左室駆出率が保たれた慢性心不全に対するジャディアンスの有効性と安全性

サイトへ公開: 2022年12月22日 (木)
左室駆出率が保たれた慢性心不全(HFpEF)に対するジャディアンスの有効性と安全性

本コンテンツでは、2022年4月の電子添文改訂により左室駆出率を問わず慢性心不全患者の治療薬*として使用可能となったジャディアンスについて、左室駆出率が保たれた慢性心不全(HFpEF)患者を対象に行われたEMPEROR-Preserved試験成績を中心にご紹介いたします。ぜひご覧ください。

*ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。

本日のPOINT

  • JCARE-CARD研究において、HFrEF患者とHFpEF患者は心血管死および心不全による再入院のリスクが同程度であることが示されています。
  • 左室駆出率40%超の慢性心不全患者を対象としたEMPEROR-Preserved試験において、主要評価項目の「心血管死またはHHFの初回発現までの期間」がプラセボ群と比較してジャディアンス群で有意に21%低下しました。
  • 日本人サブグループ解析において、心血管死またはHHFは、ジャディアンス群で10.4%、プラセボ群で16.1%認められ、プラセボ群に対するジャディアンス群のハザード比は0.58でした。
  • 探索的評価項目「心血管死・HHF・心不全の悪化に対する点滴治療を目的とした救急/緊急外来受診のいずれかについて有意差が示されるまでの期間」において投与開始後18日目で、プラセボ群と比較してジャディアンス群で有意なリスク低下が認められました。
  • 【参考情報】52週時のKCCQ-CSSのベースラインからの変化の調整平均値(95%CI)は、ジャディアンス群で4.51(3.89~5.12)、プラセボ群で3.18(2.57~3.80)でした。
  • 有害事象の発現割合は、治験薬投与期間中央値1.91年においてジャディアンス10mg群で85.9%(2,574/2,996例)でした。
  • ジャディアンス10mg群で発現割合が5%以上となった有害事象は心不全15.0%、尿路感染7.9%、低血圧7.7%、高血圧7.3%、転倒7.1%、心房細動7.0%、腎障害7.0%、高カリウム血症6.0%、肺炎5.3%でした。

2022年4月にジャディアンスの電子添文が改訂され、ジャディアンス錠10mgは左室駆出率を問わず、慢性心不全患者の治療薬*として使用いただけるようになりました。

*ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。

最初に、慢性心不全患者の予後について検討した日本の前向き登録観察研究(JCARE-CARD研究)についてご紹介します。本研究の結果、左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者と左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)患者は、心血管死および心不全による再入院のリスクが同程度であることが示されています(図1)。

本日のPOINT

図1

一方、治療については、「2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療」1において、「HFrEFの予後は既存の心不全治療薬により改善したものの、いまだに不良であり、HFpEFに至っては予後を改善するエビデンスをもった薬剤はいまだに開発されていない。このような観点から、新規の心不全治療薬の開発がまたれるところである」と解説されており、HFpEFの予後を改善する心不全治療薬が待ち望まれていました。

ジャディアンスの適応

このような背景のなか、2022年4月にジャディアンスの電子添文が改訂されました。この改訂で「左室駆出率の保たれた慢性心不全における本剤の有効性及び安全性は確立していないため、左室駆出率の低下した慢性心不全患者に投与すること。」が削除されたことで、ジャディアンス錠10mgは左室駆出率を問わず、慢性心不全患者の治療薬*として使用いただけるようになりました。

*ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。

ジャディアンスは、左室駆出率が保たれた慢性心不全患者の心血管死または心不全による入院(HHF)のリスク低下が検証された初めての薬剤です(図2)。

ジャディアンスの適応

図2

試験概要

この電子添文改訂の根拠となったのは、左室駆出率が40%超に保たれた慢性心不全患者5,988例(うち日本人は417例)を対象に行われたEMPEROR-Preserved試験の成績です。

本試験では、ACE阻害薬、ARB、ARNI、β遮断薬、MRA等が投与されていた患者に、ジャディアンス10mg1日1回経口投与を追加したときの心血管死およびHHFのリスクに対する有効性および安全性をプラセボと比較検討しました(図3)。

試験概要

図3

解析計画は図4のとおりです。

試験概要02

図4

主要評価項目

主要評価項目である心血管死またはHHFの初回発現は図5のように推移し、プラセボ群と比較してジャディアンス群では心血管死またはHHFの初回発現のリスクが21%有意に低下しました(HR=0.79、95%CI:0.69~0.90、p<0.001、Cox比例ハザード回帰モデル、検証的結果)(図5)。

