Specialist Interview 第3回(Common)

サイトへ公開: 2023年09月06日 (水)

ご監修:角 俊行 先生(函館五稜郭病院 呼吸器内科 医長)

画像1

近年、EGFR 遺伝子をはじめとするドライバー遺伝子に対する分子標的治療薬が数多く登場してきました。EGFR 遺伝子変異の中でもバリアントによって薬剤感受性が異なることを示すデータも報告されており1)、個々の患者さんの遺伝子変異に応じた治療戦略の重要性が増しています。

本シリーズでは、EGFR 遺伝子変異の実際や、EGFR 遺伝子変異の結果に応じた治療戦略について、肺癌治療のスペシャリストの先生方へ伺います。

今回は、L858RのEGFR 遺伝子変異陽性NSCLCに対する治療戦略とジオトリフに関して、函館五稜郭病院 呼吸器内科 医長の角 俊行 先生にお伺いしました。

EGFR 遺伝子変異陽性Ⅳ期NSCLCの一次治療を検討するうえで、Del19とL858Rについてどのようにとらえたらよいでしょうか?

EGFR 遺伝子変異陽性Ⅳ期NSCLCの一次治療を検討するうえで、変異タイプは考慮しているポイントのひとつです。EGFR 遺伝子変異は大きくCommon mutationとUncommon mutationに分けられますが、同じCommon mutationでもDel19とL858Rでは異なる特徴を持っています。

異なる点の例を挙げると、まず構造があります。Del19とL858Rとでは、キナーゼ活性の様式が異なると考えられています(図1)。

EGFR 遺伝子変異陽性Ⅳ期

図1

また、Compound mutationの発現割合も異なっていて、Del19では4.7%である一方、L858Rでは19.5%つまり約5人に1人がUncommon mutationとのCompound mutationを有しています(図2)。

EGFR 遺伝子変異陽性Ⅳ期NSCLCの

図2

さらに、EGFR-TKIの治療効果は、Del19に比べてL858Rで劣る傾向にあることがメタ解析から示されています(図3)。

こうしたことから、Del19とL858は、いずれもCommon mutationではあるものの、それぞれ別ものとしてとらえるべきだと考えます。

Specialist Interview第3回

図3

L858Rでは、どのように治療を検討されていますか?

L858R陽性患者さんの場合、Compound mutationである可能性を踏まえて、Compound mutationであっても感受性が期待できる治療を優先して検討するようにしています。

図4は、さまざまなEGFR 遺伝子変異を導入した細胞パネルを作製して、各EGFR-TKIへの感受性を検討した研究のデータです。青色が感受性があったことを示しています。このデータからは、L858Rを含むCompound mutation導入細胞のうち、90%がジオトリフ(アファチニブ)に感受性があったことが示されています。このような幅広い変異における感受性から、ジオトリフは、Compound mutationを考慮した治療選択肢としてL858Rにおいて検討できる選択肢のひとつです。

また、L858Rでは、Del19よりもVEGF発現が高いことも知られています2)。特に胸水、肝転移や脳転移症例においては、VEGF高値が推測されるため3,4)、これらを有する患者さんにはVEGF阻害薬を加えた治療も含めて検討します。

Specialist Interview第3回

図4

ジオトリフの臨床試験成績では、どのような点を評価されていますか?

私が特に注目するのは、LUX-Lung3試験の日本人集団解析です。大規模な国際共同試験も複数ありますが、国内と海外では、患者背景や後治療を含めた治療環境が異なることがあります。そのため、たとえ少ない症例数であったとしても、日本人解析のデータは参考にするようにしています。

LUX-Lung3試験の日本人集団解析でジオトリフは、L858Rに対するPFS中央値が13.7ヵ月、日本人集団全体に対するOS中央値が46.9ヵ月だったことが示されています5)。また、日本人集団のジオトリフ群において、間質性肺炎は54例中2例で報告されました5)

Specialist Interview第3回

【LUX-Lung3試験について】

ジオトリフの国際多施設共同第Ⅲ相試験であるLUX-Lung3試験では、EGFR 遺伝子変異陽性非小細胞肺癌の一次治療におけるジオトリフ単独投与とPEM+CDDP(ペメトレキセド+シスプラチン)併用化学療法の有効性の比較検討と安全性が検討されました。

Specialist Interview第3回

主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)の中央値は、ジオトリフ群11.1ヵ月、PEM+CDDP群6.9ヵ月で、ジオトリフ投与によるPFSの有意な延長が検証されました。

Specialist Interview第3回

LUX-Lung3試験には、日本人が83例含まれており、日本人集団のサブグループ解析が実施されました。

本解析の結果、日本人集団全体のPFS中央値はジオトリフ群13.8ヵ月、PEM+CDDP群6.9ヵ月で、ジオトリフ投与による62%の再発リスク低下が認められました。

