2型糖尿病治療におけるClinical Inertiaの問題

サイトへ公開: 2022年10月27日 (木)
  • 2型糖尿病治療の目標は、血糖や血圧、脂質代謝など多因子を包括的に管理することで合併症の発症・進展を阻止して、糖尿病のない人と変わらない寿命とQOLを確保することです。
  • Clinical Inertiaを招く要因を医療者側で認識するとともに、医療者側から患者さんへ、次の一手となる治療選択肢や適切な情報提供を行うことが重要です。
  • ジャディアンスの有効性・安全性について検討した国際共同試験EMPA-REG EXTENDᵀᴹ MONOにおいて、ジャディアンス群ではプラセボ群に比べてHbA1cの有意な低下が認められています。
  • トラディアンス配合錠の特定使用成績調査の最終解析結果は、トラディアンス配合錠の長期使用時の安全性および有効性が検討された試験です。
     

2型糖尿病の治療で目指すべきこと

糖尿病治療の目標は、血糖や血圧、脂質といった多因子を包括的に管理し、合併症の発症・進展を阻止して糖尿病のない人と変わらない寿命とQOLを確保することです。
糖尿病のある人における初発イベントは心疾患・腎疾患が多く、高血糖に加えて、糖尿病と心・腎疾患に共通したリスク因子である脂質異常症、高血圧、喫煙、肥満などの影響が示唆されます。代謝・心臓・腎臓は互いに関連しており、糖尿病治療の目標を達成するためには、将来の心腎のイベントを早期から意識して複数のリスク因子を包括的に治療することが重要です(図1)。


 

2型糖尿病の治療で目指すべきこと

図1

 

Clinical Inertiaの問題と、その解決策

糖尿病におけるClinical Inertiaとは、2型糖尿病と診断された人に対して、薬物治療などの適切な治療、ならびに食生活や運動習慣への適切な介入がなされない状態を指します。また、治療目標に到達されていないにもかかわらず、それまでの治療が漫然と継続されてしまう状態も含まれます。

 

Clinical Inertiaの問題と、その解決策

 

Clinical Inertiaを招く原因として、患者さん自身が服薬アドヒアランスを維持できない場合もありますが、医療者が患者さんのリスクを考えるあまり治療強化に消極的であったり、目標設定自体ができていなかったりという場合もあります。さらに、注射薬の中でもインスリンを導入する場合などに、その指導に割く時間が取れない、人員不足のため注射が導入できない、という現実もあると思います(図2)。

「糖尿病治療ガイド2022」の中では、2型糖尿病で早急にインスリン注射が必要とは言えないインスリン非依存状態の患者さんに対して、段階的な治療が提唱されています。例えば、血糖管理不良で初診となった患者さんのうち、HbA1cが9%未満の方であれば薬物療法を用いなくても、病態や合併症に沿った、食事療法、運動療法、生活習慣の改善を行うだけでも血糖マネジメントが維持される場合があります。しかしながら、血糖マネジメントが不達成の場合は、漫然と治療を続けるのではなく、低血糖のリスクの少ない経口血糖降下薬や、GLP-1受容体作動薬療法なども選択するとされています。このように、医療者側からの、次の一手を考えた適切な情報提供を行うことが大切です(図3)。
 

Clinical Inertiaの問題と、その解決策02

図2

 

Clinical Inertiaの問題と、その解決策03

図3 

 

2型糖尿病に対するジャディアンスのエビデンス:血糖降下作用(EMPA-REG EXTENDTM MONO)

SGLT2阻害薬ジャディアンスの有効性・安全性について検討した国際共同試験であるEMPA-REG EXTENDᵀᴹ MONOから、ジャディアンスの血糖降下作用のデータをお示しします。
試験概要はこちらに示す通りで、2型糖尿病のある人に対してジャディアンス10mgまたは25mgを1日1回投与し、その有効性や安全性をプラセボあるいはシタグリプチン100㎎と比較検討を行いました(図4)。  
ジャディアンス群およびシタグリプチン群では、投与76週後におけるベースラインからのHbA1cの調整平均変化量は、ジャディアンス10mg群で-0.65%、25mg群で-0.76%、シタグリプチン100mg群で-0.53%と、いずれもプラセボ群と比べて有意に低下しました(図5)。
本試験における有害事象は、ジャディアンス10mg群76.8%(172/224例)、ジャディアンス25mg群78.0%(174/223例)、シタグリプチン群72.2%(161/223例)、プラセボ群76.4%(175/229例)に認められました。
投与中止に至った有害事象はそれぞれ4.9%(11/224例)、4.0%(9/223例)、4.9%(11/223例)、6.6%(15/229例)に認められました。
重篤な有害事象は、ジャディアンス10mg群11.2%(25/224例)、ジャディアンス25mg群7.2%(16/223例)、シタグリプチン群8.1%(18/223例)、プラセボ群10.0%(23/229例)に認められました。 
主な有害事象は、高血糖がジャディアンス10mg群8.9%(20/224例)、ジャディアンス25mg群4.9%(11/223例)、シタグリプチン群12.6%(28/223例)、プラセボ群27.5%(63/229例)、鼻咽頭炎がそれぞれ 14.3%(32/224例)、11.2%(25/223例)、12.1%(27/223例)、11.8%(27/229例)に認められました(図6)。

