心不全治療で考慮すべき、心腎連関と早期治療の重要性

サイトへ公開: 2024年04月25日 (木)

国内ガイドラインや前向き観察研究からみた心不全と慢性腎臓病の併存を考慮した治療と早期治療の重要性について、ジャディアンスのエビデンスとともにご紹介します。

心不全の分類や患者背景から考える心不全治療のポイント

心不全では左室機能障害が関与していることが多いことから1)   、左室駆出率の評価に基づく分類が用いられています。
左室駆出率別の心不全患者の予後については、心不全患者を対象とした国内の前向き観察研究(JCARE-CARD研究)にて検討されており、左室駆出率が低下した心不全患者の群と左室駆出率が保たれた心不全患者の群を比較した結果、心血管死のリスク(p=0.495)および心不全による再入院のリスク(p=0.515)ともに両群間で有意な差を認めなかったと報告されました(いずれもCox比例ハザードモデル)。
心不全治療においては、左室駆出率を問わず、適切な治療を行うことが重要です。

1) 日本循環器学会, 日本心不全学会.: 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)2022年4月1日更新.  
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/06/JCS2017_tsutsui_h.pdf(2024年3月4日閲覧)

同JCARE-CARD研究における心不全患者の患者背景では、71.2%がeGFR<60(mL/min/1.73m2)であったと報告されました2)  。このeGFR<60はCKDステージG3a以降に該当することから3)  、心不全患者の7割で腎機能が低下した状態であったことを示します。
同文献では、eGFR≧60の群、eGFR 30~59の群、eGFR<30の群の順に全死亡のリスクおよび心不全による再入院のリスクの両方が高くなり(ともにp<0.001、Cox回帰モデル)、eGFRが低下するほど予後が悪化したと報告されました。
日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン『急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)』でも心不全の併存症の一つに慢性腎臓病(CKD)を挙げており、心腎連関(cardio-renal syndrome)の重要性を示すとともに、心不全治療においては、eGFRを加味した治療戦略を立てることが望ましいとしています1) 

1) 日本循環器学会, 日本心不全学会.: 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)2022年4月1日更新.  
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/06/JCS2017_tsutsui_h.pdf(2024年3月4日閲覧)
2) Hamaguchi S, et al.: Circ J. 2009; 73(8): 1442-7.
3) 日本腎臓学会.: エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023. 東京医学社, 2023. p4

心不全治療について、2017年改訂版のガイドラインでは、心不全の発症・進展を4つのステージに分類した上でステージの進行を抑制するための治療目標を設定しています。心不全発症後の心不全ステージの治療目標は、予後の改善と症状を軽減することです。
慢性・進行性に経過する心不全は、急性増悪により非代償性急性心不全を反復しやすい状況であり、反復することで徐々に重症化します。さらに、標準治療に対する反応が乏しく増悪を反復するようになると、治療抵抗性心不全ステージに進展します。
心不全ステージから治療抵抗性心不全ステージへは直線的に増悪するのではなく、経過の予測が困難であることに注意が必要です。また、心不全ステージには慢性心不全と急性増悪時の急性心不全の両方が含まれるため、急性期治療から慢性期治療への移行が重要とされています。そのため、経過の予測が困難な心不全ステージ以降は、早期から症状コントロール、QOL改善、入院予防や死亡回避等を目指した適切な心不全治療を行うことが重要です 。

ジャディアンスのエビデンス①
左室駆出率が低下した(LVEF≦40%)慢性心不全患者を対象とした国際共同第Ⅲ相・検証試験(EMPEROR-Reduced試験)
左室駆出率が保たれた(LVEF>40%)慢性心不全患者を対象とした国際共同第Ⅲ相・検証試験(EMPEROR-Preserved試験)

ジャディアンスには、左室駆出率が低下した(LVEF≦40%)慢性心不全患者と左室駆出率が保たれた(LVEF>40%)慢性心不全患者のそれぞれを対象としたエビデンスおよび腎機能への影響を検討したエビデンスがあります。
EMPEROR-Reduced試験は、LVEF≦40%の慢性心不全(HFrEF)を対象としてジャディアンスの有効性と安全性を検討した国際共同第Ⅲ相・検証試験です。

EMPEROR-Preserved試験は、LVEF>40%の慢性心不全(HFpEF)を対象として、ジャディアンスの有効性と安全性を検討した国際共同第Ⅲ相・検証試験です。

EMPEROR-Reduced試験では、ジャディアンス10mgを慢性心不全の標準治療に追加することで、心血管死または心不全による入院の初回発現が有意に低下することが検証されました(p<0.0001、Cox比例ハザード回帰モデル)。
EMPEROR-Preserved試験では、ジャディアンス10mgをACE阻害薬、ARB、ARNI、β遮断薬、MRA等に追加することで、心血管死または心不全による入院の初回発現が有意に低下することが検証されました(p<0.001、Cox比例ハザード回帰モデル)。

