ご監修:上月 稔幸 先生(国立病院機構 四国がんセンター 臨床研究センター長)
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2023年6月、ジオトリフの新たなデータとして、国内のEGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺癌患者を対象としたEXTRA試験の臨床パートの結果が報告されました。今回は、国立病院機構 四国がんセンター 臨床研究センター長の上月 稔幸先生に、今回発表されたEXTRA試験(臨床パート)の結果の治療戦略への影響についてお伺いしました。
EXTRA試験(臨床パート)の結果と解釈
EXTRA試験は、EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌における一次治療としてのジオトリフの有効性と関連する新規の予測バイオマーカーを同定することを目的にデザインされた、国内21施設による多施設共同前向き観察研究です1,2)。今回の報告は、試験結果のうち臨床パートのみの報告となっています。
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PFSデータへの印象を教えてください。
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過去に報告されているLUX-Lung3試験の日本人サブグループ解析では、ジオトリフのPFS中央値は13.8ヵ月でした。一方、EXTRA試験では日本人103例が登録されジオトリフのPFS中央値は18.4ヵ月で、EGFR遺伝子変異別に見るとDel19で21.2ヵ月、L858Rで16.7ヵ月、Uncommon mutationでは14.3ヵ月でした。EXTRA試験のPFS結果は日本人患者さんに対するジオトリフ単剤治療での有効性として意義あるものと考えます。
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ジオトリフ最終投与量別のTTFデータはどのように解釈されていますか?
減量している患者さんが多くいるという印象は受けましたが、減量した患者さんでもTTFには影響がさほど見られませんでした。ジオトリフによる治療では、副作用の発現状況を踏まえて適切に用量を調節しながら治療を継続していくことが重要と考えます。
なお、EXTRA試験では有害事象による中止率は9%(9/103例)でした。一方でLUX-Lung3試験日本人サブグループにおける有害事象による中止率は18%(10/54例)でした。
臨床での使用経験が積まれてきたことで、適切な用量調節や支持療法の実施など、有害事象管理が向上したことも背景にあるかもしれません。
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OSデータへの印象を教えてください。
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現時点では、OS中央値は未到達と、具体的な数値が出ているわけではありませんが、観察期間や打ち切り患者さんの状況も含めて考えると、少なくとも36ヵ月を超える結果になると予想されます。
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また、ジオトリフ一次治療後のオシメルチニブ投与の有無別OSデータも出されていますが、オシメルチニブ投与のない患者さんには、①一次治療後にPDになり、EGFRの再検査が行われ、EGFR T790Mが検出されなかった患者さん、②一次治療後にPDにはなったものの、再生検ができないなどの理由でEGFRの再検査が実施できていない患者さん、③一次治療のジオトリフのみで長期の有効性が得られている患者さんの3種類の集団が含まれております。そのため、特に長期生存されている②、③の患者さん中から、今後オシメルチニブ投与ありの患者さんに変わる可能性があることから、結果の解釈には注意が必要です。
一方で、オシメルチニブ投与を受けた患者さんにおいては、OS中央値42.4ヵ月というデータが得られています。Kaplan-Meier曲線を拝見すると、中央値に達する前の症例の中に多数打ち切り症例が認められますので、今後これらの患者さんが長期生存することでOSが延びる可能性も考えられます。さらに、現時点でオシメルチニブ投与を受けていない患者さんの中からオシメルチニブの投与を受ける患者さんが出てくれば、曲線の全体が高くなり、さらにOSが延長する結果が示される可能性もあります。
そのため、今回の結果は、一次治療でジオトリフ治療を開始し、その後オシメルチニブ投与を受けた患者さんでのOS中央値は、「少なくとも」 42.4ヵ月と解釈することができる結果だと思っています。
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EXTRA試験の結果の治療への影響
EXTRA試験の結果は、Common mutationの治療戦略にどのような影響を与えるとお考えになりますか?
EXTRA試験は日本で行われたジオトリフの一次治療における有効性と安全性を前向きに検討したPhaseⅡ試験です。Common mutationのみならず、Uncommon mutationも10%含まれていた中で一次治療でのPFS中央値 18.4ヵ月という結果が示されました。
これはCommon mutationにおけるEGFR-TKIの治療選択肢の中でのジオトリフの位置付けをあらためて考え直してもよいのではと思わせられたデータです。
ジオトリフとオシメルチニブのシークエンス治療により長期生存も期待され、個人的には、Del19とL858RのCommon mutationにおいても、ジオトリフは一次治療の選択肢のひとつになりうると考えています。
今後は、EXTRA試験の主要評価項目であるジオトリフのバイオマーカー研究の結果が待たれるところです。
ジオトリフの長期奏効と関連するバイオマーカーが同定できれば治療戦略を立てるうえでの参考になると思います。
EXTRA試験:安全性
有害事象の発現率は98.0%(101/103例)でした。主な有害事象(発現率5%以上)は、ざ瘡様皮疹66.0%(68例)、下痢61.7%(63例)、爪囲炎49.5%(51例)、口内炎39.8%(41例)、食欲不振19.4%(20例)、ALT上昇12.6%(13例)でした。投与中止に至った有害事象は、肺臓炎 3例(Grade2,3,5:各1例)、ざ瘡様皮疹 3例(Grade2:2例、Grade4:1例)、下痢 2例(Grade1:2例)、食欲不振 1例(Grade4)でした。死亡に至った有害事象は肺臓炎の1例でした。
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【引用】
- Okuma Y, Morikawa K, Tanaka H, et al.: Thorac Cancer 2019; 10: 395–400.
本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施された。
著者にベーリンガーインゲルハイム社よりコンサルタント料等を受領している者が含まれる。本論文の著者のうち1名はベーリンガーインゲルハイム社の社員である。 - Takata S. et al.: Ther Adv Med Oncol, 2023; 15: 1-14.
本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施された。
著者にベーリンガーインゲルハイム社よりコンサルタント料等を受領している者が含まれる。本論文の著者のうち1名はベーリンガーインゲルハイム社の社員である。