 

※投与中止に至った有害事象および重篤な有害事象の内訳について、論文に記載はありませんでした。

 

2型糖尿病に対するジャディアンスのエビデンス:血糖降下作用(EMPA-REG EXTENDTM MONO)

図4

 

2型糖尿病に対するジャディアンスのエビデンス:血糖降下作用(EMPA-REG EXTENDTM MONO)02

図5

 

2型糖尿病に対するジャディアンスのエビデンス:血糖降下作用(EMPA-REG EXTENDTM MONO)03

図6

 

また、心血管イベントのリスクを有し、2型糖尿病のある人7,020例を対象として、標準治療に上乗せした場合のジャディアンス群とプラセボ群との心血管系疾患の罹患および死亡への長期の影響を調べる目的で、EMPA-REG OUTCOME®試験が実施されました。
【参考情報】
主要評価項目は3P-MACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中)の発現率、副次評価項目は4P-MACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、不安定狭心症による入院)の発現率です。腎疾患による死亡を含む腎複合イベントへの影響に注目すると、標準治療にジャディアンスを上乗せすることで、顕性アルブミン尿への進展について、プラセボ群16.2%(330/2,033例)に対してジャディアンス群11.2%(459/4,091例)と有意に低いリスクが観察されました1)2)

本試験における有害事象は、ベースライン時のeGFR<60mL/min/1.73㎡の患者において、プラセボ群95.1%(577/607例)、ジャディアンス群91.3%(1,107/1,212例)、ベースライン時のeGFR≧60mL/min/1.73㎡の患者において、プラセボ群90.5%(1,562/1,726例)、ジャディアンス群89.9%(3,121/3,473例)に認められました。
投与中止に至った有害事象はベースライン時のeGFR<60mL/min/1.73㎡の患者において、プラセボ群27.5%(167/607例)、ジャディアンス群22.9%(278/1,212例)、ベースライン時のeGFR≧60mL/min/1.73㎡の患者において、プラセボ群16.6%(286/1,726例)、ジャディアンス群15.4%(535/3,473例)に認められました。
重篤な有害事象はベースライン時のeGFR<60mL/min/1.73㎡の患者において、プラセボ群52.9%(321/607例)、ジャディアンス群45.5%(552/1,212例) 、ベースライン時のeGFR≧60mL/min/1.73㎡の患者において、プラセボ群38.6%(667/1,726例)、ジャディアンス群35.6%(1,237/3,473例)に認められました。死亡はそれぞれ6.6%(40/607例)、5.6%(68/1,212例)、4.6%(79/1,726例)、3.1%(108/3,473例)でした。
主な有害事象は、低血糖がベースライン時のeGFR<60mL/min/1.73㎡の患者において、プラセボ群38.4%(233/607例)、ジャディアンス群32.3%(391/1,212例)、ベースライン時のeGFR≧60mL/min/1.73㎡の患者において、プラセボ群24.2%(417/1,726例)、ジャディアンス群26.3%(912/3,473例)、尿路感染がそれぞれ21.7%(132/607例)、22.9%(278/1,212例)、16.9%(291/1,726例)、16.2%(564/3,473例)でした1)

 ※投与中止に至った有害事象および重篤な有害事象の内訳について論文に記載はありませんでした。

 

トラディアンス配合錠の安全性と有効性:日本における特定使用成績調査(PMS)最終解析

ジャディアンスには、DPP-4阻害薬トラゼンタとの配合薬であるトラディアンス配合錠があり、そのなかでも、トラディアンス配合錠AP(トラゼンタ5mg・ジャディアンス10mg)、トラディアンス配合錠BP(トラゼンタ5mg・ジャディアンス25mg)という2つの規格が存在します。トラディアンス配合錠の特定使用成績調査(PMS)は、日常臨床におけるトラディアンス配合錠の長期使用時の安全性・有効性が検討された試験です。日常臨床における、安全性・有効性に関する情報は治療の選択肢を検討するうえでも重要です。

