糖尿病治療の目標達成において SGLT2 阻害薬の果たす役割
原先生は、主に東京大学や東京医科大学にて 2 型糖尿病遺伝子の個体レベルでの機能解析などのご研究に従事されたのち、平成 28 年より自治医科大学附属さいたま医療センター 内分泌代謝科の教授に就任され、多岐にわたる学会にてご活躍されております。
糖尿病治療の目標は”健康な人と変わらない人生を送ること”とされていますが、治療薬の選択肢が多く、悩む場面も増えてきました。2 型糖尿病患者さんの健康寿命を考えた際、2 型糖尿病治療の初期にSGLT2阻害薬を選択する際のメリットと注意点についてご解説いただきます。
糖尿病の治療目標と集学的管理の重要性
2020年5月より、糖尿病治療の目標は健康な人と変わらない人生となりました。このためにはStigmaや社会的不利益, いわれない差別の除去のためのadvocacy活動や、高齢化によって増加しているサルコペニア,フレイルなどの併存症の予防や管理にも気を配りながら、これまで通り糖尿病の合併症を起こさせないための治療を進めていく必要があります。
ひとたび合併症を起こしてしまうと患者さんのQOLが下がり、その後の人生に影響を与えてしまいます。
図1
そこで合併症を起こさせないためには、血糖だけでなく、血圧や脂質代謝のコントロールに加え、適正体重の維持および禁煙の遵守といった集学的な治療が重要であり、そのことを明らかにした日本におけるエビデンスのひとつとして、J-DOIT3があります。
45~69 歳、高血圧および/または脂質異常症を伴うHbA1c6.9%以上の日本人2型糖尿病患者2,542例を対象とし、強化療法群と従来治療群に割り付け、従来治療群に対するイベントリスク減少率を検証しました。
8.5 年間の追跡の結果、血糖、体重、血圧、脂質を厳格にコントロールした強化療法群では、細小血管合併症や大血管合併症を抑制しました。
図2
日本人2型糖尿病患者における初イベント
また、最近の報告では日本人2型糖尿病患者における初イベントの内訳は、CKDと不全が脳卒中や心筋梗塞、末梢動疾患と比べても多く、合計で70%にも及んでいました。他の疫学研究でも報告されているように日本では 心筋梗塞や末梢動脈疾患の発現割合は欧米より低く、脳卒中が多い事が分かりますが、それよりもCKDや心不全の発現割合が多い事が明らかになっています。
図3
心・腎・代謝連関を考慮した治療戦略
ADVANCE試験においても、尿中アルブミン排泄量の増加やeGFRの低下が心血管疾患による死亡リスク、腎イベントの発症リスクに影響していることが示されています。
このように、1 つの臓器機能障害は、他の臓器へ複合的に悪影響を及ぼすことが知られていますが、同時に、1 つの臓器機能改善は、他の臓器へ好影響をもたらすことも明らかになっています。
図4
では、どのような糖尿病治療薬が望ましいか
昨年より糖尿病治療ガイドにおいても、低血糖リスクや体重への影響を加味した表が作成されました。それでもなお、選択肢は膨大であり、先生方も治療薬の選択に悩まれる場面も多いのではないでしょうか 。
病態や患者背景を考慮して最終決定する事になると思いますが、これまで述べたような最新のエビデンスを臨床に取り入れ、糖尿病患者さんは膵臓をはじめとした臓器障害のリスクが高い、あるいは既に進行している可能性があるという前提で考え、できるだけ将来のイベントリスクを最小化できる薬剤を選択したいと思っています。
図5
また、日本の糖尿病患者さんにおいては、約9割が2種類以上の薬剤を服用していることが明らかになっています。
服薬アドヒアランス、残薬の問題は多くの先生方が意識されているところではないでしょうか。
これらの点を考慮すると、ジャディアンスはアジア人を含めた様々なエビデンスを有している事やトラディアンスという増量可能な配合錠を有する意味で、早期から、長期的な治療を見据えた際の有用な選択肢のひとつです。
図6
また、配合錠を検討した際DPP-4阻害薬から始めるべきか、SGLT2阻害薬から始めるべきか、もよく議論されるポイントです。
最近の論文では、薬物未治療の方を対象に、最終的な組合せとしては一緒であるにも関わらずSGLT2阻害薬からスタートしたほうが良好な血糖コントロールが継続した結果も示されています。1)
図7
ジャディアンスの投与を避けるべき患者
当然、SGLT2 阻害薬を避けるべき患者も存在します。
例えば外来に歩いて来ることができないご高齢の患者さんのような、フレイル・サルコペニアが懸念される患者さん、服薬やシックデイ対応を1人で管理する事が難しい認知機能低下が懸念される患者は避けるようにしています。
処方時には、陰部の感染症対策のために清潔を保つように注意を促し、服薬開始時には患者さんに応じて多尿につながらない程度の適度な水分補給をお伝えすることもあります。
図8
まとめ
糖尿病治療の際には、病態や患者背景に加えて、いかに将来のイベントリスクを最小化できるか、健康な人と変わらない人生を歩んで頂きたいという観点から、ジャディアンスという薬剤は有用な選択肢と考えています。
【引用】
- Takihata M et al. Expert Opin Pharmacother. 2019 Dec;20(17):2185 -2194