左室駆出率≧40% の慢性心不全に対する国内外のガイドラインとエビデンス

サイトへ公開: 2023年10月31日 (火)

左室駆出率≧40% の慢性心不全に対する国内外のガイドラインとエビデンス

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国内の心不全患者のLVEF分布とガイドラインによる治療推奨

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国内の心不全レジストリー研究JROADHFでは、心不全患者のうちLVEF<40%のHFrEFが37.4%、40%≦LVEF<50%のHFmrEFが17.5%、LVEF≧50%のHFpEFが45.1%であったことが報告されました。
HFrEFだけでなく、過半数を占めるLVEFが40%超の患者に対する治療も重要であることが示されました。

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日本循環器学会と日本心不全学会による『2021年JCS/JHFSガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療』の心不全治療アルゴリズムにおいて、HFrEFの治療はACE阻害薬/ARB、β遮断薬、MRAが基本薬とされ、SGLT2阻害薬は基本薬に追加するものと位置付けられました。
また、HFmrEFの治療は個々の病態に応じて判断すること、HFpEFについてはうっ血に対する利尿薬と併存症に対する治療を行うこととされています。

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同ガイドラインでHFrEFの治療薬の一つとして言及されたSGLT2阻害薬は、最適な薬物治療が導入されている症候性でLVEF≦40%の慢性心不全患者に対する投与について、推奨クラスⅠとされました。

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なお、その他の治療薬については、『急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)』にて、HFrEFに対するACE阻害薬、ARB、β遮断薬、MRA、ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬が推奨クラスⅠとされました。

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HFpEFに対しては、利尿薬が推奨クラスⅠとされました。

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なお、日本循環器学会と日本心不全学会では、2023年6月に「心不全治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」を公開し、「心不全患者において、SGLT2阻害薬(ダパグリフロジンとエンパグリフロジン)は2型糖尿病の合併・非合併および左室駆出率にかかわらず、心不全イベントの抑制が報告されており、リスクとベネフィットを十分に勘案して積極的にその使用を検討する。」や「心不全患者では利尿薬を使用する頻度が高く、SGLT2阻害薬の併用により過度の体液量減少をきたすリスクがあるため、腎機能や電解質等のモニタリングを適宜行い、必要に応じて利尿薬や降圧薬の用量を調節する。」等、適正使用を図るための6項目を示しました。
このRecommendationが公開された背景の一つを、両学会では、「SGLT2阻害薬は、心血管疾患のハイリスク2型糖尿病患者における心不全予防のみならず、2型糖尿病の合併や左室駆出率を問わず心不全患者における標準的治療薬の一つとして、その使用機会が増加している。」としています。

海外のガイドラインによる治療推奨

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一方、海外では、2023年 8月、『2023年 欧州心臓病学会(ESC)急性・慢性心不全診療ガイドライン フォーカスアップデート版』が公開され、HFmrEFおよびHFpEFに対する推奨治療がアップデートされました。
症候性HFmrEF患者に対しては、SGLT2阻害薬であるダパグリフロジンまたはエンパグリフロジンが推奨クラスⅠ、エビデンスレベルAであると報告されました。
さらに、HFmrEF患者のマネージメントでは、体液貯留に対する利尿薬と、ダパグリフロジン/エンパグリフロジンが推奨クラスⅠとされました。
なお、ジャディアンス10mgの本邦における承認された効能又は効果(一部抜粋)は「慢性心不全 ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。」であり、諸外国での承認状況とは異なります。

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また、症候性HFpEF患者に対して、SGLT2阻害薬であるダパグリフロジンまたはエンパグリフロジンが推奨クラスⅠ、エビデンスレベルAであると報告されました。HFpEF患者のマネージメントでは、体液貯留に対する利尿薬、ダパグリフロジン/エンパグリフロジン、病因と心血管および非心血管の併存疾患に対する治療が推奨クラスⅠとされました。
なお、ジャディアンス10mgの本邦における承認された効能又は効果(一部抜粋)は「慢性心不全 ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。」であり、諸外国での承認状況とは異なります。

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今回のESCガイドライン フォーカスアップデート版では、急性心不全による入院をした患者の退院前および退院後早期のフォローアップに対する推奨治療もアップデートされており、退院前および退院直後のフォローアップ診療期間に、エビデンスに基づいた治療の迅速なタイトレーションが推奨されるとしています。
なお、ジャディアンス10mgの本邦における承認された効能又は効果(一部抜粋)は「慢性心不全 ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。」であり、諸外国での承認状況とは異なります。

ジャティアンスのエビデンス

左室駆出率が保たれた(LVEF>40%)慢性心不全患者を対象とした国際共同第Ⅲ相・検証試験
(EMPEROR-Preserved試験)

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ここからは、ESCガイドライン フォーカスアップデート版に引用されたSGLT2阻害薬であるジャディアンスのLVEF 40%超の慢性心不全患者に対するエビデンスをご紹介します。
EMPEROR-Preserved試験では、心血管死または心不全による入院の初回発現までの期間などを解析しました。

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主要評価項目では、ジャディアンス10mgをACE阻害薬、ARB、ARNI、β遮断薬、MRA等に追加することで、心血管死または心不全による入院の初回発現のリスクの有意な低下が検証されました[HR=0.79、p<0.001(対プラセボ群)、Cox比例ハザード回帰モデル]。

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重要な副次評価項目では、ジャディアンス10mgを追加することで、初回および再発の心不全による入院のリスクの有意な低下が検証されました[HR=0.73、p<0.001(対プラセボ群)、Joint Frailtyモデル]。

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【参考情報】
その他の評価項目(探索的)であるeGFR(CKD-EPI)crのベースラインからの調整平均値の変化量は、ジャディアンス10mg群で-3.3mL/min/1.73m2、プラセボ群で-5.7mL/min/1.73m2でした。

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治験薬投与期間中央値1.91年での有害事象の発現割合は、ジャディアンス10mg群で85.9%、プラセボ群で86.5%でした。
ジャディアンス10mg群における主な有害事象は、心不全、尿路感染、低血圧、高血圧、転倒などでした。
重篤な有害事象、投与中止に至った有害事象、死亡に至った有害事象は表のとおりでした。

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EMPEROR-Preserved試験の結果を受けて、2022年4月に電子添文の改訂が行われ、左室駆出率を問わず、慢性心不全の治療にジャディアンスをご処方いただいています。
なお、慢性心不全に対するジャディアンスの用法及び用量は1日1回10mgの経口投与です。

※ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。

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先生が診療されている慢性心不全の患者さんで、LVEF 40%超で利尿薬を服用している方や、LVEF 40%以下で標準治療を受けている方はいらっしゃいますか。
そのような方に、リスク低減を考慮した治療選択肢としてSGLT2阻害薬であるジャディアンスの追加投与をご検討ください。

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