事前規定されたサブグループ解析として、CKDの有無別の解析を行っており、EMPEROR-Reduced試験、EMPEROR-Preserved試験ともにCKDの有無にかかわらず、心血管死または心不全による入院のハザード比は、1.00未満となりました。

ジャディアンスの有効性が示されるまでの期間を検討するため、EMPEROR-Preserved試験では、心血管イベントのいずれかについて有意差を示すまでの期間を評価しました。その結果、プラセボ群に対するジャディアンス10mg群のハザード比は、18日目に初めて信頼区間の上限が1.00未満となり、その後全ての時点において信頼区間の上限が1.00未満でした。
同様に、EMPEROR-Reduced試験では、心血管イベントの初回イベント発現までの期間を評価した結果、図のように、12日目のハザード比の信頼区間の上限が1.00未満となりました。

また、ジャディアンスの慢性心不全に対する効果について、心不全悪化による利尿薬増量イベントへの影響を評価しました。
EMPEROR-Reduced試験において、初回の利尿薬増量イベントはジャディアンス10mg群で297例、プラセボ群で414例報告され、ジャディアンス10mg群では、プラセボ群と比較して利尿薬増量のリスクが有意に低下しました[p<0.0001(名目上のp値)、Cox比例ハザード回帰モデル]。
EMPEROR-Preserved試験において、初回の利尿薬増量イベントはジャディアンス10mg群で482例、プラセボ群で610例報告され、ジャディアンス10mg群では、プラセボ群と比較して利尿薬増量イベントのリスクが有意に低下しました[p<0.0001(名目上のp値)、Cox比例ハザード回帰モデル]。
なお、両試験の心不全悪化による利尿薬増量が報告された外来受診の全数の平均累積発現率は図のように推移しました。

【参考情報】
eGFRの年間変化率(eGFRスロープ)は、腎機能に対するジャディアンスの影響を示す評価項目であり、負の値が小さいほど、1年あたりのeGFRの低下が少ないことを示します。
EMPEROR-Reduced試験では、プラセボ群に対するジャディアンス10mg群の推定されたeGFRスロープの差は1.733mL/min/1.73m²/年(99.9%CI: 0.669-2.796)で有意差があることが検証されました(p<0.0001、ランダム係数モデル)。eGFRのベースラインからの変化量の経時推移は図のとおりでした。

【参考情報】
EMPEROR-Preserved試験では、プラセボ群に対するジャディアンス10mg群の推定されたeGFRスロープの差は1.363mL/min/1.73m2  /年(99.9%CI: 0.861-1.865)で有意差があることが検証されました(p<0.0001、ランダム係数モデル)。eGFRのベースラインからの変化量の経時推移は図のとおりでした。

EMPEROR-Reduced試験での有害事象の発現割合は、ジャディアンス10mg群で76.2%(1,420/1,863例)、プラセボ群で78.5%(1,463/1,863例)でした。
主な有害事象は、ジャディアンス10mg群で心不全332例(17.8%)、低血圧130例(7.0%)、腎機能障害105例(5.6%)等、プラセボ群で心不全444例(23.8%)、低血圧119例(6.4%)、高カリウム血症、高尿酸血症各115例(6.2%)等でした。重篤な有害事象は、ジャディアンス10mg群で心不全332例、心室性頻脈55例、肺炎53例等、プラセボ群で心不全444例、肺炎62例、急性腎障害55例等でした。なお、投与中止、死亡に至った有害事象は表のとおりでした。

EMPEROR-Preserved試験での有害事象の発現割合は、ジャディアンス10mg群で85.9%(2,574/2,996例)、プラセボ群で86.5%(2,585/2,989例)でした。
主な有害事象は、ジャディアンス10mg群で心不全449例(15.0%)、尿路感染236例(7.9%)等、プラセボ群で心不全594例(19.9%)、高血圧256例(8.6%)、心房細動223例(7.5%)等でした。重篤な有害事象は、ジャディアンス10mg群で心不全448例、肺炎100例、心房細動92例、急性腎障害81例等、プラセボ群で心不全594例、肺炎119例、急性腎障害107例等でした。なお、投与中止、死亡に至った有害事象は表のとおりでした。 

ジャディアンスのエビデンス②
急性心不全  (新規発症または慢性心不全急性増悪)で入院し、状態が安定した患者を対象とした国際共同第Ⅲ相試験(EMPULSE試験)

※ ジャディアンス錠10mgの効能又は効果(一部抜粋)「慢性心不全 ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。」

