ジオトリフ(一般名:アファチニブマレイン酸塩)の使用により発現しやすい副作用「皮膚障害」のマネジメント方法をご紹介いたします。ジオトリフで治療を受ける肺がん患者さんのQOL向上にお役立てください。
1. 皮膚障害の発現頻度
化学療法未治療のEGFR遺伝子変異を有する非小細胞 肺癌患者を対象とした国際共同第Ⅲ相臨床試験において、安全性評価対象229例(日本人54例を含む)中228例 (99.6%)に副作用が認められ、発疹は141例(61.6%) でした。(承認時)
化学療法既治療の非小細胞肺癌患者を対象とした国内第 Ⅰ/Ⅱ相臨床試験の第Ⅱ相部分において、安全性評価対象 62例中全例(100.0%)に副作用が認められ、発疹は52例(83.9%)でした。(承認時)
2. 皮膚障害の発生機序・発現時期
(1)皮膚障害の発生機序
EGFR-TKI投与による発疹/ざ瘡などの皮膚障害の発生機序は、EGFR-TKIが表皮基底のケラチノサイトの異常な増殖や分化などを引き起こし、その結果生じた炎症が表皮表面に影響を及ぼすことで、ざ瘡様皮疹や皮膚乾燥が生じると考えられています。
図1 EGFR-TKIによる皮膚症状発生機序の報告
(2)皮膚障害の発現時期
投与開始から約2週間ほど発現します。
3. ざ瘡と皮膚乾燥の評価と予防および対症療法
ざ瘡様皮疹や皮膚乾燥の評価には、主に有害事象共通用語規準CTCAE v4.0が用いられています。
ざ瘡様皮疹は、日常生活動作の制限、体表面積に占める割合、治療などにより、Grade1~5の5段階に判定されます。
皮膚乾燥も同様に日常生活動作の制限や体表面積に占める割合などで分類され、Grade1~3の3段階に判定されます。
表1 ざ瘡様皮疹の評価法
表2 皮膚乾燥の評価法
重度の皮膚障害を防ぐためには、早期から適切な対処が求められます。ジオトリフ適正使用ガイドでは、Grade1~2では外用ステロイド、経口ミノサイクリンなどの対症療法を行った上でジオトリフ投与を継続すると解説されています。
一方、Grade3以上またはGrade2でも7日間を超える持続的なものや忍容できない場合には、ジオトリフを休薬した上で対症療法を実施し、Grade1以下に回復した後に減量して投与再開するとされています。
図2 異常が認められた場合の対応
4. 患者さんへ指導する際のポイント
皮膚障害の重症化を防ぎ、 EGFR-TKIによる治療を中断させないためには、患者さんへの指導も大切です。
EGFR-TKI投与中は、肌を清潔に保つことや、肌の乾燥を防ぐための保湿、衣服やシャワーの温度などによる皮膚への刺激を避けるといった日常的なスキンケアを患者さんに行っていただくことがポイントです。
また、EGFR-TKIによる皮膚障害は、投与直後から発現しうることを患者さんに知っていただき、顔がかゆい、皮膚が乾燥してめくれるなどの症状が出た時点ですぐに医療機関へ連絡してもらうように指導することも重要です。また、処方された外用薬や経口薬の中止や継続は自己判断せずに、医療従事者に相談してもらうようにお話ししてください。
図3 患者さんへ指導する際のポイント
■副作用マネジメント
図4は、副作用の発現と増加に伴う医療従事者の負担増を表しています。口内炎等の副作用は、一般的に重症化するにつれて医療従事者の負担も増加してしまいますので、予防を含めた早期の対応により重症化を防ぐことが求められます。ジオトリフの場合、第Ⅲ相試験の統合解析の結果、早期の用量マネジメントを行うことで、副作用の発現・重症化の低減、副作用マネジメントの負担軽減、治療継続期間の延長等が期待できることがわかっています。
図4 副作用の発現と増加に伴う医療従事者の負担増
図5 ジオトリフの用量マネジメント(イメージ図)
5.ジオトリフ減量による副作用(皮膚障害)マネジメント
■用量変更前後の血漿中アファチニブ濃度変化
ジオトリフの用量変更前後での血漿中アファチニブ濃度変化の解析結果をご紹介します。対象はLUX-Lung3,6に参加したEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌患者468例です。
