糖尿病に忍び寄る心不全にどう立ち向かうのか
公益財団法人 心臓血管研究所 循環器内科
心不全担当部長/心臓リハビリテーション科担当部長
加藤祐子先生
![220207_1問1答vol.1_サムネイル](/jp/sites/default/files/inline-images/220207_1%E5%95%8F1%E7%AD%94vol.1_%E3%82%B5%E3%83%A0%E3%83%8D%E3%82%A4%E3%83%AB.jpg)
疫学調査でも糖尿病患者の心不全の合併率が高いことが報告された昨今1)、健康寿命の延伸を目指す糖尿病治療においては、心腎イベントの予防も含めた治療戦略が望まれています2)。
糖尿病患者が心不全を合併するリスクについて、発症リスクや予後、心不全予防を見据えた糖尿病治療の考え方を、心不全治療がご専門の加藤祐子先生にご解説いただきます。
【Q】2型糖尿病患者は、心不全を発症しやすいのか?
【A】2型糖尿病は、心不全の主要なリスク因子の一つであることが知られています。
2型糖尿病患者、および年齢・性別を一致させた非糖尿病患者を対象に心不全の発症率を検討した追跡調査では、すべての年齢層で2型糖尿病患者の方が非糖尿病患者よりも心不全発症率が高く、罹病期間の長い糖尿病は心不全の独立したリスク因子であることが示されました。また、心不全リスク因子を特定した試験では、糖尿病は、冠動脈疾患、高血圧に次ぐ心不全のリスク因子であったことも報告されています。
このように、2型糖尿病患者の多くは心不全のリスクを抱えていると考えられます。
図1
![2型糖尿病患者は、心不全を発症しやすいのか?](/jp/sites/default/files/inline-images/1_3.jpg)
【Q】糖尿病患者が心不全を合併すると、予後はどの程度悪化するか?
【A】死亡率を検討した結果、心不全合併例では32.7/100人年、心不全非合併例では3.7/100人年でした(ハザード比10.6、95%信頼区間 10.4~10.9)。
65歳以上の糖尿病患者を対象として5年間の予後を検討した追跡調査では、心不全を発症した患者の死亡率は心不全を発症しなかった糖尿病患者より高く(ハザード比10.6)、生存率は有意に低いことが示されました(p<0.001、log rank test)。
図2
![糖尿病患者が心不全を合併すると、予後はどの程度悪化するか?](/jp/sites/default/files/inline-images/2_4.jpg)
【Q】糖尿病患者において発症リスクが高い心血管疾患とは?
【A】初回の心血管疾患イベントとして発症リスクが高いのは、心不全とCKDでした。
心血管疾患のない日本国内の2型糖尿病患者を4.5年間追跡した調査では、心不全とCKDが初発の心血管疾患として発症リスクが高いことが示されました。
心血管疾患を合併していない2型糖尿病患者でも、心不全およびCKDは脳卒中・心筋梗塞・PADよりも早期から発症リスクが高いことが懸念されます。
図3
![糖尿病患者において発症リスクが高い心血管疾患とは?](/jp/sites/default/files/inline-images/3_3.jpg)
【Q】従来の血糖管理により心不全発症リスクは抑制できるか?
【A】厳格な血糖管理を行っても、心不全発症リスクの抑制はできないと考えられます。
血糖管理を厳格に行った群とそうでない群において心血管疾患の発症リスクを調査した臨床試験のメタ解析が報告されています。その中で、厳格な血糖管理を行った群であっても、心不全による入院および心不全による死亡の抑制について、有意な結果は得られませんでした。
厳格な血糖管理のみでは、心不全の発症リスク抑制にはつながらないため、心不全予防を見据えた治療が必要であると考えます。
図4
![従来の血糖管理により心不全発症リスクは抑制できるか?](/jp/sites/default/files/inline-images/4_3.jpg)
【Q】心不全予防を見据えた治療において、重要なことは?
【A】早期から心不全予防を見据えた治療を行うことが重要です。
心不全は、多くの場合、慢性・進行性であり、急性増悪を反復することで、徐々に重症化し、心不全ステージから治療抵抗性心不全ステージへと進展することが知られています3)。
特に、2型糖尿病はそれ自体が心不全のリスク因子であると考えられること4-5)、心不全を合併した2型糖尿病患者は予後が悪化するリスクが高いこと6)から、2型糖尿病患者の健康寿命延伸のためには、早期から心不全予防を視野に入れた2型糖尿病治療を行うことが望ましいと考えます。
図5
![心不全予防を見据えた治療において、重要なことは?](/jp/sites/default/files/inline-images/5_2.jpg)
【引用】
- Nichols GA, et al.: Diabetes Care. 2001; 24(9): 1614-9.
- 日本循環器学会・日本糖尿病学会 合同委員会編:糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント,南江堂,2020.
- 日本循環器学会, 日本心不全学会.: 2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版. 急性・慢性心不全診療, p12, 2021年3月26日発行
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Tsutsui.pdf (2022年1月15日閲覧) - Nichols GA, et al.: Diabetes Care. 2001; 24(9): 1614-9.
- Komanduri S, et al.: J Community Hosp Intern Med Perspect. 2017; 7: 15.
- Bertoni AG, et al.: Diabetes Care. 2004; 27(3): 699-703.