GPPとPsVの発症に寄与するシグナル伝達経路の違い

サイトへ公開: 2024年04月25日 (木)

本間 大 先生

監修: 
新井 達 先生 
聖路加国際病院 皮膚科 部長

1.はじめに

膿疱性乾癬(generalized pustular psoriasis; GPP)は、急激な発熱、倦怠感、浮腫といった全身症状とともに全身の皮膚が潮紅し、無菌性膿疱が多発する疾患です。GPPは希少な疾患であることから、治療や評価方法などは尋常性乾癬(psoriasis vulgaris; PsV)に準ずる形でなされてきました。しかし、全身症状の有無、皮疹の性状の違い、遺伝的背景、発症メカニズムの違いなどから、GPPはPsVとは異なる疾患であり、必要とされる患者ケアも異なると考えられるようになってきています1
ここでは、GPPとPsVの発症に寄与するシグナル伝達経路の違いについて解説します。

2.GPPとPsVの病態と病理組織学的特徴

PsVは紅斑、浸潤・肥厚、鱗屑、落屑といった皮膚症状を中心とする疾患です。PsVの典型例では境界明瞭で扁平に隆起した、銀白色の鱗屑を伴った紅斑がみられ、被髪頭部、肘頭、膝蓋などの機械的刺激を受けやすい部位に症状が好発します2)。また、PsVの病変部では、不全角化や角質肥厚が認められます(図12)
一方、GPPの典型例では、紅潮した皮膚を背景に多数の無菌性膿疱が全身にみられます。時に膿疱の融合した膿海を形成し、再発を繰り返すことが特徴です2)。病理組織学的には、表皮細胞間への好中球の集簇がみとめられ、Kogoj海綿状膿疱を特徴とする角層下膿疱を形成します(図12)

3.GPPとPsVの発現遺伝子の免疫学的な違い

PsVは炎症性角化症に分類されている疾患であるが、近年では獲得免疫が関与する炎症性自己免疫疾患と考えられており、IL-17、TNF-α、インターフェロン(IFN)-γなどの獲得免疫系で働くサイトカインを中心としたIL-17/IL-23シグナル伝達経路によって引き起こされると考えられています。一方で、GPPは自然免疫が関与する自己炎症疾患で、好中球、T細胞、樹状細胞、単球などの自然免疫系の細胞を活性化させるIL-36シグナル伝達経路によって引き起こされると考えられています3)4)
GPP、PsVの皮膚病変および健常者の皮膚組織を用いてトランスクリプトーム解析(転写物を網羅的に測定し、遺伝子発現の状態を解析する方法)を実施した研究において、GPPの病変部皮膚では自然免疫に関与する遺伝子、PsVの病変部皮膚では獲得免疫に関与する遺伝子の発現が亢進していたことが示されました(図25)
さらに、遺伝子発現を検討した結果、PsVと比較して、GPPの病変部皮膚では、IL-36シグナル伝達経路に関連するIL-1β、IL-36の発現レベルは高く、一方でIL-17A、IL-22、IL-23Aなどの発現レベルは低かったことが報告されています(図3、46)
以上の結果から、GPPの病変部皮膚では、PsVの病変部皮膚と比較して、IL-36シグナル伝達経路が活性化されており、それぞれの病態形成に関与するシグナル伝達経路のバランスが異なっていると考えられます6)

4.GPPとPsVにおける炎症経路のクロストークと炎症促進ループ

乾癬における皮膚炎症には、自然免疫と獲得免疫の両方が関与しており、3つの主要な炎症経路が連動してクロストークすることにより病態を形成していると考えられています7)。この3つの炎症経路とは、CCL20のフィードバックとIL-17、IL-23が関与する経路(IL-17経路)(図5A、赤点線)、CXCL9およびCXCL10のフィードバックと形質細胞様樹状細胞(pDC)、IFN-γ分泌T細胞(Th1およびTc1)が関与するⅠ型およびⅡ型IFN経路(IFN経路)(図5A、緑点線)、そしてCXCL1、CXCL2、CXCL8のフィードバックとIL-36、好中球が関与する経路(IL-36経路)(図5A、青点線)です。
IL-17応答はIL-36およびIFN応答と正のフィードバック機構を介して連動しており、また、IL-17応答はフィードフォワード増幅の一部としてIL-36応答の活性化を誘導します(図5B)。これらの3つの炎症経路のバランスとして、PsVではIL-17経路が優勢であり、GPPではIL-36経路が優勢になると考えられています(図5C7)
図5にお示しするように、乾癬の病態形成に関与するシグナル伝達経路のバランスはGPPとPsVで異なっています7)。GPPの病態発現においては、主に自然免疫に関与するIL-36が重要な役割を果たし、TNF-α、IL-12、IL-23、IL-17Aなどの獲得免疫に関与するサイトカインの病態発現への寄与は限定的であると考えられています1)

5.おわりに

皮膚症状が中心であるPsVと異なり、GPPは膿疱を特徴とする皮膚疾患というだけでなく、生命を脅かす全身性疾患であり、病理組織学的にも異なる表現型を示します。GPPの病変部皮膚では、PsVの病変部皮膚と比較して、自然免疫やIL-36シグナル伝達経路に関与する遺伝子が発現していました6)。IL-36シグナル伝達経路の活性化は、好中球の遊走やケラチノサイトの増殖などを誘導し、GPPの病態形成に深く関与します4)
乾癬における皮膚炎症では、自然免疫と獲得免疫の両方が関与しており、それぞれの炎症経路がクロストークすることにより正の炎症ループが形成されます3)4)。GPPにおける皮膚炎症には自然免疫系のIL-36が主に関与していると考えられており、GPPの治療においてはIL-36シグナル伝達を阻害することが重要となります3)4)8)
本稿でお示ししたように、発症に寄与するシグナル伝達経路のバランスがGPPとPsVで異なっているため、別の病態であるとの認識をもって診療にあたることが重要です。それぞれのシグナル伝達経路の違いを含めてGPPの発症メカニズムや特徴を深く理解し、病態に即した治療を選択することが必要であると考えます。

  1. Bachelez H, et al. Expert Rev Clin Immunol. 2022; 18: 1033-1047. 
    (本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。)
  2. 古江増隆(総編集). ここまでわかった乾癬の病態と治療. 中山書店: 東京; 2012.
  3. Schön M, et al. Front Immunol. 2018; 9: 1323.
  4. Marrakchi S, et al. Am J Clin Dermatol. 2022; 23(Suppl 1): 13-19. 
    (著者にベーリンガーインゲルハイム社より講演料、コンサルタント料等を受領している者が含まれます。)
  5. Young KZ, Sarkar MK, Gudjonsson JE. Exp Dermatol. 2023; 32: 1194-1203.
  6. Johnston A, et al. J Allergy Clin Immunol. 2017; 140: 109-120.
  7. Griffiths CEM, et al. Lancet. 2021; 397: 1301-1315.
  8. Reich K, et al. J Dtsch Dermatol Ges. 2022; 20: 753-771. 
    (本研究のメディカルライティングにおいてベーリンガーインゲルハイム社の支援を受けています。著者にベーリンガーインゲルハイム社より講演料、コンサルタント料等を受領している者が含まれます。)
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