EMPULSE試験では、急性心不全(新規発症または慢性心不全急性増悪)で入院し、状態が安定した患者を対象として、ジャディアンス10mg 1日1回を追加した場合の有効性および安全性を評価しました。
本試験では、主要評価項目をwin ratioで評価した臨床的影響[死亡までの期間、心不全イベントの頻度、初回心不全イベントまでの期間、治療90日後のKCCQ-TSSのベースラインからの5点以上の変化を、階層的手順で評価した複合評価項目]としました。本試験で使用されたwin ratioとは、ジャディアンス10mg群の患者がプラセボ群の患者よりも優れた臨床的影響を有する可能性を推定するものであり、高いwin ratioは、ジャディアンスの臨床的影響が大きいことを示唆します。
無作為化から投与終了まで90日間でのwin ratioは1.36(95%CI: 1.09-1.68)であり、プラセボ群と比較してジャディアンス10mg群の臨床的影響が有意に大きかったことが示されました(p=0.0054、名目上のp値、一般化ペアワイズ比較)。
なお、本試験での心不全による入院から試験薬初回投与までの期間の中央値は3日でした。
本試験での有害事象の発現割合は、ジャディアンス10mg群で70.0%(182/260例)、プラセボ群で77.3%(204/264例)でした。
主な有害事象は、ジャディアンス10mg群で心不全25例(9.6%)、低血圧22例(8.5%)、高カリウム血症、浮動性めまい各11例(4.2%)等、プラセボ群で心不全37例(14.0%)、低血圧24例(9.1%)、急性腎障害19例(7.2%)等でした。また、重篤な有害事象は、ジャディアンス10mg群で心不全25例、急性腎障害10例、心室頻拍8例等、プラセボ群で心不全37例、急性腎障害19例、うっ血性心不全11例等でした。投与中止、死亡に至った有害事象は表のとおりでした。
なお、ジャディアンス錠10mgの効能又は効果(一部抜粋)は、「慢性心不全 ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。」です。

ジャディアンスのエビデンス③
腎疾患進行のリスクのある慢性腎臓病患者を対象とした国際共同第Ⅲ相・検証試験
(EMPA-KIDNEY試験)

ジャディアンス10mgは、2024年2月、慢性腎臓病の効能又は効果での適応追加が承認されました。
適応追加にあたって評価された国際共同第Ⅲ相・検証試験(EMPA-KIDNEY試験)では、スクリーニング時およびその3ヵ月以上前に治験実施施設で測定したeGFR 20以上45未満(mL/min/1.73m2)、またはeGFR 45以上90未満かつUACRが200mg/gCr以上(または尿中蛋白/クレアチニン比が0.3g/gCr以上)のいずれかを満たす、腎疾患進行のリスクのある慢性腎臓病患者を対象として、ジャディアンス10mgを1日1回経口投与した時の有効性および安全性をプラセボと比較検討しました。

※ ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。

本試験の主要評価項目である腎疾患進行または心血管死のプラセボ群に対するハザード比は0.73で、イベントリスクが27%低下し、ジャディアンス10mg群の優越性が検証されました(99.83%CI:0.59~0.89、p<0.0001、Cox回帰モデル)。

本試験では、eGFRの年間変化率を検討しています。その結果、ベースラインから最終フォローアップ来院まで(全期間)のeGFRスロープはプラセボ群-2.90に対してジャディアンス10mg群-2.16であり、2ヵ月目の来院から最終フォローアップ来院まで(慢性期)のeGFRスロープは、プラセボ群-2.74に対してジャディアンス10mg群-1.37であり、ジャディアンス10mg群はプラセボ群に対してeGFRスロープの低下が小さかったことが示されました(いずれもp<0.0001、名目上のp値、shared parameterモデル)。

本試験では事前に規定した非重篤有害事象および全ての重篤な有害事象に限定して収集した結果、それらの発現割合はジャディアンス10mg群で43.9%(1,444/3,292例)、プラセボ群で46.1%(1,516/3,289例)でした。
主な有害事象は、ジャディアンス10mg群で痛風231例(7.0%)、コロナウイルス感染98例(3.0%)、急性腎障害93例(2.8%)等、プラセボ群で痛風266例(8.1%)、急性腎障害117例(3.6%)、コロナウイルス感染107例(3.3%)等でした。また、重篤な有害事象は、ジャディアンス10mg群でコロナウイルス感染98例、急性腎障害93例、血中カリウム増加76例等、プラセボ群で急性腎障害117例、コロナウイルス感染107例、血中カリウム増加87例等でした。投与中止、死亡に至った有害事象は表のとおりでした。

ジャディアンスは1日1回10mgで慢性心不全※1、慢性腎臓病※2、2型糖尿病に対して投与することが可能です。
慢性腎臓病※2に対する効能又は効果の追加が2024年2月に承認されました。
慢性心不全※1と慢性腎臓病※2に対するジャディアンスの用法及び用量は1日1回10mgの経口投与です。朝食前または朝食後のどちらでも服用可能です。

※1 ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。
※2 ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。

ジャディアンスについて、左室駆出率が低下した慢性心不全患者(LVEF≦40%)を対象としたEMPEROR-Reduced試験、左室駆出率が保たれた慢性心不全患者(LVEF>40%)を対象としたEMPEROR-Preserved試験に加え、心不全による入院後3日(中央値)から投与開始した際の臨床的影響を検討したEMPULSE試験、慢性腎臓病患者を対象としたEMPA-KIDNEY試験等、さまざまな切り口でのエビデンスが報告されています。
左室駆出率を問わず、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者さんにジャディアンス錠10mgの処方をご検討ください。

※ ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。

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