Specialist Interview第3回

変異別の結果をみると、L858Rを有する症例におけるPFS中央値は、ジオトリフ群13.7ヵ月、PEM+CDDP群8.3ヵ月でした。

Specialist Interview第3回

また、日本人におけるOS中央値は、46.9ヵ月でした。

Specialist Interview第3回

本試験におけるジオトリフ群の副作用発現率は99.6%でした。主なものは下痢95.2%(218例)、発疹/ざ瘡89.1%(204例)、口内炎/粘膜炎72.1%(165例)などでした。
PEM+CDDP(ペメトレキセド+シスプラチン)群の副作用発現率は95.5%で、主なものは悪心65.8%(73例)、食欲減退53.2%(59例)、疲労46.8%(52例)などでした。
Grade 3以上で発現率10%以上の副作用、副作用による死亡例、投与中止に至った副作用は、ご覧のとおりでした。

Specialist Interview第3回Specialist Interview第3回

日本人集団において、有害事象発現率は両群とも100%で、ジオトリフ群における主なものは下痢100.0%(54例)、発疹/ざ瘡100.0%(54例)、爪の異常92.6%(50例)などでした。PEM+CDDP群における主なものは悪心89.3%(25例)、食欲減退78.6%(22例)、好中球減少症71.4%(20例)などでした。主な副作用、Grade 3以上で発現率10%以上の副作用、減量に至った有害事象、投与中止に至った有害事象はご覧のとおりでした。

Specialist Interview第3回Specialist Interview第3回

EGFR 遺伝子変異陽性NSCLCの一次治療において、ジオトリフが検討される患者像を教えてください。

一次治療としてジオトリフまたはオシメルチニブの投与を受けた患者さんの臨床データを後ろ向きに解析したCJLSG1903研究では、L858Rかつ脳転移のない症例においてジオトリフ群でOSの延長が見られたことから6)、L858Rかつ脳転移のない症例はジオトリフが選択肢のひとつになると考えています。

CJLSG1903研究は、前向き試験が難しいセッティングにおいてより有効なサブグループを見いだしたという点で、後ろ向き研究であっても参考となるデータといえます。先にご紹介したようにL858Rのジオトリフに対する感受性は基礎研究で示されていますが、CJLSG1903研究の結果からも、実臨床で治療を受けた患者さんにおいてL858Rに対するジオトリフの有効性が示されたと考えます。

また、EGFR 遺伝子変異陽性NSCLCの方は長く治療していかなければならないので、一次治療はもちろん二次治療も含めて治療を検討する必要があります。たとえば高齢患者さんなど、EGFR-TKI治療後の二次治療で殺細胞性化学療法を選択しづらい症例では、EGFR-TKIによるシークエンス治療を考慮するために一次治療にジオトリフを選択するのもひとつの方法ではないでしょうか。

Specialist Interview第3回

【CJLSG1903試験について】

本研究は、病理診断にてNSCLCと診断された変異型を問わないEGFR 遺伝子変異陽性患者554例を対象とした後ろ向き観察研究です。ジオトリフおよびオシメルチニブによる一次治療を比較することにより、ジオトリフによる一次治療後にオシメルチニブを投与するシークエンス治療の可能性、ならびにジオトリフによる一次治療後にオシメルチニブを投与するシークエンス治療がベネフィットとなるサブグループが探索されました。

Specialist Interview第3回

EGFR 遺伝子変異型のL858Rはオシメルチニブ群に多く、Uncommonはジオトリフ群に多く認められました。

Specialist Interview第3回

主要評価項目のTD-TKI中央値は、ジオトリフ群で18.6ヵ月、オシメルチニブ群で20.5ヵ月であり、ハザード比は1.15(95%CI:0.93-1.41)でした(p=0.204、ログランク検定)。

Specialist Interview第3回

副次評価項目のOS中央値は、ジオトリフ群で36.2ヵ月、オシメルチニブ群で25.1ヵ月であり、ハザード比は1.47(95%CI:1.07-2.02)でした(p=0.018、ログランク検定)。

Specialist Interview第3回

また、L858R変異陽性かつ脳転移のない患者において、OSのハザード比は2.31(95%CI:1.01-5.30)でした(p=0.047、ログランク検定)。

Specialist Interview第3回

なお、本研究では安全性情報は収集されていません。安全性情報に関しましては、製品電子添文をご参照ください。

Specialist Interview第3回

まとめ

  • 同じCommon mutationであってもDel19とL858Rでは、構造やCompound mutationの発現割合、EGFR-TKIの治療効果において異なる特徴を持っている
  • ジオトリフは、Compound mutationを考慮した治療選択肢としてL858Rにおいて検討できる選択肢のひとつである
  • CJLSG1903研究の結果から、L858Rかつ脳転移のない症例はジオトリフが選択肢のひとつになると考えられる;
Specialist Interview第3回

【引用】

  1. Kohsaka S, et al.: Sci Transl Med.2017;9(416),eaan6566.
  2. Yuan XH, et al. Oncol Lett. 2018;16(2):2105-2112.
  3. Yano S, et al. Am J Pathol. 2000;157(6):1893-903.
  4. Yano S, et al. Cancer Res. 2000;60(17):4959-67.
  5. Kato T, et al. Cancer Sci 2015;106(9):1202-1211.
  6. Ito K, et al. ESMO Open 2021;6(3):100115.
ページトップ