp/sites/default/files/inline-images/slide12_5.png)
3年に及ぶ長期追跡の結果として、オシメルチニブを投与されなかった症例でのOSが示されたということです。
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EXTRA試験の結果の解釈
LUX-Lung3試験(日本人サブグループ解析)におけるPFSと、EXTRA試験のPFSの違いは何に起因するのでしょうか?
これは有害事象による治療中止率の違いが背景にあると考えています。LUX-Lung3試験での有害事象による治療中止率は18%(10/54例)でした4)。一方、EXTRA試験での有害事象による治療中止率は9%(9/103例)でした。
EXTRA試験では、ジオトリフ40mg/日で治療開始後、有害事象で減量が必要な患者さんについては、20mg/隔日投与までの減量を許容しました。この投与量の設定が本試験のデザイン上のポイントであり、患者さんごとの至適投与量に調整できる選択肢を示した、と考えています。
![また、ジオトリフ発売から年月が経ち、臨床での使用経験が積まれてきたことで、減量が必要な患者さんの見極めがスムーズに行えるようになっていたり、支持療法が浸透していたりと、安全性の管理が向上したことも背景にあると考えます。](/jp/sites/default/files/inline-images/slide14_2.png)
また、ジオトリフ発売から年月が経ち、臨床での使用経験が積まれてきたことで、減量が必要な患者さんの見極めがスムーズに行えるようになっていたり、支持療法が浸透していたりと、安全性の管理が向上したことも背景にあると考えます。
本データを日常診療にどのように生かしていったらよいと考えますか?
EXTRA試験においてジオトリフ単剤で18.4ヵ月のPFS中央値が得られたことは、偶然の結果ではなく、治療中止率を低く抑えたことに基づく結果だということを踏まえると、信頼性のあるデータととらえることができます。
日常診療においては、PFSだけでなくOS延長を目指した治療戦略を立てたい場合に参考にできるデータが増えたと考えます。
今後の展望
今後の解析や発表の予定について教えてください。
![今後の解析や発表の予定について教えてください。](/jp/sites/default/files/inline-images/dr_seki03.png)
今回報告した内容のほかに、高齢者のサブグループ解析やゲノミクス、メタボロミクス、エピゲノミクス、プロテオミクスなどの解析結果の公表を予定しています。
これまでの研究では、患者さんごとに合わせた治療選択が重要である一方で、残念ながらどの患者さんにどの治療法がよいのかということは十分明らかにされていませんでした。EXTRA試験でジオトリフの有効性と関連するバイオマーカーを明らかにすることができれば、治療選択に役立つと考えています。
また、有害事象と関連するバイオマーカーが同定できれば、今後の創薬や安全性の対処、管理につながる可能性があるので、その点でもEXTRA試験の解析結果が今後の肺癌診療に役立つことを期待しています。
EXTRA試験:安全性
有害事象の発現率は98.0%(101/103例)でした。主な有害事象(発現率5%以上)は、ざ瘡様皮疹66.0%(68例)、下痢61.7%(63例)、爪囲炎49.5%(51例)、口内炎39.8%(41例)、食欲不振19.4%(20例)、ALT上昇12.6%(13例)でした。投与中止に至った有害事象は、肺臓炎3例(Grade2,3,5:各1例)、ざ瘡様皮疹3例(Grade2:2例、Grade4:1例)、下痢2例(Grade1:2例)、食欲不振1例(Grade4)でした。死亡に至った有害事象は肺臓炎の1例でした。
![EXTRA試験:安全性](/jp/sites/default/files/inline-images/slide15_0.png)
【引用】
- Hochmair MJ. et al.: Future Oncol 15(25), 2905-2914, 2019
本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施された。 - Popat S. et al.: Lung Cancer 162, 9-15, 2021
本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施された。
著者にベーリンガーインゲルハイム社よりコンサルタント料等を受領している者が含まれる。本論文の著者のうち2名はベーリンガーインゲルハイム社の社員である。 - Miura S. et al.:Onco Targets Ther. 15, 873, 2022
本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施された。
著者にベーリンガーインゲルハイム社よりコンサルタント料等を受領している者が含まれる。本論文の著者のうち1名はベーリンガーインゲルハイム社の社員である。 - Kato T. et al.: Cancer Sci 106(9), 1202-1211, 2015
本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施された。