 

研究デザイン

本調査は、トラディアンス配合錠APまたはBPを投与開始した日本人で2型糖尿病のある人1,164例を対象に、電子症例報告書に基づく1年間の前向き観察試験として実施されました。国内159施設において2019年1月に登録開始し、2021年4月にデータ収集を完了しました。安全性解析対象集団は、2型糖尿病のある人1,146例で構成されています(図7)。
 

研究デザイン

図7

 

患者背景

安全性解析対象集団の患者背景をお示しします。平均年齢は63.8歳、75歳以上は22.1%(253例)でした。男性65.62%、BMI 25kg/m²以上は53.14%で、HbA1c平均値は7.66%でした(図8)。
また、eGFRの平均値は74.43mL/min/1.73m2で、トラゼンタとジャディアンスの両剤を投与されていた患者さんも23.73%含まれており、ビグアナイドを投与されていた患者さんが40.75%でした(図8)。

 

患者背景

図8

 

有害事象

トラディアンス配合錠APとBP両方を含めた全体集団では、重要な特定されたリスクはは1,146例中15例(1.31%)に発現が認められ、尿路感染7例(0.61%)、低血糖2例(0.17%)、尿中ケトン体陽性2例(0.17%)、性器感染1例(0.09%)、体液量減少1例(0.09%)、肝障害1例(0.09%)、多尿・頻尿1例(0.09%)でした。重要な潜在的リスクについては、発現が認められませんでした(図9)。
トラディアンス配合錠APの部分集団では、重要な特定されたリスクは1,017例中12例(1.18%)に認められ、トラディアンス配合錠BPの部分集団では、129例中3例(2.33%)に認められました(図9)。
安全性の主要評価項目である、試験全体の副作用の発現割合は、MedDRA Ver. 24.0を用いて解析され、副作用32例(2.79%)に認められ、アフタ性潰瘍1例(0.09%)、口渇1例(0.09%)、肝障害1例(0.09%)、膀胱炎4例(0.35%)、尿路感染3例(0.26%)、グリコヘモグロビン増加3例(0.26%)、尿中ケトン体陽性2例(0.17%)、血中クレアチニン増加1例(0.09%)、血中ブドウ糖増加1例(0.09%)、心電図異常1例(0.09%)、尿中ブドウ糖陽性1例(0.09%)、ヘマトクリット増加1例(0.09%)、糖尿病3例(0.26%)、低血糖2例(0.17%)、脱水1例(0.09%)、低カリウム血症1例(0.09%)、筋痙縮2例(0.17%)、頚動脈閉塞1例(0.09%)、意識消失1例(0.09%)、頻尿1例(0.09%)、陰部そう痒症2例(0.17%)、亀頭包皮炎1例(0.09%)、そう痒症1例(0.09%)でした。重篤な副作用は1例(0.09%)に認められ、頚動脈閉塞1例(0.09%)でした(図10)。

 

有害事象

図9

 

有害事象02

図10

 

【参考情報】体重への影響

体重への影響として、65歳未満では平均1.08kg減少、65歳以上75歳未満では平均1.00kg減少、75歳以上では平均1.17kgの減少が認められました(図11)。
 

【参考情報】体重への影響

図11 

 

血糖降下作用

HbA1cに関しては、65歳未満では平均0.49%減少、65歳歳以上75歳未満では平均0.19%減少、75歳以上では平均0.38%の減少が認められました(図12)。
 

血糖降下作用

図12

 

薬剤の切り替えに対して抵抗を示す患者さんもいますが、配合剤への切り替えは薬剤の投与数が減るので、患者さん側の受け入れが良くなる場合もあります。医療者側が患者さんに治療の次の一手をしっかりと説明・情報提供をして治療選択肢を検討していくことが、Clinical Inertiaを回避して糖尿病治療の目標を達成するために重要です。

 

Reference:

  1. Wanner C, et al. N Engl J Med. 2016; 375: 323-34.
    本試験はベーリンガーインゲルハイム社/イーライリリー社の支援により実施されました。
  2. Stamatouli AM, et al. Curr Diab Rep. 2016; 16: 131.
    本試験はベーリンガーインゲルハイム社/イーライリリー社の支援により実施されました。 
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