SGLT2阻害薬の適正使用 糖尿病ケトアシドーシス編

サイトへ公開: 2020年10月06日 (火)
糖尿病ケトアシドーシス編

 

SGLT2阻害薬は多くのエビデンスの集積により、その有用性が世界的に注目されており、使用患者さんが増え続けている糖尿病治療薬であります。一方で、従来の糖尿病治療薬とは異なる作用機序を有しているため、SGLT2阻害薬特有の副作用に注意が必要です。なかでも糖尿病ケトアシドーシス(diabetic ketoacidosis;DKA)は、初期治療を誤ると生命にかかわる可能性が高いため、注意すべき副作用となります。今回は糖尿病ケトアシドーシスの病態を解説したうえで、SGLT2阻害薬を処方する際の留意点をご紹介いたします。

 

DKAの病態
DKAのリスクの高い患者
SGLT2阻害薬によるDKA増加の機序
DKAの注意をすべきSGLT2阻害薬服用中の患者像

 

DKAの病態
 

■図1

DKAの病態

 

糖尿病ケトアシドーシスDKAとは、インスリン欠乏や極度のインスリン作用不足と、グルカゴンなどのインスリン拮抗ホルモンの過剰分泌により、高血糖と高ケトン血症、アシドーシスをきたした状態です。
症状としては、全身倦怠感や口渇などの高血糖症状に加えて嘔気・嘔吐、腹痛や過呼吸などがあり、処置が遅れると昏睡に至ることもあります。
DKAの患者さんは、入院の上、脱水と電解質異常への対処、インスリン少量持続静注を開始します。

 

DKAのリスクの高い患者
 

■図2

DKAのリスクの高い患者

 

DKAが臨床で多くみられるのは1型糖尿病のある方になります。1型糖尿病の発症時のほかに、インスリンの過度の減量や打ち忘れや自己中断に伴うケースで多く認められます。また、心血管病発症時、大量飲酒時や、薬剤が誘因となるケースもあります。
なお、2型糖尿病のある方で多いのは清涼飲料水など大量の糖質摂取により起こるソフトドリンクケトーシスによるものですが、1型糖尿病患者同様インスリン分泌能が低下してしまった患者では1型糖尿病と同様の誘因で起こります。

SGLT2阻害薬によるDKA増加の機序
 

■図3

DKA増加の機序

 

SGLT2阻害薬によるDKA発症の機序には、本剤ならではの特徴があります。
SGLT2阻害薬を投与すると、尿糖排泄増加により血糖および血中インスリンが低下し、グルカゴン/インスリン比が増加します。その結果、肝臓では血糖低下を補うように糖産生が増加します。脂肪組織では脂肪分解が亢進し産生された遊離脂肪酸が肝臓でケトン体に変わっていきます。SGLT2阻害薬により、全身エネルギー代謝としてはブドウ糖利用から脂質利用の割合が増え、増加したケトン体もエネルギー源として心臓などに好影響を与えることが報告されています。
しかし、そのような状況のなかで、不適切なインスリン減量/中断や極端な糖質摂取不足、脱水などの誘因により、この流れが増強されると、酸性物質である血中ケトン体が急増しDKAが発症します。有益とも考えられているケトン体を増加させ過ぎないことが重要です。
 

■図4

本剤ならではの特徴があります

 

特にSGLT2阻害薬を服用中の患者さんでは、尿糖排泄作用のため高血糖はきたさず正常血糖ケトアシドーシス(Euglycemic DKA)を呈するケースが報告されており、SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendationにおいても注意喚起されています(SGLT2阻害薬内服中のDKAの35.2%1))。
嘔気などのDKAの兆候を見逃さないこと、血糖が正常でもDKAを除外しないこと、通常のDKAと治療方法が異なることに注意が必要です。
通常の処置に加えて、不足した糖質とインスリン、両方の追加投与が必要になります。ケトアシドーシスになる前のケトーシスの状況では、在宅での対処として、30g程度の炭水化物摂取と追加インスリンの投与が米国・カナダでは推奨されています。
 

1) Bonora BM, et al. Diabetes Obes Metab. 2018;20: 25-33.

DKAの注意をすべきSGLT2阻害薬服用中の患者像
 

■図5

阻害薬服用中の患者像

 

DKA回避のためには、明らかになっているこれらの原因や誘因をできるだけ取り除いていくことが重要です。とくに注意すべきはインスリン分泌能が極端に低下した患者さんですので、2型糖尿病として治療中の患者さんに対しても、一度は空腹時血清Cペプチドを測定して患者さんのインスリン分泌能を評価しておきましょう。
SGLT2阻害薬内服中は、インスリン不足のほかに糖質不足や脱水も重要な誘因リスクとなりますので、周術期やシックデイなどの際の一時休薬を必ず守りましょう。
SGLT2阻害薬は血糖降下や体重減少だけではなく、様々な代謝への好影響、心血管イベントや腎機能低下、脂肪肝などに対する影響が報告されています。SGLT2阻害薬のベネフィットを最大限に活かすために、すでに明らかになっているリスクを理解し最小限に抑えることが必要です。より早期から幅広い2型糖尿病のある方に有効かつ安全に使用しましょう。

 

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