糖尿病のある方の心不全リスクと SGLT2 阻害薬

サイトへ公開: 2022年03月29日 (火)

心不全を合併すると2型糖尿病のある方の予後が低下することが知られている通り1)、2型糖尿病のある方では、心不全予防を見据えた薬剤選択が望まれます。

国内外の学会が公開する糖尿病治療薬選択のアルゴリズムや、合併症予測ツールを用いた心不全リスクの考え方、SGLT2阻害薬の使用にあたって考慮すべき点について、原一雄先生にご解説いただきます。

【Q】SGLT2阻害薬の投与の必要性を慎重に検討すべき患者像とは?

【A】高齢者では、eGFRが30mL/min/1.73m²以上でも「老年症候群がある」に当てはまる場合、SGLT2阻害薬の投与の必要性を慎重に検討すべきだと考えます。

SGLT2阻害薬は、心不全予防を見据えた糖尿病治療として推奨されています2-3)。SGLT2阻害薬を安全に使用するためには、年齢と腎機能に注意して投与の必要性を検討すべきだと考えます。

図1

図1

高齢の糖尿病のある方におけるSGLT2阻害薬の有効性と安全性をまとめたレビュー論文では、高齢者におけるSGLT2阻害薬導入のためのアルゴリズムを公開し、「高齢」かつ「eGFRが30mL/min/1.73m²未満」の場合は原則SGLT2阻害薬を使用しないこと、「高齢」かつ「eGFRが30mL/min/1.73m²以上」でも老年症候群がある場合は、リスクとベネフィットを考慮して慎重投与とすることが望ましいことを示しました。このレビュー論文では、高齢であってもeGFRが30mL/min/1.73m²以上であり、老年症候群がない場合には使用制限はないものとしています。

ただし、ジャディアンスでは、2型糖尿病のある方に使用する場合、継続的にeGFRが45mL/min/1.73m²未満に低下した場合は、投与の中止を検討することとされていますので、使用する薬剤の添付文書の記載も含めた検討が必要です。

重要な基本的注意(一部抜粋)
<2型糖尿病>
腎機能障害患者においては経過を十分に観察し、継続的にeGFRが45mL/min/1.73m²未満に低下した場合は投与の中止を検討すること。

【Q】心不全発症リスクを低減させる因子はあるか?

【A】SGLT2が低発現の場合、心不全発症リスクが低いという研究報告があります(オッズ比0.97、95%信頼区間0.95~0.99、p=0.016、ロジスティクス回帰)。

心不全発症リスクが低くなる因子はあるのかという点では、SGLT2遺伝子多型の種類と心不全発症リスクの関連を検討した研究において、SGLT2の発現低下と関連する遺伝子多型を持つ群では心不全発症リスクが低かったと報告されています。

この結果から、SGLT2発現が通常よりも少ない状態が心不全発症リスク低減にかかわるのであれば、心不全リスク低減を見据えたSGLT2阻害薬の使用は、理にかなっているのではないかと考えます。

図2

図2

【Q】心腎イベント予防を見据えた糖尿病の治療介入とは?

【A】国内外の学会が示すアルゴリズムを参考に、病態に応じた治療薬を選択することが推奨されます。

心腎イベント予防を見据えた糖尿病の治療介入については、国内外の学会からアルゴリズムが公開され、病態に応じた治療薬選択が必要であることが示されています。

図3

図3

日本循環器学会と日本糖尿病学会が合同で公開したコンセンサスステートメントでは、心不全なしかつ心不全低リスクであっても、病態に応じて糖尿病治療薬を選択することとしています。

図4

図4

米国糖尿病学会の”Standards of Medical Care in Diabetes”では、2022年版で第一選択治療についての記載が改訂され、患者を中心とした治療上の要因・管理上のニーズを考慮して選択するという内容になりました。そのうえで、アテローム性動脈硬化性心血管疾患やそのハイリスク因子を有していたり、心不全、CKD等の心腎疾患を合併する糖尿病のある方では、HbA1cやメトホルミン併用の有無とは切り離して各疾患に対するエビデンスを有する治療薬を選択することを推奨しており、心不全に対してSGLT2阻害薬が推奨されています。

また、SGLT2阻害薬は、心腎疾患を合併しない患者に対しても低血糖リスクや体重増加を最小限に抑えたい場合に選択する薬剤の一つとして、明記されています。

2型糖尿病のある方の長期的なQOL維持に向けて、心不全予防を見越した患者像、病態を加味した適切な薬剤選択を検討してください。

【引用】

  1. Bertoni AG, et al.: Diabetes Care. 2004; 27(3): 699-703.
  2. 日本循環器学会・日本糖尿病学会 合同委員会編:糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント,南江堂,2020,P.59
  3. American Diabetes Association. Diabetes Care. 2022; 45(Suppl 1): S125-43.
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