主要評価項目

図5

また、主要評価項目のサブグループ解析の結果、日本人集団では心血管死またはHHFの初回発現は図6のように推移することが示されました。
心血管死またはHHFは、ジャディアンス群で10.4%、プラセボ群で16.1%認められ、プラセボ群に対するジャディアンス群のハザード比は0.58(95%CI:0.34~1.00)でした(図6)。

主要評価項目02

図6

心血管死・HHF・心不全の悪化に対する点滴治療を目的とした救急/緊急外来受診のいずれかについて有意差が示されるまでの期間

図7は、心血管死・HHF・心不全の悪化に対する点滴治療を目的とした救急/緊急外来受診のいずれかについて有意差が示されるまでの期間(探索的評価項目)です。
投与開始後18日目で、ジャディアンス群では、心血管死・HHF・心不全の悪化に対する点滴治療を目的とした救急/緊急外来受診のいずれかにおいて、プラセボ群と比較して有意なリスク低下が認められました。

心血管死・HHF・心不全の悪化に対する点滴治療を目的とした救急/緊急外来受診のいずれかについて有意差が示されるまでの期間

図7

【参考情報】eGFR(CKD-EPI)crのベースラインからの変化

eGFR(CKD-EPI)crのベースラインからフォローアップ(投与30日後のフォローアップVisit)までの調整平均値の変化量は、ジャディアンス群でー3.3mL/min/1.73m²、プラセボ群でー5.7mL/min/1.73m²でした(図8)。

【参考情報】eGFR(CKD-EPI)crのベースラインからの変化

図8

【参考情報】52週時のKCCQ-CSSのベースラインからの変化

52週時のKCCQ-CSSのベースラインからの変化の調整平均値(95%CI)は、ジャディアンス群で4.51(3.89~5.12)、プラセボ群で3.18(2.57~3.80)でした(図9)。

【参考情報】52週時のKCCQ-CSSのベースラインからの変化

図9

安全性

全体集団における有害事象の発現割合は、治験薬投与期間中央値1.91年においてジャディアンス10mg群で85.9%(2,574/2,996例)、プラセボ群で86.5%(2,585/2,989例)でした。
ジャディアンス10mg群で発現割合が5%以上となった有害事象は心不全15.0%、尿路感染7.9%、低血圧7.7%、高血圧7.3%、転倒7.1%、心房細動7.0%、腎障害7.0%、高カリウム血症6.0%、肺炎5.3%でした。
また、重篤な有害事象の発現割合はそれぞれ47.9%、51.6%、投与中止に至った有害事象は19.1%、18.4%、死亡に至った有害事象は9.6%、9.9%であり、これらの内訳は図10のとおりです。

安全性

図10

用法及び用量

SGLT2阻害薬ジャディアンスは、2021年11月に、慢性心不全*に対する適応拡大の承認を取得しています。

*ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。

2型糖尿病治療においては1日1回10mg、25mgで承認を得ておりますが、慢性心不全に対する用法及び用量は2型糖尿病に対する通常用量と同じ1日1回10mgの1用量であり、朝食前または朝食後のどちらでも服用可能です。

用法及び用量

図11

これまで、左室駆出率が保たれた慢性心不全患者さんに対して、予後を改善するエビデンスをもった薬剤の登場が望まれてきました。

ジャディアンスは、EMPEROR-Reduced試験2,3および今回ご紹介したEMPEROR-Preserved試験によって慢性心不全治療薬※として左室駆出率を問わず有効性が検討されています。

左室駆出率が低下した慢性心不全だけでなく、左室駆出率が保たれた慢性心不全に対しても、ジャディアンス10mgをぜひご検討ください。

※ジャディアンス錠10mgの効能又は効果(一部抜粋)「慢性心不全 ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。」

用法及び用量02

【引用】

  1. 日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン編、2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療、p35、
    https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Tsutsui.pdf、2022年10月26日アクセス
  2. 社内資料:左室駆出率が低下した慢性心不全患者を対象とした国際共同第Ⅲ相・検証試験(承認時評価資料)
  3. Packer M. et al.: N Engl J Med. 2020; 383(15): 1413-24. 本試験はベーリンガーインゲルハイム社/イーライリリー社の支援により行われました。
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