本解析では、対象を投与開始後43日目までに、
(1)40mg投与を継続した群
(2)30mgへ減量した群
(3)50mgに増量した群
の3群に分けて解析を行っています。
ジオトリフの用量変更後の投与開始43日目時点における血漿中アファチニブ濃度は、3群とも同程度であり、ほぼ20~40ng/mLの幅に収まっていました。
一方、用量変更前(22日目)における血漿中アファチニブ濃度は、30mgへ減量した群で高く、50mgに増量した群で低い傾向がみられ、3群間でばらつきが認められました。
図6 用量変更前後の血漿中アファチニブ濃度(海外データ)
つまり、個々の患者さんに合わせたジオトリフの用量変更は、適した血漿中アファチニブ濃度につながる可能性が示唆されました。
■ジオトリフの投与量と投与期間
また、LUX-Lung3の日本人サブグループ解析では、ジオトリフの投与量と投与期間に関連がないことが示されています。本解析では、約75%の患者さんで減量が行われていることが示されましたが、減量を経験した患者さんでも投与期間が短くなることはありませんでした。すなわち、ジオトリフの忍容性に合わせた用量調整により、副作用は管理が可能であり治療中止を必要とすることは少ないことが示唆されました。
なお、減量を行ってもジオトリフの有効性に影響はみられないことも報告されています*。
*The Oncologist 2014;19:1100-1109
図7 LUX-Lung3 日本人サブグループ解析 ジオトリフの投与量と投与期間:全日本人症例
以上の結果から、ジオトリフは用量マネジメントにより、種々の副作用を軽減できる可能性があり、効果が減弱することなく治療の継続を期待できると考えられます。
■安全性
LUX-Lung 3:ジオトリフ群での副作用は99.6%(228/229 例)、主なものは下痢95.2%(218 例)、発疹/ ざ瘡89.1%(204 例)、口内炎/ 粘膜炎72.1%(165 例)など、重篤な副作用は22.3%(51 例)、主なものは下痢15 例、嘔吐8 例など、投与中止に至った副作用は3.5%(8 例)、下痢3 例、間質性肺疾患、爪の異常が各2 例など、死亡に至った副作用は4 例(呼吸不全2 例、敗血症、不明が各1 例) に認められた。
LUX-Lung3(日本人サブグループ解析):ジオトリフ群での有害事象は100%(54/54例)に認められた。主な副作用(発現率50%以上)は、下痢(54例、100.0%)、発疹/ざ瘡(54例、100.0%)、爪の異常(50例、92.6%)、Grade 3以上で発現率10%以上の副作用は、爪の異常(14例、25.9%)、下痢(12例、22.2%)、発疹/ざ瘡(11例、20.4%)、減量に至った有害事象はそれぞれ75.9%(41/54例)、主な事象は爪の異常(17例、31.5%)、発疹/ざ瘡(15例、27.8%)、下痢(12例、22.2%)、投与中止に至った有害事象は18.5%(10/54例) に認められ、ジオトリフ群で治療関連の投与中止は認められなかった。
LUX-Lung 6:ジオトリフ群での副作用は98.7%(236/239 例)、主なものは下痢88.3%(211 例)、発疹/ ざ瘡80.8%(193 例)、口内炎/ 粘膜炎51.9%(124 例) など、重篤な副作用は6.3%(15 例)、主なものは発疹/ ざ瘡3 例、下痢2 例など、投与中止に至った副作用は5.9%(14 例)、主なものは発疹/ざ瘡5 例など、死亡に至った副作用は1例(突然死) に認められた。
Sequist LV et al.: J Clin Oncol 2013; 31: 3327-3334
Kato T, et al. Cancer Sci 2015;106(9):1202
Wu YL et al.: Lancet Oncol 2014; 15: 213-222
いずれの研究もベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施された