ジオトリフの副作用「下痢」のマネジメント

サイトへ公開: 2020年05月08日 (金)

ジオトリフ(一般名:アファチニブマレイン酸塩)の使用により発現しやすい副作用「下痢」のマネジメント方法をご紹介いたします。ジオトリフで治療を受ける肺がん患者さんのQOL向上にお役立てください。

1.下痢の発現頻度

化学療法未治療のEGFR遺伝子変異を有する非小細胞肺癌患者を対象とした国際共同第Ⅲ相臨床試験において、安全性評価対象229例(日本人54例を含む)中228例(99.6%)に副作用が認められ、下痢は218例(95.2%)でした。(承認時)

化学療法既治療の非小細胞肺癌患者を対象とした国内第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験の第Ⅱ相部分において、安全性評価対象62例中全例(100.0%)に副作用が認められ、下痢62例(100.0%)でした。(承認時)

2.下痢の発生機序・発現時期・症状

表1 殺細胞性抗がん剤による下痢の分類

図1 EGFR-TKIによる下痢発生機序の報告

3.下痢の評価と対処

下痢の評価には、便性状によるブリストル便性状スケールや、有害事象共通用語規準であるCTCAEが用いられます。ブリストル便性状スケールでは、泥状便、水様便が下痢便と判定されます。CTCAEはGrade1~5で評価します。

重度の下痢発現を防ぐためには、早期からの適切な対処が求められます。
ジオトリフ適正使用ガイドでは、Grade1~2ではロペラミドなどの下痢止めを追加してジオトリフの投与を継続することが推奨されています。一方、Grade3以上またはGrade2の下痢でも48時間を超えるものや忍容できない場合には、ジオトリフを休薬し、下痢止めを投与して症状がGrade1以下に回復した後にジオトリフを減量して投与再開することが推奨されています。

図2 下痢の評価法

図3 異常が認められた場合の対応

4.患者さんへ指導する際のポイント

ジオトリフ服用中の患者さんにおいては、安全に治療を継続するためにも、患者指導を適切に行い、Grade 1以内にコントロールすることが重要です。
そのためには、患者さんに下痢症状を図などで分かりやすく説明し、下痢止め服用が必要な症状を理解いただき、下痢の発生時期や患者さんの排便状況を把握することが重要です。排便状況に変化があれば適切に休薬減量および薬物治療による介入を行うことが必要です。
また、休薬・減量、発症時の水分摂取、下痢止め服用の必要性を繰り返し説明してください。ただし、重度の便秘にならないよう下痢止めの過度の服用は避け、下痢や腹痛がひどい場合はすぐに医師へ連絡をしてもらうように説明することも大切です。

図4 患者さんへ指導する際のポイント

■日常生活で患者さんに工夫してもらうこと

下痢の際には、安静と清潔をこころがけることが求められます。また、下痢は心身に負担のかかる症状であるため、脱水や体内の電解質バランス、食事回数や1回の食事量に注意しながら、消化のよい食べ物で必要なエネルギーをとり、体力を保つことを伝えることが大切です。

図5 日常生活の工夫

■食事のポイント

図6 食事の工夫

図6 食事の工夫イメージ1図6 食事の工夫イメージ2

■副作用マネジメント

図7は、副作用の発現と増加に伴う医療従事者の負担増を表しています。下痢等の副作用は、一般的に重症化するにつれて医療従事者の負担も増加してしまいますので、これらの対処を早期に行って重症化を予防することが重要です。ジオトリフの場合、第Ⅲ相試験の統合解析の結果、早期の用量マネジメントを行うことで、副作用の発現・重症化の低減、副作用マネジメントの負担軽減、治療継続期間の延長等が期待できることがわかっています。

図7 副作用に伴う、医療従事者への負担

図8 ジオトリフの用量マネジメント(イメージ図)

5.減量前後の「下痢」の発現率と無増悪生存期間(PFS)について

LUX-Lung3,6の統合解析の結果をご紹介します。本解析の対象は、EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌患者468例です。ジオトリフ40mg投与開始後6ヵ月以内の減量の有無と減量前後の副作用発現率および重篤度、無増悪生存期間(PFS)について解析を行いました。

■減量率および増量率

ジオトリフの減量はLUX-Lung3で53.3%、LUX-Lung6で28.0%でした。

図9 ジオトリフの減量率および増量率

■減量前後の主な副作用発現率

ジオトリフ減量前の主な副作用は、下痢・発疹/ざ瘡・口内炎などでした。下痢についてみると、LUX-Lung3では減量前Grade1-2 78.7%、Grade3以上20.5%だったのに対し、減量後はGrade1-2 42.6%、Grade3以上4.1%と減少傾向が認められました。LUX-Lung6でも、減量前Grade1-2 76.2%、Grade3以上11.9%、減量後Grade1-2 29.9%、Grade3以上0%と同様の傾向が示されました。

図10 減量前後の主な副作用発現率:LUX-Lung 3(国際共同第Ⅲ相試験)

図11 減量前後の主な副作用発現率:LUX-Lung 6(海外データ)

■投与期間

投与期間は、LUX-Lung3,6ともに減量した患者さんで短縮はみられませんでした。

図12 投与期間中央値

■減量有無別の無増悪生存期間(サブグループ解析)

薬剤の減量では効果減弱が最も心配されますが、LUX-Lung3のPFS中央値を見ると、減量した患者さんで11.3ヵ月、減量していない患者さんで11.0ヵ月であり、両群間で差は認められませんでした(ハザード比1.25、95%CI:0.91-1.72)。
LUX-Lung6でも同様に減量した患者さんと減量していない患者さんでPFSの差は認められていません(PFS中央値12.3ヵ月、11.0ヵ月、ハザード比1.00、95%CI:0.69-1.46)。
以上の結果から、ジオトリフは用量マネジメントにより、副作用発現頻度を減らし、効果を減弱させず治療を続けることができると考えられます。

図13 減量有無別の無憎悪生存期間:LUX-Lung 3(国際共同第Ⅲ相試験)

図14 減量有無別の無憎悪生存期間:LUX-Lung 6(海外データ)

■安全性
LUX-Lung 3:ジオトリフ群での副作用は99.6%(228/229 例)、主なものは下痢 95.2%(218 例)、発疹/ ざ瘡89.1%(204 例)、口内炎/ 粘膜炎72.1%(165 例)など、 重篤な副作用は22.3%(51 例)、主なものは下痢15 例、嘔吐8 例など、投与中止に至った副作用は3.5%(8 例)、下痢3 例、間質性肺疾患、爪の異常が各2 例など、 死亡に至った副作用は4 例(呼吸不全2 例、敗血症、不明が各1 例) に認められた。
LUX-Lung 6:ジオトリフ群での副作用は98.7%(236/239 例)、主なものは下痢 88.3%(211 例)、発疹/ ざ瘡80.8%(193 例)、口内炎/ 粘膜炎51.9%(124 例) など、 重篤な副作用は6.3%(15 例)、主なものは発疹/ ざ瘡3 例、下痢2 例など、投与中止に至った副作用は5.9%(14 例)、主なものは発疹/ざ瘡5 例など、死亡に至った副作用は1例(突然死) に認められた。

Sequist LV et al.: J Clin Oncol 2013; 31: 3327-3334 
Wu YL et al.: Lancet Oncol 2014; 15: 213-222
いずれの研究もベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施された

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